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2022.06.24
小売店向け
2018.07.15
小売店向け
スマートフォンの普及でEC だけでなく実店舗における購買の起点が“オンライン”にシフトしてきている――米・スターバックスではオンライン決済比率が約36%、中国でもスマホで注文してデリバリー、または店舗で受け取る、というのはもはや普通の光景だ。日常の生活導線に店舗がある場合、あえて配送コストの高いデリバリーを選択するのではなく、オンラインで注文して実店舗で受け取る―“Buy Online,Pick up In-Store”は当然の選択肢として浸透していくだろう。今回は小売りの新潮流“BOPIS”について特集していく。
米国のチェーンストア、スーパー、ホームセンター、衣料品店に一歩足を踏み入れると、あることに気づかされる。業態を問わず、ほとんどの店舗では入口のゲートを入ってすぐ左手に目に入る、“Pick up(受け取り)” の文字。それも一か所ではなく、複数箇所に。もっと言えば、店舗の外壁や看板にも“Online Order& Pick up””の文字が目立つように描かれている。機能としては「お客様サービス」と兼ねているケースが多いが、たいていの場合、入ってすぐ左手に「受け取りカウンター」が設置されている。日本の店舗ではなじみのない光景だ。
「Walmart」の受け取りカウンター。大勢の客が集まる。(編集部撮影)
「Walmart(ウォールマート)」のような総合スーパーでは、レジをセルフ化することでレジ待ちの行列は少なくなったが、その代わりに店頭受け取りカウンターが行列するようになった。対策として、BOPIS 客専用に、巨大なタワー型の自動受け渡しロッカーまで登場している。それほどまでに、米国ではオンラインから注文をして、店頭に受け取る方式 “Buy Online, Pick up In Store” (BOPIS )が浸透している。現在では 大手ではBOPIS に対応していない小売店舗のほうが少なくなってきている。
ウォールマートをはじめ、小売り業態の各企業がBOPIS に注力するにはいくつかの理由がある。まず顧客の利便性の観点から言うと、日用品など買いたいものが決まっている場合、広い店内で品物を探して、さらにレジに並ぶ手間が省ける。ディスカウントショップの「TARGET(ターゲット)」などでは、車まで商品を持ってきてくれるサービスもある。送料を節約して、スピーディに賢く買い物ができるのだ。
「TARGET」の駐車場(編集部撮影)
また、多くの店舗ではオンライン上でのセールや割引、ポイントなども積極的に付与しており、この点もユーザーの増加を促している。
一方、店舗側が受けるメリットも複数ある。まず、レジを介さないことで接客の手間が減り、効率の良いオペレーションが可能になる。また、「顧客の囲い込み」ができる点も挙げられる。オンライン上でのセールを加速する理由にもなっているが、多くの小売業では Amazon の存在を強烈に意識している。2016 年、 Amazon の売上は全米オンライン小売業の約 43%に達した。その強さを裏打ちしているのが、「決済と紐づいた ID」の存在だ。Amazon の ID・パスワードを記憶していない米国人はもはや少数派。つまり、米国ではどんな小売業でも Amazon の競合となる。そこで、自社のオンライン ID を記憶してもらうことは顧客を囲い込むという点で非常に重要になってくる。米国小売業界において圧倒的な存在感なった Amazon との差別化を図る上でも「店舗体験とオンライン ID」をセットで利用する機会を創出することがポイントとなる。
さらにもっとも重要な点は「ついで買い」だ。 BOPIS を利用する顧客は、オンラインで注文した商品以外にも、店頭で何か商品を購入する割合が高いというデータが出ている。例えば靴量販店「DSW」では、店頭受け取り顧客の 15-20%が、ついで買いをしているという。BOPIS を使いこなす「オムニチャネル顧客」は、店頭での購買しか行わない顧客の 2.7 倍消費単価が高いというデータもあり、急速に BOPIS を取り入れる店舗が増えている。
