Showcase Gig 代表取締役 新田剛史 Showcase Report

Blog コラム 2016/10/19

モバイル決済は新たな購買機会の創出へ貢献するだけでなく、 高度なマーケティングツールへ変貌する武器にもなるだろう

■スマホ時代の到来が国内モバイル決済普及の障壁に
日本におけるモバイル決済は2006年の「モバイルSUICA」、2008年の「おサイフケータイ」をはじめとして世界でも先駆けとなってきました。非接触で支払いが行える形式は利便性も高く、いわゆる“ガラケー”の全盛期には、このまま大きく普及していくものとみなされました。ただし、ここでの決済認証の役割を果たしたのはFeliCaチップでした。これを搭載しないスマートフォン、特にiPhoneの普及にともない、一瞬近づいたかに思われた「おサイフ」と「ケータイ」の距離は離れてしまいました。

一方でモバイル決済については日本よりも後発のアメリカでは、2014年からアップル社のApple Pay、グーグル社のAndroid Payが始まり、スマートフォンにおける決済については日本よりもリードし始めました。クレジットカード浸透率の高いアメリカでは、日本よりもモバイル決済によるキャッシュレスペイメントが普及する下地があったとも言えます。それに対して日本人の現金重視志向は強く、クレジットカード対応などもインバウンドの波が押し寄せて初めて考え出した、という事業者も少なくありません。SuicaやWAONなど電子マネーは広がっていますが、iPhoneをはじめとする日本でシェアの高いスマートデバイスががこれに長らく対応しなかったことで、日本はアメリカだけでなく、イギリス、中国などにもモバイル決済普及という観点では後れを取っています。

■潮目が変わった日本のモバイル決済
しかしここ数年、日本の小売店とモバイル決済を取り巻く状況は、大きく変化を始めています。
まずはカード決済をはじめとするキャッシュレス決済の普及です。訪日外国人の急増に伴い、「クレジットカードが使えない」ことが観光客の大きな不満としてクローズアップされるようになりました。東京オリンピックに向けて、海外からの渡航者は今後も増えていくことが予想されています。クレジットカードでの決済は、日本では十数%程度ですが、韓国や米国など普及の進んだ国では7割近くと、現金での決済の方が珍しい国も存在します。外国人観光客の関心も特定店舗での「爆買い」から「観光、滞在」に変化し、今まで以上に幅広い業種業態でキャッシュレス決済のニーズが高まると考えられ、2014年末に経済産業省から2020年に向けたキャッシュレス化の方針が発表されるなど、官民を挙げてキャッシュレス決済の普及に取り組む機運が高まっています。観光以外の消費においてもポイントの貯まるハウスカードの普及により、コンビニやスーパーでの少額決済へのカード利用が一般的になりつつあります。更に、従来カード決済を受け入れていないことが多かった小規模店舗においても、低価格のタブレット型POSの普及により、同時にクレジットカードリーダーを導入するケースが増えてきています。例えばスクエアや楽天スマートペイなどの、スマートフォンやタブレットPOSのイヤホンジャックに差し込むだけの手軽なカードリーダーも普及しており、現金と比べても手間もコストもかからずに対応できるようになっています。
もう一つはスマートフォン・スマートフォンからの購買行動の普及です。国内のEC市場が堅調に拡大していることに加え、スマートフォンの普及により、販売チャネルも一昔前のPCからスマートフォンへの移行が進んでいます。サイトによっては販売の9割がスマートフォンからというケースもあり、多くの人にとってスマートフォンが購買のハブとして機能し始めています。
このように、受入側・利用側双方で準備が整いつつあるというのが、日本におけるモバイル決済環境の現状と言えるでしょう。
今後、欧米や中国で導入が先行していたApplePayやAndroid Payが、日本でも導入されると予測されており、モバイル端末(スマートフォン)で店頭決済を行うことがますます当たり前の流れになっていくと考えられます。

■モバイル決済とマーケティング
なぜ、モバイル決済はこれほど注目されているのでしょうか。
それは、顧客が商品を購入した際の購買・決済情報と購入した顧客の情報を1つのIDで紐づけることで、その情報に基づいた個別顧客へのダイレクトマーケティングを行ったり、マーケティングデータとして意味のある形でのデータの蓄積を今までと比べ、はるかに容易に行うことができるようになるからです。
決済機能をモバイルデバイスに持たせることができれば、その同じデバイスに情報を配信したり、販促を打つことが可能になります。顧客を追跡し、情報発信することができるようになるのです。例えばコーヒーを1杯購入した顧客が、キャンペーン情報の配信で店を思い出して再来店したり、後日ECで豆を購入する可能性もあります。更に、単純な販促上の効果も期待できます。現金決済よりカード決済のほうが20%程度購入金額が増加すると言われていますが、仕組み上モバイル決済でも同様の傾向が期待できるでしょう。
このように一度の決済を販促や品揃えにつなげ、顧客へのきめ細やかなコミュニケーションで来店や購入を促進していく、デジタルCRMを可能にする仕掛けとして、モバイル決済は大きな可能性を持っています。

現在では訪日外国人の増加や若者を中心としたカード決済へのニーズ、50%を超えたスマートフォンの浸透率、エンターテインメント分野などでの課金が普通になるなど、スマートフォンで何らかの決済をすることに抵抗はなくなりつつあります。小売業の戦略的ツールとして、モバイル決済を利用した仕掛けの導入を検討するには十分なタイミングになってきたといえるでしょう。

■自店舗に合った決済ツールの導入のために
大手に限らず小売業全般にとって、モバイル決済導入を検討するには最適なタイミングです。では一体、どのようなツールを導入すべきなのでしょうか。

