小売店向け

2020.03.27

OMO時代に進化するデジタルサイネージ。パーソナライズ化で変わるCXとは

近年、街でよく見かけるデジタルサイネージ。これまでは「情報を表示するためのツール」として使われてきた同媒体だが、今後は活用方法がアップデートされていくという。 OMO時代に進化するデジタルサイネージとは。リテール分野で期待が寄せられる同媒体の現在地から小売の未来を考えていく。

中国にあるデジタルサイネージ活用の最前線

デジタルサイネージとは、液晶ディスプレイなどを使ったデジタル型の情報・広告媒体のこと。インターネットや外付けのメモリを介して得たデータを、ディスプレイへと表示する仕組みを持つ。ポスターなどのアナログ広告とは違い、動画や音声のコンテンツも扱える。

デジタルサイネージは、デジタル技術が急速に広まった2000年ごろから実用化が進み、近年の日本ではショッピングモールや駅、映画館といった日常的な場所でもよく見られるようになった。私たちの暮らしに着実に溶け込みつつある同媒体だが、デジタル先進国の中国ではさらに広く活用が進んでいるという。その最前線が中国・深センにある。

中国・深セン(iStock)

深センは“中国のシリコンバレー”と言われる国内第3の都市で、市内にはテンセントやファーウェイといった巨大IT企業の本社がひしめく。言わば中国のデジタル化を支える要衝だ。同市にあるショッピングモール・皇庭広場では、大半のテナント店舗がデジタルサイネージを導入し、キャンペーンの告知や商品のプロモーションをおこなっている。日本であれば、エントランスやインフォメーションセンター、休憩スペースなど、人の集まる場所に限定されている同媒体の活用が、個々の店舗にまで拡大しているのだ。

また、深センにおいては、日本では珍しい場所での活用も目立つ。市内にある一部の交番や地下鉄のホーム、バスのリアウインドウなどはその一例だ。先に紹介したショッピングモールでは、トイレ洗面台の鏡にもデジタルサイネージが埋め込まれ、広告などが表示されている。こうした場所での活用は日本であまり例がない。中国・深センでは同媒体が日本以上に暮らしに溶け込んでいる実情がある。

デジタルサイネージは“時間”と“場所”に適応する

最前線である中国・深センほどではないものの、デジタルサイネージの活用は世界中で進んでいる。日本でも街に繰り出せば簡単に見つけられるほどだ。いったいなぜ同媒体がこれほど浸透を見せているのだろうか。その理由には「時間と場所に適応する広告媒体」というデジタルサイネージの特長が関係している。

「OOH」という言葉をご存知だろうか。

OOHとは、「Out Of Home」の頭文字をとったマーケティング用語で、家庭の外、つまり屋外にある広告媒体を指す。看板やポスターが主な例で、デジタルサイネージもこれに含まれる。規格が決まっているケースの多い家庭内の広告(テレビCMやラジオCMなど)と比べ、自由度の高い制作が可能であり、デザイン面の工夫によりインパクトを与えられる場合も珍しくない。ターゲットに深くアプローチできる手法として注目されている。

一方で、看板やポスターはアナログ広告である特性上、見られる時間や設置場所によって内容を変えられない。一度制作・掲示されたものはいつでもどこでも同じ内容で訴求せざるを得ず、変動するターゲットに合わせたアプローチができないデメリットを抱えている。

このデメリットを解決するのが、デジタル型の新しいOOHであるデジタルサイネージだ。同媒体には表示内容を柔軟に変更できる特長がある。表示される時間帯や設置場所によって広告の内容を変えられるため、“時間”と“場所”に適応した訴求が可能となっている。

このようなアプローチは、テレビCMやラジオCMといった家庭内で触れる広告であっても難しい。これらは時間こそ区別できるものの、場所が家庭内に限られてしまうためだ。デジタルサイネージはOOHのメリットを生かしつつ、そのデメリットを最小限にした広告媒体だと言える。この点がデジタルサイネージが重宝される理由となっている。

パーソナライズされるデジタルサイネージ

また近年では、デジタルサイネージの持つ、デジタル媒体ならではの特長も注目されている。さまざまなデータと連携することで、個々のターゲットにパーソナライズされた情報を表示できるというものだ。

