飲食店向け

2018.10.07

中国・フードデリバリーの巨額赤字、ドローン技術で解消

ShowcaseGig代表・新田剛史が実際に世界中で取材した店舗の省人化、無人化などの店舗デジタル化の最新動向やそれによってもたらされる消費者への利便性、企業が得られる価値、そしてデジタル化を加速させる新技術を解説する本連載。第5回目は中国のフードデリバリーバブルについて考察する。

白熱する中国のフードデリバリー

テクノロジー企業の躍進により、フードデリバリー業界も変化が激しくなってきている。中国の調査会社の艾媒集団官网(アイアイ・メディア・リサーチ・グループ)の「2017上半年中国在線餐飲外買行業研究報告(2017年上半期の中国オンライン飲食宅配サービス市場調査)」によれば、中国のフードデリバリー市場は2017年に2045億6000万元(約3兆3000億円)に達した。急速に成長するこの領域でも、中国2大テックジャイアントのアリババ集団と騰訊控股(テンセント)が激しい火花を散らしている。

アリババは18年4月に1兆円を投じて中国でフードデリバリー最大手の餓了麼(ウーラマ、Ele.me)を買収した。一方、テンセントが20%を出資する美団点評(メイチュアン、Meituan)は18年6月に香港証券取引所にIPO(新規株式公開)を申請しており、その時価総額は3兆円を超える。メイチュアンは配達網の拡大を狙い、シェアサイクル大手の摩拜单车(モバイク)を18年4月傘下に収めた。2大IT企業がこぞって投資をするフードデリバリー市場は、中国において最も熱い領域の1つだ。

生活必需のフードデリバリー

食料品や生活日用品をスマートフォン向けアプリから注文して、自宅まで届けてもらうデリバリーサービスは、上海など都心部で生活する人々にとって完全に生活の一部となっている。新興デリバリー事業者の競争激化によって、送料がほぼゼロになっていることが利用を後押しする。また、配送時間も短縮化が進んでいる。最寄りの飲食店やスーパーから自宅まで、注文からわずか30分程度で商品が届く。昼時や夜などの利用が活発化する時間帯は、街中のあらゆる場所で各社のカラフルなデリバリーバイクが目に入る。

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こうした短時間で配送するコストは、デリバリー事業者がマーケティングコストと割り切って負担いるため、送料ゼロが実現できている。その半面、ウーラマやメイチュアンは収益的には赤字状態だ。IPOが決まっているメイチュアンですら、17年度は約480億円の損失が出ている。正直に言えば、赤字を前提としたこのサービスレベルを永続的に提供できるとは思えないが、中国都心部の人々は今のところ「デリバリーバブル」による恩恵を受けられている状態だ。アリババやテンセントといった大手企業から得た資本金で赤字を耐えしのぎ、「14億人の胃袋」を対象にシェアを伸ばそうという競争が続く。

ラストワンマイルを担うデリバリーサービスは、O2O(オンライン・トゥ・オフライン)サービスの要諦でもあり、アリババ、テンセントの両社共に引くに引けない状況に陥っている。

アリババ傘下のドローン企業

デリバリーサービスの競争が激化する中、新しい配達手段としてドローンの研究が進んでいる。商用ドローンにおいては各国でも規制が厳しいなか、市街地を飛ばすことにかけては中国が一歩リードしている。18年5月、ウーラマが中国政府からドローン配達サービスの許可を受けたと、中国の技術メディア「新浪科技(シナテクノロジー)」が報じた。これが実現すると、最大時速65kmで約10kmを飛行することが可能となり、バイクよりも早く、平均20分以内で商品を届けられるという。

アリババの子会社でドローンによるデリバリー事業を手掛ける企業はほかにもある。15年に創業し、中国で初めて商用ドローンの運用を開始した迅蚁(アントワーク)だ。アントワークはメイチュアンと同じく、米国の大手ベンチャーキャピタルのセコイアキャピタルから出資を受ける有望企業。同社はアリババの本社がある杭州市で、ドローンによるデリバリーサービスを既に始めている。

中国でドローンを活用した配達サービスを展開するアントワークのオフィス(編集部撮影)

筆者も18年7月にアントワークを訪ね、その最新技術に触れてきた。杭州市の一角は未来科技城と呼ばれ、アリババの城下町の様相を呈している。その中にスタートアップ育成施設とも言える夢想小鎮(ドリームタウン)がある。ここには約1000社の有望企業が集められ、日々研究開発を重ねている。アントワークもドリームタウン育ちだ。現在はドリームタウンから数km離れた場所にオフィスを構えている。アントワークのオフィスの周辺には12カ所のドローン発着基地があり、30kmの距離であっても30分で商品を届けられるという。

実際にアントワークのオフィスから、ドリームタウン内にあるスターバックスコーヒーのアイスコーヒーを注文してもらった。スマートフォン向けのアプリから、商品を選んで受け取り場所を設定するだけで簡単に注文が完了する。オフィス近くの駐車場に受け取りの拠点が設けられており、そこで専用の係員がドローンから商品の受け取りをする。ドリームタウンにも、出発拠点がある。その広さは車1台分程度のスペースで、かなり小さい。だがドローンは問題なく発着できる。

(編集部撮影)

ドローンの発着場。ここで商品を受け取る。(編集部撮影)

注文からわずか数分でコーヒーは届いた。こぼれたりすることはなく、炎天下でも氷は溶けなかった。今後、ドローンの配送ルートが整備されて、よりシステマチックに運用できれば、スピードは地上を行くより圧倒的に速いため、実用的になっていく可能性は高いと感じた。課題を挙げるとすれば、出発と受け取りでそれぞれ係員が必要となることだろう。2人分の人件費がかかるため、注文点数が少ない場合はコスト高になりそうだ。アントワークでは今後、無人運転車によるデリバリーも研究開発しており、並行してデリバリーの効率化を進めるという。

日本市場はまだ未開拓分野

一方、日本はどうか。米・配車アプリのウーバー・テクノロジーズが手掛けるデリバリーサービス「Uber Eats」の上陸で注目を集めたものの、中国や米国のようなデリバリー領域における有力なスタートアップ企業はまだ現れておらず、消費者としてはあまりこの領域の恩恵は受けられていない。またドローンについては、あくまで人の目が行き届く範囲でのみ、飛行実験が許されていたため、参入するプレーヤーも限られている。

とはいえ、日本でも規制緩和の傾向にある。国土交通省は18年3月にドローンの「目視外飛行に関する要件」をまとめた。今夏から、第三者が立ち入る可能性の低い山間部などにおける、有人航空機が通常は飛行しない高度150m未満での運転に限って、目視外飛行によるドローンの運用を認めるという。配送サービスにおける人手不足は顕著で、需要は高い。どのタイミングで中国のような本格的な商用サービスを開始できるかが焦点になる。世界ではフードデリバリー、ドローン、無人運転などデリバリー領域には巨額の投資が行われている。日本でも規制緩和を機に、ここから数年で大きな進化を遂げていくことに期待したい。

執筆=新田剛史(Showcase Gig

 

コラム第1回「QR決済は当たり前、アリババとテンセントが見据える未来」

コラム第2回「店舗の受け取りロッカーが人手不足を解消するカギになる」

〉コラム第3回「いかに顧客を囲い込むかー熾烈化する米・会員制サービス最先端」

〉コラム第4回「省人化から完全キャッシュレスへ、米国飲食業界のデジタル改革」

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