一口にモバイル決済と言っても様々な実現方式が存在します。最もハードルが低いのがモバイルECでのカード決済ですし、店頭においてはバーコードなどを利用した光学式のプリペイドカードが普及を始めています。更に進んだところでは、Apple Payのようなモバイルに搭載されたICチップによる非接触決済方式が存在します。国内だけでなく海外に目を向けると、モバイルに最適化した決済サービスも存在し、インバウンド客の誘致を目指すのであればそれらへの対応も視野に入れる必要があるでしょう。

まず客層です。インバウンド客対策をするのであれば、カード決済を容易にしておいたり、海外で普及している決済方法が利用可能な環境を整えること自体が大きなアドバンテージになり得ます。観光客向けには、欧米で普及するPayPal、中国をはじめとしたアジアで普及するAlipayやTenpay、WeChat Paymentなどの決済サービスの導入有効です。更にこれからのインバウンドマーケティングでは、旅行中の一度限りの買い物だけでなくその後の購入チャネルの整備や販促も重要です。帰国して再度商品を購入してもらうための越境ECへの対応を考えたとき、これらのグローバルペイメントを導入しておくことは大きな武器になりえます。海外ショッピングモールへの出店手続き、決済、商品発送までフルパッケージで代行支援するベンダーも増えており、越境ECを前提として最適な決済手法を選択することも可能です。更には、世界中同一アカウントで使えるタクシー配車アプリUberのように、業種ごとに特化したボーダレスな決済一体型サービスも当たり前になっていくと考えられることから、こういったサービスに対応するかどうかの検討も必要になるでしょう。まずは自店にとっての海外の想定顧客利用している決済サービス知ることが第一歩です。

客層の他に重要なポイントが、自店の業種・商品に合った仕組みを導入することです。
たとえばインバウンドで今注目されている予約決済、これは航空会社やホテル予約などではかなり前から実用化されています。オーダーの確定から集計・消込みなどの作業に比較的余裕のある決済サービスと言えるでしょう。しかし、これから導入が進むであろう飲食店やスーパーなどの回転の速い業種の決済をモバイル化するためには、数十秒毎に発生するオーダーをリアルタイムに処理できるスピードを備えたシステムとオペレーションの構築が必要です。提供する商品やサービスの処理スピードに最適なシステム導入はモバイル決済導入の成功を左右する重要なポイントです。

モバイル決済導入には課題も存在します。最もハードルになるのがカードリーダーの価格がまだ高額であることや、既存のPOSシステムの改修が必要になることで、これが原因で投資に二の足を踏むケースも多いようです。しかし今後のマーケット動向を考えると、決済の利便性を高めることによる単独の効果を見るのではなく、決済と同時にマーケティングとCRMを強化し、売上を作る攻めの戦略としてモバイル決済導入を位置づけ、積極的に投資するという選択肢も取り得る状況になってきていると考えても良いのではないでしょうか。

■顧客管理にカード決済履歴を活用する米国スターバックス
米国のスターバックスは、スマートフォンアプリのプリペイド決済が全売上の23%に達したと発表しています。顧客はアプリをダウンロードし、アプリ内のプリペイドカードにチャージ、店頭でプリペイドカードのアプリをスキャナーで読み取るだけで決済が終了します。アプリからの事前注文も昨年秋より全米8000店舗で可能になりました。
これには「店頭のオペレーションを速くする」「財布を出さなくて済む」という店舗・顧客双方の利便性に加えて、決済をCRMに連動させることができるという大きなメリットがあります。顧客はチャージした金額を使い切るまでは必ず来店しますし、スマホで残高が少なくなっていることが確認できれば、店舗の外でも自発的にチャージします。従来のポイント付与式のショップカードアプリよりはるかに来店確度の高い顧客を作ることができるのが大きな強みです。米国ではスターバックスのカフェというリピート性の高い業態とこのCRM戦略がマッチし、プリペイドカードの残高総額が2016年Q1時点で1285億円にも達しています。さらに顧客に新商品やキャンペーンなどの情報配信をすることで、顧客とのコミュニケーションが取れるのが従来のプラスチックカードとの大きな違いです。

このように、店舗におけるモバイル決済の実現方法は「マーケティング、CRMのハブとなり、決済も同時にできる」というのが今後進む方向の大きな流れになるでしょう。

スターバックスに限らず、海外では「カード決済」の次の決済手法として「モバイルオンライン決済」が一般的な考え方として受け止められており、アプリを使ったモバイル決済の実証実験や試験導入が急速に進んでいます。更に欧米ではクレジットカードに関する規制の変化により非接触決済端末の急速な普及が進んでいるため、その波に合わせてモバイル決済の普及が一段と進むことが予想されています。
今後日本でもモバイル決済へのニーズは高まることは間違いなく、店舗にとってもモバイル決済を導入し、顧客データの活用やデジタルCRMの充実により事業の幅を広げる絶好のタイミングになるでしょう。

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代表取締役   新田 剛史

代表取締役   新田 剛史

上智大学卒業後、モバイルEC、メディア事業等のプロデューサーを経て、 株式会社ミクシィ入社。ソーシャルビジネスの責任者として、NIKEiDとコラボレーションした”ソーシャルバナー”や”mixiXmas”などのヒットアプリを生み出し、日本初の本格的ソーシャルコマース事例を構築した。また、コンビニエンスストアと連携した数々のO2Oキャンペーンにおいて、オンライン(SNS)から店頭への集客を成功させる。2011年、株式会社バスキュールとのジョイントベンチャー”バスキュール号”を設立、取締役就任。2012年、株式会社Showcase Gig設立。モバイルウォレットサービスO:derを開発し、外食・小売り向けのソリューションを提供している。

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