スーパーだけでなく、ホームセンター業態もオンラインで注文して店頭で受け取る比率が高い。米国の大手ホームセンター・「The Home Depot(ザ・ホーム・デポ)」では EC 注文のうち自宅配送以外、つまり店頭受け取りが45%、「LOWʼS(ロウズ)」では 60%に達しているという。
米・大手ホームセンター「The Home Depot」(編集部撮影)
ホームセンターは小売業の中でも特に店舗が広く、DIY の盛んな同国では建築資材やドリルといった機械、キャンプ用品などあらゆるものが揃っている。店内は広大で、カートにすら乗らないサイズの商品も多い。また、来客には住宅リフォームなどの専門業者も多く、資材などはしっかり実物を見て確認してから購入していくのが一般的だ。入り口を入ってすぐの受け取りカウンターには巨大な台車に載せたあらゆる商品が持ち込まれ、客はそれを受け取りに並ぶ。こうした事情からも、ホームセンターが BOPIS と非常に相性が良いことが見てとれる。
「LOWEʼS」にも「pick up」の文字(編集部撮影)
米スターバックスでは売り上げの11%がBOPIS
BOPIS については、小売のみでなく、レストラン産業でも少し別角度から検証が重ねられてきた。特にQSR(クイックサービスレストラン)=ファストフード業界では、レジを介さないことにより、いかに人件費を減らし、オペレーション効率を上げるか、という観点から各社が取り入れ始め、現在ではスターバックス、マクドナルドをはじめ、米国主力チェーンのほぼすべての店舗でオンラインからの注文が利用できる状態になっている。飲食業界でも「顧客の囲い込み」という観点は大きなテーマとなっている。1日 2 ~ 3回の食事を “ どこで食べるか ” という判断は、小売の店舗以上に選択肢が多い。特にファストフード各社は流行りを取り入れてメニューを改廃するのもあり、どこで特色を出してリピート顧客を得るかということは重要な問題のひとつだ。
スターバックスは 2017 年、「Digital Flywheel」と名付けたデジタル新戦略を打ち出した。「モバイル注文」「決済」「リワードプログラム」「パーソナライズ」をその柱に据え、顧客とのエンゲージメントを強めるうえで、日常行為である BOPISを推進している。実際、オンラインで注文すればドリンクも細かくカスタマイズできるなど、デジタル面を新たな “ 接客の場 ” として重視していることがわかる。
国内の小売業界でも、ヨドバシカメラ、無印良品、東急ハンズなど、「ネットで注文、店舗で受け取り」のしくみを持つケースは増えてきている。ただ、米国並みに店舗のレイアウトが変わるほど打ち出しているケースはなく、EC 化比率もまだ低いのが現状。また、店舗ごとの顧客の囲い込みも、ようやく各社が紙やプラスチックの物理的なカードを「デジタル会員証アプリ」としてリリースしてきたという段階で、オンラインと実店舗の融合はまだまだこれからといった様相だ。ただし、都市部を中心に駅周辺の商業ビルが多い日本では、潜在的に BOPIS のサービスが浸透するポテンシャルは充分あると言える。さらに、運送業において人手不足や配送費の上昇が様々なニュースで取り上げられ、問題となっている。BOPIS はこれらの一定の解決策にもなりうるサービスだ。
飲食業界ではさらにデジタル化が遅れており、オンライン注文が進んでいるのはデリバリー業界のみに留まっている。米国のみならず、中国でも飲食店でのオンライン注文・決済はごく日常的な光景になっていることから考えると、この差は大きい。しかし、局所的にはサラダや弁当・惣菜などの業態において先行事例が出てきていることから、今後同様のムーブメント起きると考えられる。2019 年 10 月からの軽減税率制度の導入により、テイクアウトは消費税の優遇措置が適用されるため、オリンピック需要と相まって BOPISの導入はさらに加速していくに違いない。
確かに日本はまだ「Amazon の脅威」や「オンライン化の圧力」が米国よりも身近には感じられないかもしれない。しかし、いずれにせよこれらへのサービスに適応しなければならないのは、時間の問題だ。様々な業界・業態で “Buy Online, Pick up In-Store” は必須のサービスになっていくだろう。
※この記事は冊子版「DIG-IN vol.2」に掲載されたものです。
文=新田剛史、写真=高山諒(ヒャクマンボルト)
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