
コロナ禍で定着の気配見せるBOPIS、BORIS、BOPAC。いま知っておきたいリテール用語解説
2022.05.17
小売店向け
2020.03.12
小売店向け
キャッシュレス化が進む中国で、QRコード決済の次にトレンドとなるのは「顔認証決済」といわれている。いくつかのニュースによると、その利用者数はすでに1億1800万人を突破しており、2022年には7億6000万人を超えるとも予測されている。顔認証決済はこれまで主力決済とされてきたQRコード式を凌ぐ勢いで増加している。なぜこんなにも顔認証決済が急速に広がっているのか、その背景を探る。
ことの始まりは2017年。中国大手企業のアリババが世界初となる顔認証決済セルフレジをKFCにて実用化し、大きな話題となった。ユーザーは事前にアプリで顔認証を登録しておき、会計の際に端末のカメラに顔をかざして顔認証を行う。その際には電話番号下4桁の入力を行い、認証を確かにする。ユーザーの顔を三次元で識別する顔認証決済であれば、現金もカードもスマホも不要で決済が完了でき、指紋認証よりも高度なセキュリティを実現できる。
そして2018年12月、同社は顔認証決済端末「蜻蛉(チン・ティン)」(中国語でトンボの意)発売した。新サービスの「蜻蛉」は、カメラが搭載された専用タブレットをレジ前に設置するだけで顔認証決済ができるという画期的な仕組みで、価格は日本円で約1万8,000円程度と非常にリーズナブル。店舗側は低コストで顔認証決済の導入が実現でき、コンビニなどの小規模商店でも手軽に活用することができた。現在は、中国のセブンイレブン1,000店舗で導入されており、このトンボの出現は中国における顔認証決済の増加をさらに加速させた。
中国のモバイル決済インフラといえばAlipayのアリババ、Wechat Payのテンセントが未だ2強である。顔認証の分野ではアリババが先手を打って実用化を進め、それに対抗する形でテンセントが、QRコードと顔認証の両方で決済可能な「青蛙(チン・ワン)」(中国語でカエルの意)を2019年3月に発表した。サービスのリリース後は、双方ともにユーザーや導入店の獲得に力を入れ、多額の投資をおこなっているという。
現在サービスを開始して1年程であるが、どちらのサービスもテクニカル面においてまだ開発途上にあるようで、端末機での顔認証がスムーズにいかないといった不具合や、セキュリティ面で精度が十分ではないということが報告されており、アリババ、テンセント共に試行錯誤を重ねている段階である。とはいえ、加盟店へのキャッシュバック制度を設けたり、ユーザーにカスタマイズされた優待クーポンを自動発行するなど、顔承認決済に特化したキャンペーンは積極的に打ち出しており、新規利用者を増やす施策を繰り広げている。
中国では小売店での顔認証決済の他にも、「顔パス改札」という地下鉄の改札で顔認証の技術を応用したサービスも展開している。顔を登録したユーザーは改札で自分の顔を見せるだけで、改札を通過することができるという仕組み。中国政府は、昨年末から携帯電話の契約時に「顔認証データ」の登録を義務化するなど、国を挙げて顔認証を推薦しており、さまざまな場面で活用できるサービスが続々と開発されている。
一方、ほかの先進国は安全性の観点から顔情報のデータ化に慎重になっており、懸念点が多いという見方をされている。顔情報は一度登録されると変更ができない上に、極めて個人的な「顔」という情報が企業や、ひいては政府に提供されることになるため、プライバシー保護の観点からも懐疑的だ。中国では元々、国民全員が持つ身分証明書に顔写真の提出が必須となっており、これに対する抵抗感も他国と比べて低かったという見方もある。
顔情報のデータベースを収集することは、とくに犯罪等の解決に役立つ。しかし、企業マーケティングなどに簡単に利用されてしまったり、顔データの模倣やハッキングなどで悪用される可能性が高くなるといった怖さも兼ね揃えており、その評価は賛否両論となっている。
オーストラリア・マッコーリー大学の中国研究者アダム・ニー氏も、「監視や反政府活動家の追跡、社会と情報の統制、特定民族に対するプロファイリングなど、政府が自分たちの目的を達成するためにデータを使う可能性があり、(中略)非常に危険だ」とこの傾向に対して言及している。こういった国際社会からの反応もあってか、アリババグループの金融関連会社である「アントフィナンシャル」では、早々にプライバシー保護とセキュリティ保護のガイドラインを公式発表している。
日本でもパナソニックやNECなど、顔認証に関しては高い技術を保持しており、実際に空港の出入国審査などでパスポートの顔写真を照合するなど、顔認証技術の活用が始まっている。しかし、そういった機関では顔データはその場の認証にのみ活用し、承認後はすぐに破棄するなど、日本におけるプライバシー保護の意識はとても高い。そのため今後の日本の方向性として、セキュリティを強化するという側面での顔認証は発展していくかもしれないが、顔認証決済が日本で根付くのはまだまだ先になると考えられる。
文=佐々木久枝
編集=Showcase Gig
関連記事
コロナ禍で定着の気配見せるBOPIS、BORIS、BOPAC。いま知っておきたいリテール用語解説
2022.05.17
小売店向け
GMS業界が直面するコロナ不況。最大手・イオンリテールの対応策に見る“視点の変化”
2022.04.11
新型コロナ対策
小売店向け
「価値」から「目的」へ。変わる消費志向から考える、新時代のtoCビジネスのあり方
2022.03.28
飲食店向け
小売店向け
コンビニ業界が目指す“変化への適応”。各社の取り組みから見えてきたもの
2022.03.14
新型コロナ対策
小売店向け
浸透するカスタマイズ/パーソナライズ。Z世代の消費志向から考える“体験”のあり方
2022.02.21
飲食店向け
小売店向け
GODIVAが取り組むDXの現在地。モバイルオーダー導入で見据えるwithコロナ時代の生存戦略は
2022.02.01
新型コロナ対策
インタビュー
小売店向け
迫るバレンタインシーズン。withコロナ時代に勝ち残る小売店となるためには
2022.01.26
新型コロナ対策
飲食店向け
小売店向け
モバイルオーダー専門店「The Label Fruit」に見る、“魅せる”ロッカーの仕掛けとは
2021.12.15
新型コロナ対策
飲食店向け
小売店向け
増える国内BOPIS事例。ユニクロのOMO施策に見る、ニューノーマル時代の生き方とは
2021.12.06
新型コロナ対策
小売店向け
物販だけじゃない。“推し活”に見る消費行動の傾向と各企業の事例を調査
2021.11.02
小売店向け