小売店向け

2018.07.31

QR決済は当たり前、アリババとテンセントが見据える未来

ShowcaseGig代表・新田剛史が実際に世界中で取材した店舗の省人化、無人化などの店舗デジタル化の最新動向やそれによってもたらされる消費者への利便性、企業が得られる価値、そしてデジタル化を加速させる新技術を解説する本連載。第1回目は中国の2大IT企業、アリババとテンセントのモバイル決済とリアル店舗進出の事例ともにネットとリアルの融合について考察していく。

中国の2大IT企業、アリババとテンセントは小売業へ次々と出資している。アリババのジャック・マー会長は「ニューリテール」構想を発表し、「無人化」「自動化」「即時性」を実現した店舗を各地にオープンさせている。

レジ無し店舗「Amazon Go」の開店、高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットの買収──米アマゾン・ドット・コムのリアル店舗への投資が加速している。私も米シアトルのAmazon Goを訪問したが、スマートな買い物体験の完成度は、相次ぎ訪れた業界関係者や先端技術の愛好家をもうならせるレベルに達していた。

市場の破壊者となり得るアマゾンのリアル進出は、流通小売業を問わず注目度が高い。しかし、そのアマゾンを上回るような勢いで、リアルへの投資を加速させている企業がいる。中国の二大IT企業、アリババとテンセントだ。

ジャック・マーが「ニューリテール」を発表

アリババのジャック・マー会長が「ニューリテール」を発表したのは2016年末のことだった。小売業をテクノロジーによって再定義するコンセプトである。現状のEC(電子商取引)事業はいずれ頭打ちを迎える。今後は、インターネット上で完結するオンラインビジネスにはとどまらず、リアルとデジタルを有機的に結びつけて進化させることで、市場が広がるというのが基本的な考え方だ。

アリババはAmazon Goが発表される直前の2016年11月に、中国のスーパーマーケットチェーンの三江購物倶楽部(サンジアン・ショッピング・クラブ)に32%を出資した。同年12月には同業の聯華超市(リエンフア・スーパーマーケット)にも約20%の資本を出資している。ニューリテール発表後もリアルへの投資は止まらない。2017年1月には百貨店の銀泰商業を買収、同年11月にはスーパーの高鑫零售(サン・アート・リテール・グループ)にも出資した。2年間に総額で1兆円以上を実店舗に投資した。この金額はアマゾンがホールフーズ・マーケットを取得した1兆5000億円に匹敵する。

QR決済で魚を宅配するスーパー

アリババはこれらの出資先の小売業者とともに、先端技術を投入した未来型店舗を相次いで開設している。無人コンビニである「タオカフェ」、生鮮スーパーの次世代モデルを追及する「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」などはその一例だ。共通するキーワードは「無人化」「自動化」「即時性」である。

例えば、盒馬鮮生にはいけすで泳ぐ魚介類を購入できる売り場がある。その場で掲示されているバーコードをスマートフォンの専用アプリで読み込んで決済する。自宅が半径3km圏内であれば、購入した商品が30分以内に届く。店舗で商品を見て、必要な商品をモバイルで決済して手ぶらで家に帰るだけ。そんな買い物体験が実現する。

店内の頭上のレールにはピックアップした商品が運ばれていく。

食品だけでなく、洗剤や歯ブラシなども手に入る。通常ならば複数店舗にまたがる買い物体験を1店舗で完結させ、自宅への配送まで請け負うことにより、徹底して顧客を囲い込む。その結果、既存の店舗の数倍の坪効率の売り上げを達成できるという。自宅に居ながらECで買い物をする、という従来のオンラインを起点とした行動ではなく、リアルを起点としてオンラインに持ち込む発想だ。

顔認証でチキンが買える店舗も開店

また、飲食店への「省人化」システムの導入も目立つ。アリババは2016年秋、中国の飲食店チェーン大手のヤム・チャイナ・ホールディングスに金融子会社アント・フィナンシャルを通じて投資している。ヤム・チャイナは米国で「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」や、タコスチェーンの「タコベル」を運営する米ヤム・ブランズの中国子会社だ。中国においてはKFC、マクドナルド、タコベルを展開しておりファストフードチェーンとして最大規模である。

これらの店舗にはセルフ注文決済機が置かれ、さらにはスマートフォンからの事前注文決済システムにも対応している。顧客がモバイル端末から注文した場合は接客の手間が省けるということで、例えば40元(約680円)以上の注文で5元(約85円)引きなどの割引が適用される。KFCやマクドナルドの店舗にはまだ対人レジが置かれているが、極力モバイル注文やセルフ注文決済機へ誘導しようという施策だ。

こうした仕組みは2016年以降、中国で一気に導入が進んだ。さらなる進化形としてヤム・チャイナはアリババと共同で2017年9月、顔認証で決済が完了する「Smile to Pay」というシステムを実装したKFCの次世代店舗を杭州に出店した。中国では国民IDともいえる身分証明書に顔画像の添付が義務付けられており、さらIDと電話番号と銀行口座も連携できる。これにより、将来的にはスマホすら不要で決済できる世界の到来を予見させる。

ヤム・チャイナはKFCの次世代店舗を杭州に出店

アリババ、テンセントの狙いは

アリババはなぜリアル進出を急速に推し進められるのか。各店舗が決済方法を、アリババグループが展開するモバイル決済サービス「Alipay」に絞っていることが一因だ。決済のプラットフォームをがっちりと抑えている。

中国都市部の1000人を対象に実施された調査では、モバイル決済サービスの普及率は98.3%に上る(人民網日本語版、「中国都市部はキャッシュレス社会へ」2016 年 5 月 25 日)。モバイル決済市場においてはAlipayと、テンセントグループのWeChat Payの2強がシェアの大半を占める。いずれもスマホの専用アプリを使って、店頭などに掲示されたQRコードを読み込むだけで決済が完了する。

その普及率ゆえに、あらゆる実店舗が対応している。大手飲食店や小売り業のみならず、屋台の露店、果ては寺院のさい銭箱までもがこの2大決済サービスのQRコードを掲示して、支払いを促す。両サービスとも利便性が高く、「青のAlipay」「緑のWeChat Pay」と呼ばれるブランドカラーの違い程度で、シェアも拮抗している。こうしたモバイルを活用した決済プラットフォームを持つからこそ、その使い先となるリアルの売り場を拡大することの意味は大きい。

あらゆる店舗で広がる、二大決済

中国小売業に対する買収の動き、ここにきてアリババを追うようにテンセントも一気に攻勢を強めてきている。テンセントは2018年1月、スーパー大手のカルフール中国と資本提携し、小売り大手の歩歩高(Better Life Group)、アパレル大手の海澜之家(Heilan Home)、不動産の万達集団にも出資することを矢継ぎ早に発表している。業種の垣根を超え、まさにアリババ、テンセントのネット2大企業で「リアルを買い漁っている」状態だ。

その背景には、オンライン購買者の伸びが鈍化していることが挙げられる。中国政府の発表では2017年にオンラインで買い物を経験した人は5億3300万人で伸び率は約14%だった。これは前年と比べ大きく低下している。オンラインユーザー自体の成長率も、ここ2年では鈍化してきた。

両社にとってはリアルな市場に打って出て、店舗の在り方やビジネスを再定義し、事業を効率化して既存の小売り企業と競うほうが、売り上げを伸ばせる余地が大きいという期待がある。米国におけるアマゾンも同様の展望があると見てよいだろう。この流れはまだまだ黎明期と言え、ますます加速するネットとリアルの融合の未来に目が離せそうにない。

執筆=新田剛史(Showcase Gig

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