例えば、備え付けのAIカメラが撮影・解析したデータを用いれば、ユーザーの年齢や性別に最適化された広告を表示することも可能となる。ユーザーが得たい情報を的確に提供できることは、UXの向上にもつながるだろう。特に顧客行動のデータ化を目標とする“店舗デジタル化”の概念とは相性がよく、今後はリテールの分野でデジタルサイネージの応用が加速するとみられている。

サイネージの前に立つと、パーソナライズされた広告が表示される(編集部撮影)

こうした流れを牽引するのが、中国のIT大手アリババだ。同社は2018年4月、中国・杭州にショッピングセンター「親橙里(チャンチャンリー)」をオープンした。

親橙里では、施設内のさまざまな場所にデジタルサイネージが設置され、顧客に新しい体験を提供している。ある雑貨店には、かざすだけで自動的に商品を認識し説明をおこなうデジタルサイネージが、別のアパレル店舗には、目の前に立つ顧客の体型などを自動で解析し、その人に合ったコーディネートを提案するデジタルサイネージが置かれた。これらはどちらも「ただ情報を発信する」という既存の枠を超えた、応用的なデジタルサイネージだ。

サイネージ上で試着を行える(編集部撮影)

同施設の店舗では並行して、モバイル決済や系列ECサイトとのアカウント連携を推進する取り組みもおこなわれている。アプリなどに登録された顧客情報とリアルな行動データを統合することで、サービスの質やCXを向上させていく狙いがあるのだろう。背景にあるのは“OMO”の考え方だ。

OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインのマーケットを区別せず、ひとつの大きなマーケットとして捉えていこうとする概念のこと。近年のリテールにおいては、トレンドの考え方となっている。

親橙里のケースでは、グループ会社が提供するモバイル決済アプリ・Alipayを決済時に利用してもらうことで、「特定のアカウントIDがリアル店舗でどんな商品を購入しているか」という情報が得られる。この情報をもとに系列ECサイトで同様の商品をレコメンドすれば、購入に至りやすくなるという寸法だ。さきほど紹介したコーディネートを提案するデジタルサイネージを経由して商品を購入すれば、ECサイトでよりフィットする商品をレコメンドされる場合もあるかもしれない。同媒体がOMO実現のための顧客との接点となっている。

デジタルサイネージの応用は飲食業界でも

デジタルサイネージは飲食業界でも可能性を見出されている。

ファーストフード大手の米マクドナルドは、ドライブスルー用のメニュー看板にAI活用のデジタルサイネージを採用。オーダー履歴や来店時間、天気などのデータを収集し、表示メニューの最適化を目指す。最終的には車のナンバープレートをAIカメラで認識し、顧客ごとに個別のレコメンドメニューを表示するという。同媒体を応用したパーソナライズに積極的に取り組んでいる。

Digital Menu Board

マクドナルドでAIメニュー登場。実店舗も”パーソナライズ”される未来

また、2019年6月、東京・日本橋にオープンしたコーヒースタンド・TOUCH-AND-GO COFFEEも、OMO視点でデジタルサイネージを応用する飲食店のひとつだ。

同店舗では、メッセンジャーアプリのLINE経由でコーヒーの注文をおこなう。オリジナルのボトルラベルを作成できる機能が評判で、連日多くの利用客が店舗を訪れているという。SNS(オンライン)から来店(オフライン)へと結びつける手法は、まさしくOMOの考え方だ。

店内には、オーダーのステータスを確認できるデジタルサイネージが設置され、注文したコーヒーが完成すると、設定した名前宛に「〇〇さん コーヒーができました!」と表示される。これも一種のパーソナライズだと言えるだろう。

自分好みのボトルをスマホでカスタマイズ。「TOUCH-AND-GO COFFEE」

このように飲食業界でもデジタルサイネージの応用事例が相次ぐ。デジタル化した店舗において顧客との貴重な接点となりえる同媒体には、今後も期待が寄せられていくに違いない。

“店舗デジタル化”は未来の問題なのか

日本はいま、人手不足の時代を迎えている。この時代にどのように店舗を運営していくのか。解決策のひとつとして与えられているのがテクノロジーの活用だ。

商品の説明やオーダーシーンでの対応、顧客ごとにパーソナライズされたレコメンド。これらは本来、人が長い時間をかけておこなってきた業務である。デジタルサイネージなどの店舗効率化ツールはこうした業務を一手に引き受け、さらにデータ活用の面でもメリットをもたらす。

「省人化」「サービスの質」「顧客体験」の3つを共存させる方法とは。デジタルツールは日本の小売店舗に差す一筋の光なのかもしれない。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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