2021.06.22

新型コロナ対策

飲食店向け

店員の代わりにロボットが配膳。ニューノーマル時代のサービスロボットがもたらす顧客体験

感染拡大の余波に苦しむ飲食業界で、新たなデジタルツールが実用段階を迎えている。キャッシュレス決済、モバイルオーダーに続く新領域とは。広がるサービスロボット活用の現在地へと迫る。

加速するDX。キャッシュレス決済、モバイルオーダーに続くロボット活用

非対面・非接触に対する需要から小売業で進むデジタルツール活用。キャッシュレス決済やモバイルオーダーと並び、導入が加速しているのがサービスロボットの領域だ。2010年代より顕著となったリテールテックの革新においては、これまでAIカメラなどによる無人化・省人化店舗がフォーカスされてきたが、コストといった数ある課題がネックとなり、いまだ普及には至っていない。その陰で同領域は、店舗・消費者の双方にとって“現実的な手段”として注目を集めつつある現状だ。

2020年4月、矢野経済研究所が発表した「業務用サービスロボット市場に関する調査」によると、同市場は近年右肩上がりで拡大しており、2020年度には17年度の2倍の規模に到達する見込みだという。同社は今後も前年比125%前後で市場が成長を続けると予測する。22年度には17年度の3倍の水準まで拡大する見通しだ。

(出典:矢野経済研究所)

こうした動向を背景に、外食産業では配膳業務にサービスロボットを活用する動きが見え始めている。流通を担うのは、日本システムプロジェクト(以下、JSP)とソフトバンクロボティクスの2社だ。

JSP:『PEANUT』

JSPは2019年11月、中国で商業向けサービスロボットを開発するKeenon Robotics社とパートナシップを締結。翌年1月より、同社の配膳ロボット『PEANUT』の国内向け販売をスタートさせた。

同機は、飲食店における料理の配膳・バッシング業務を担当するロボットで、10キロの荷重に耐える3段の棚を備える。タッチパネルで行き先を選択すると、あらかじめ店内に設置されたラベルをAIが読み取り、目的の場所まで自走する仕組みを持っている。障害物の回避、複数台での運用も可能で、人とコンタクトしたタイミングでは、状況に合わせ、数通りの簡単なコミュニケーションもおこなうという。タッチパネルの操作や、皿を棚に乗せる作業など、人の手助けは必要となるが、従来スタッフが担当していた役割の一部を任せられる、画期的な業務効率化ツールとなっている。

ソフトバンクロボティクス:『Servi(サービィ)』

一方のソフトバンクロボティクスは2020年9月、米・Bear Robotics社と共同でAIロボット『Servi(サービィ)』を開発したと発表した。

同機は、PEANUTと同等の機能を持つ配膳・運搬ロボット。3Dカメラやセンサーを活用し、自律走行・障害物の回避をおこなう。目印を設置しなくても導入できる点、自動で客席からパントリーへと戻る点がServiの特長で、PR動画を観るかぎりでは、運搬時の揺れによって料理がこぼれないよう、棚が免震性能を持つ様子も伺えた。

2社の配膳ロボットは、非対面・非接触へのニーズを追い風に、大手外食チェーンでの導入が相次いでいる。新型コロナウイルスの感染拡大は、キャッシュレス決済・モバイルオーダーの浸透だけでなく、サービスロボットの実用化にも影響を与えていると言えそうだ。

国内飲食店で広がる配膳ロボット活用

ラーメン業界で国内初導入を実現した幸楽苑

2020年8月、株式会社幸楽苑ホールディングス(以下、幸楽苑)は、運営するラーメン店・幸楽苑本宮店(福島県本宮市)において、AIを活用した自動配膳ロボット「K-1号(ケー・イチゴウ)」導入の実証実験を開始した。同機は、JSPの販売するPEANUTを“幸楽苑で働くロボット従業員”としてリネームしたもの。コロナ禍での感染予防や人手不足解消を目的に活用が検討され、実証実験へと至った。現在はスペースに余裕のある大型店を中心に、数十店舗まで導入が進んでいる。同社広報によると、混雑時における安定的な店舗運営に配膳ロボットが役立っているという。

(出典:PEANUT公式HP)

幸楽苑はロボットの活用以外にも、注文や提供、会計の際の顧客とスタッフの接触を減らす「完全セルフシステム」の導入に取り組んでいる。同社は今後、一連の取り組みを通じ、感染リスクとスタッフの負担を低減する店舗運営を目指す方針だ。

ワタミは新たな基幹事業となる2ブランドへと導入

居酒屋・レストラン業態からは、ワタミ株式会社(以下、ワタミ)も追随する。同社は2020年10月、運営するブランド「焼肉の和民」へのPEANUT導入を発表した。

同ブランドは、高品質な焼肉をリーズナブルな価格で提供する飲食店。コロナ禍で苦戦が続く居酒屋業態からの脱却を目指し展開される、ワタミの新事業だ。同社は今後、居酒屋業態の店舗を順次、「焼肉の和民」へと転換する計画で、2022年3月期までに120店舗の出店を予定する。ワタミの根幹事業は、従来の居酒屋から焼肉店へと変わっていくという。

