2021.06.30

飲食店向け

「中国はLuckin Coffeeだけじゃない」台頭する“テック飲食店”の新興勢力。日本が学ぶべきポイントは?

リテールテック先進国の中国で、デジタルツールを店舗運営の最適化に活用する飲食店――テック飲食店が続々と誕生している。過去にもさまざまな飲食チェーンが最新のデジタルトレンドを生んできた同国。その成功事例から、日本の飲食店が参考とすべきポイントを探る。

中国のコーヒー市場を席巻したテック飲食店・Luckin Coffee

中国のテック飲食店といえば、「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」が有名だ。2018年1月、北京に1号店をオープンした同チェーンは、店舗運営にモバイルアプリを活用。利用を事前注文・事前決済に限定するとともに、実店舗を“テイクアウト・デリバリーの拠点”と位置づけ、少ない客席数とすることで、経営の効率化に取り組んだ。

(出典:iStock)

店内で提供されるサービスは基本的に商品の受け渡しのみであるため、受注やレジ対応にスタッフを割く必要がなく、混雑やオーダーミスも起こりにくい。店舗面積が小さくなったことで賃料は節減され、ともなって減ったイートインによる売上は、テイクアウト・デリバリーへの対応で補填された。

Luckin Coffeeはこうしたコスト節減で浮いた資金を、安い価格設定やクーポンの配布などで顧客へと還元し、支持を獲得した。2019年5月には、設立から19か月で米・ナスダックへと上場。IPOにより、6億5,100万米ドルの資金調達に成功している。同年末には、中国国内に4,507店舗を出店した。

創業から約2年でスターバックスの店舗数を上回り、中国最大のコーヒーチェーンとなったLuckin Coffeeだったが、2020年5月には22億元(約370億円)の粉飾決算を指摘され、1年でナスダックを退場に。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、2020年第3四半期には3,898まで店舗数を減少させている。長期的な視点での黒字を目指して続けてきた強気の出店だったが、“戦略的赤字”からの転換点はまだ先となりそうだ。

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Luckin Coffeeの低迷で台頭する新興勢力。Manner Coffeeは高コスパを武器に勢力を拡大

Luckin Coffeeの低迷によって一段落した印象のある中国“テック飲食店”のトレンド。最近では、新興勢力となるコーヒーチェーンが存在感を強めている。その急先鋒と目されているのが、2015年に上海で創業した「Manner Coffee(マナーコーヒー)」だ。

(出典:Manner Coffee公式HP)

同チェーンは、スペシャルティコーヒーを低価格で提供するコーヒースタンド。Luckin Coffee同様、モバイルアプリの活用・小規模店舗の出店でコストを節減し、経営の効率化へと取り組んでいる。得た利益を値下げではなく、商品のクオリティアップで顧客へと還元している点が特徴で、ラ・マルゾッコのラテマシンを設置するなど、本格的な味へのこだわりを覗かせる。当初は上海でのみ出店を続けてきたが、2019年に全土への展開をスタート。蘇州、北京、成都、深圳といった主要都市に続々と進出し、現在は国内に150店舗以上を構えている。2021年5月にはさらなる店舗数の増加とデジタル化を見据え、数億ドルにも上る資金調達を実施したことが報道された。

中国では2010年代前半より、コーヒー市場の成長が続いている。米・フロスト&サリバン社の調査によると、2018年までの6年間で同市場は約4倍(156億元→569億元)の規模まで拡大した。今後も右肩上がりの成長を続ける見通しで、2023年には1,806億元に達する見込みだという。これは2013年の11倍にも及ぶ数字だ。目の前でドリップする淹れたてコーヒーの市場に限れば、拡大の幅は30倍弱まで広がる。コーヒー市場全体に占めるこの市場の割合は、2018年の実測値でおよそ70%。つまり、4分の3に迫る金額がインスタントコーヒーではなく、淹れたてコーヒーとして消費されている実態がある。

このような背景を持つ中国のコーヒー市場では、マーケットリーダーが低迷したとしても、代わりとなるプレイヤーが次々と台頭してくる。Manner Coffee以外にも、さまざまな新興チェーンが空席を狙っている状況だ。

カフェ業態から波及するテック活用。コロナ禍で上場したバー・Helen’sの存在

コーヒーチェーンを中心に進んできた中国における“テック飲食店”の台頭は近年、別の業態へも波及しつつある。カジュアルスタイルのバーを全店直営でチェーン展開する「Helen’s(へレンズ)」は2021年3月、香港証券取引所に目論見書を提出した。順調に手続きが進めば、中国のバーチェーンで初の上場企業になるという。

(出典:Helen’s公式HP)

2009年創業のHelen’sは、店舗に蓄積するデータを活用し、拡大を続けてきたテック飲食店だ。天候といった諸条件をもとに来店客の動向を分析し、スタッフ配置などの適切性を判断。その情報に基づいてランニングコストを節減し、利益を最大化してきた。2020年末の時点で中国国内の約80都市に351店舗を展開し、市場シェアは1.1%を誇る。カフェ市場と同等の規模を持ちながら、極端に分散・乱立傾向のある中国のバー市場において、同チェーンの持つ店舗数・シェアはともに1位の数字となっている。

「夜のスターバックス」を目指していると言われるHelen’sは、低価格に裏付けられたコストパフォーマンスの高さと、気軽にくつろげる“サードプレイス”としての価値を両立する。主なターゲットは20~35歳の若者だ。SNSの総フォロワー数は570万人にも上る。

経済発展とともに都市化が進み、国民の収入レベルが上がる中国では今後、バーの需要が高まるという見方もある。中国のバー市場を牽引するテック飲食店・Helen’sは、まだ成長の余地を残していると言えるだろう。

数年後に迫るデジタル社会。中小・個人の飲食店に求められる生存戦略とは

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リテールテック先進国である中国では、デジタル活用が飲食店成功の必須条件となっている。紹介した3つのチェーンに共通するのは、省スペース・省人・省力化によるコスト節減で利益を最大化し、大規模な展開・顧客への還元をおこなっている点だ。

コロナ禍で飲食店のデジタル化が加速したと言われる日本だが、中国に比べると、状況はまだ芳しくない。大手チェーンと中小・個人店では、対応に差がある実態がある。

数年後にやってくるであろうデジタルの浸透した社会で、飲食店はどのように生き残っていくのか。中国“テック飲食店”の成功事例には、そのヒントが隠されているに違いない。

 

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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