2018.12.01

小売店向け

キャッシュレス進むスウェーデン、日本の課題は

ShowcaseGig代表・新田剛史が実際に世界中で取材した店舗の省人化、無人化などの店舗デジタル化の最新動向やそれによってもたらされる消費者への利便性、企業が得られる価値、そしてデジタル化を加速させる新技術を解説する本連載。第5回目はキャッシュレス化が進むスウェーデンから見る、日本のキャッシュレス化について考察する。

キャッシュレス化が進むスウェーデン

スウェーデンは世界でも最もキャッシュレス化が進んでる国だ。現金の流通残高は、国内総生産(GDP)に対してわずか1.7%ほどしかない。しかし、同じキャッシュレス先進国の中国を比較すると全く異なる景色が広がっている。この2つの国を比較することで、日本のキャッシュレス化に向けた施策の課題点が浮かび上がる。

スウェーデンのバーガーチェーン「MAX」には注文・決済端末がずらりと並ぶ。(編集部撮影)

中国とは異なるスウェーデンの決済

スウェーデンには国民IDと銀行口座がひもづけられた「BankID」という決済認証システムが存在する。その決済基盤をベースに、2012年にスウェーデン国立銀行と大手銀行6行が協力して「Swish」というスマホアプリを開発した。Swishでは、ユーザーが互いの電話番号さえ分かれば個人間送金を瞬時に行うことができる。店頭での支払いにも利用可能だ。

だが、同じキャッシュレス先進国である中国と比べると状況は全く異なっている。中国ではモバイル決済がキャッシュレス化をけん引しており、対してスウェーデンでは主力となる決済手段は、今もクレジットカードとデビットカードが今も根強いからだ。

Swishの利用は個人間送金が中心

Swishは若年層を中心に利用が拡大しており、1710月時点でスウェーデンの人口1000万人に対して597万人と浸透率は半数を超えている。国策として利用を推進しているだけあって、この数年で急速に国民の金融インフラとして機能しつつある。

ところが、Swishの流通額のうち、約90%を占めるのが個人間送金だ。店舗決済での利用は7%にとどまり、消費行動においてはそれほど使われていない。

露店では「Swish」が決済手段として用いられる。(編集部撮影)

スウェーデン国立銀行と大手銀行6行が協力して開発したアプリ「Swish」の利用者は国民の過半に達している。(編集部撮影)

実際、スウェーデン在住者に利用実態を尋ねても、飲食店での割り勘の際には頻繁に使うが、店舗での支払いに使う機会は少ないという。消費行動に使われるのは路上の屋台や、フリーマーケットの花屋といった、レジや決済専用の端末を設置していない小規模な店舗での決済にとどまるようだ。

大手小売りはカード決済が主流

一方、マクドナルドや、バーガーキング、MAX(スウェーデン最大のバーガーチェーン)やカフェチェーンなど大手小売りでの支払いを見渡すと、今でもクレジットカードとデビットカードが主流だ。カード決済端末が普及しているため、あえてSwishを並行利用するケースは少ない。また、MAXはキオスクと呼ばれる注文・決済端末をずらりと設置しており、この端末を使った注文時の決済手段にもカード決済が使われる。店舗によってはカード決済のみ可能で、現金を扱わないことを明示している店舗もある。

現金を取り扱わないことを明示する店内のポスター。(編集部撮影)

確かに生活において現金の利用機会はほぼない、という点では中国とスウェーデンは似ている。だが、スウェーデンでは以前からクレジットカード決済が根づいていたため、決済時にわざわざ電話番号の入力が必要で手間がかかるSwishは敬遠されているように見える。飲食、小売りはもちろん、交通手段まであらゆる支払いがQRコード決済である中国と比べると、同じキャッシュレス社会でもその様相は大きく異なることが分かる。

日本に適した決済手段とは

翻って、日本のキャッシュレス化に向けた施策はどうか。日本の大手の小売り業者には、クレジットカードの決済端末が既に行きわたっている。QRコード決済の登場で一気にキャッシュレス化へと風向きが変わった中国よりも、むしろスウェーデンに近い市場といえよう。ところが、ここ最近、日本では地理的にも近い中国の影響からか「QRコード決済」サービスが乱立している。

日本にはスウェーデンが銀行団と連合して立ち上げたSwishBankIDのような、統一された強力な決済基盤はない。そのような環境が整っているはずのスウェーデンですら、モバイル決済の利用は限定的だ。日本では環境が整う前から民間企業がQRコード決済を相次いで始めたことで、消費者から見ればどれを選べばいいか分からなくなっている印象だ。

また、日本のQRコード決済事業者が手本とする中国では、アリババ集団や、騰訊控股(テンセント)といった大手プラットフォーマーがQRコード決済を普及させるために、こぞって破壊的な投資を行った。例えば、QRコード決済の利用で、商品が無料になるクーポンを配る「ばらまき政策」もその一つ。巨額の投資によって、QRコード決済市場を一気に広げたのである。

日本国内には、そこまでの投資規模で独自の決済サービスを浸透させようという気概のあるプレーヤーも見受けられない。このままQRコード決済が日本に定着するかどうかについて、筆者はかなり懐疑的である。

本来であれば「おサイフケータイ」を世界に先駆けて生み出したモバイル決済の先進国とも言える日本。その日本において、どのようなモバイル決済手段がなじむのかについては、改めて冷静に見定めるべき必要があるのではなかろうか。

執筆=新田剛史(Showcase Gig

 

コラム第1回「QR決済は当たり前、アリババとテンセントが見据える未来」

コラム第2回「店舗の受け取りロッカーが人手不足を解消するカギになる」

〉コラム第3回「いかに顧客を囲い込むかー熾烈化する米・会員制サービス最先端」

〉コラム第4回「省人化から完全キャッシュレスへ、米国飲食業界のデジタル改革」

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