今回PEANUTが導入されたのは、同ブランド最初の店舗としてオープンした「焼肉の和民 大鳥居店」と「焼肉の和民 横浜西口鶴屋町駅前店」。両店舗は、ロボットより高速に料理を運搬できる回転寿司型の搬送レーンを備えるが、店内にはレーンの行き届いてない個室も存在する。「ルートは固定だが、高速な搬送レーン」と「柔軟なコースで料理を届けられるロボット」を組み合わせ、配膳業務を完全自動化かつ最適化した。

(出典:PEANUT公式HP)

ワタミは焼肉食べ放題のブランド「かみむら牧場」も展開する。同ブランドには2020年12月より、ソフトバンクロボティクスのServiが導入された。同社によると、焼肉店は居酒屋に比べて注文数が増える傾向にあり、同等の数字を売り上げるには、より多くの人手が必要になるという。過去のケースでは、1日100万円を売り上げる店舗に10~12人のホールスタッフが働いていたが、現在は搬送レーンと配膳ロボットの活用により、4人まで抑えることに成功した。

(出典:ソフトバンクロボティク公式HP)

また、食べ放題ではバッシング業務が滞りやすく、退席後の片付けに時間がかかっていたが、導入後は配膳ロボットが定期的に店内を巡回するため、テーブルに空いた皿が残りにくくなった。ソフトバンクロボティクスの映像分析では、最終バッシングの時間が6分37秒から4分49秒まで、約27%短縮されたと明らかになっている。人件費のカットと合わせ、回転率の向上にも配膳ロボットが寄与したことになる。

従業員の負担軽減を目指した物語コーポレーション

株式会社物語コーポレーション(以下、物語コーポレーション)も、配膳ロボットの活用に力を入れる外食企業のひとつだ。同社は2020年11月、運営する焼肉きんぐ花田店(愛知県豊橋市)にて、Servi導入の実証実験を開始した。

(出典:ソフトバンクロボティク公式HP)

「焼肉きんぐ」は、物語コーポレーションが展開するテーブルオーダー式の食べ放題ブランド。各店舗には、肉のおいしい焼き方を客へとレクチャーするポジション「焼肉ポリス」が用意されている。リーズナブルさが売りでありながら、個々の客に向き合ったサービスを付加価値とする同ブランドは、その両立にかかるスタッフの労働負荷の大きさを課題としていた。配膳ロボット導入に至った経緯には、従業員の負担軽減の目的があったという。

2021年1月からは本格導入をスタート。「寿司・しゃぶしゃぶ ゆず庵」を含めた310店舗に計443台を投入した。同社は、配膳ロボットの活用による“省人化”を考えていないと語る。人とロボットの間で役割分担をおこない、今後さらに接客サービスを強化していく方針だ。

ほかでは、2021年2月にサイゼリヤと大戸屋が、一部店舗へのServi導入を発表している。コロナ禍であえぐ外食産業にとって配膳ロボットは、感染への対応と人手不足を一挙に解決する、理想的なツールであるのかもしれない。

飲食での配膳ロボット活用。メリットと課題

メリット

・人にかかる負担を軽減できる→離職率の低下、接客サービスの質の向上に
・人より多い皿数を運べるため、時間あたりの業務効率化が図れ、回転率が向上する
・省人化によって人件費を節約できる→利益の最大化
・外食産業が抱える人手不足の問題の解決策に
・コロナ禍における顧客の非対面・非接触ニーズに応えられる

課題

・高い導入コスト(ソフトバンクロボティクスの場合、レンタルで3年400万弱。買い切りでは330万~)
・ロボットの仕様に合わせ、店舗設計を変更したり、操作を覚えたりする必要があり、導入に別途手間やコストがかかる
・配膳専用として配置しなくてはならず、人と完全に置き換えられるわけではない→小型の店舗ほど、少人数のスタッフに総合的な立ち回りが求められるため、相性が悪い

このように導入メリットも多い配膳ロボットだが、設計面および費用面で課題あり、一般化するにはまだ時間を要すことが予想される。しかし、オーダー情報と連携できるなど高い省人化効果を可能にする機能開発やデータの活用など、技術の進歩が早まれば、導入もまた早まるかもしれない。

ニューノーマル時代にサービスロボットがもたらす顧客体験とは

(出典:iStock)

飲食業界で進むサービスロボット活用。その真価は、顧客体験と地続きになってこそ発揮されるのかもしれない。珍しさからくる集客への期待、人の代わりとしての利用、人件費削減、利益最大化といった事情はすべて、店舗側の都合であると言える。そのために人の手がロボットへと置き換わることに、顧客は理解を示すだろうか。

現代は、顧客体験が重要視される時代である。そのような時代に、飲食店は配膳ロボットの活用を通じ、どのような体験を提供できるのか。非対面・非接触のニーズに応え、安心・安全を担保することは、その問いに対する答えのひとつとなりえるはずだ。

今後は小売や飲食だけにとどまらず、観光や宿泊、医療、介護といった分野でも活用が進むと予測される。ニューノーマル時代にサービスロボットがもたらす顧客体験とは。身近で起こるDXには無限の可能性が広がっている。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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