2020.11.18

インタビュー

飲食店向け

【DX対談】日本の飲食業界は「オフ・プレミス」をどう実現するか

コロナの到来により転換期を迎えた飲食業界で、実店舗の外にあるビジネス――「オフ・プレミス」が注目を集めている。テイクアウトやデリバリー、ECといった業態で成功を掴むために、飲食店には何が求められるのか。

本特集では全3回にわたり、「飲食業界の未来"オフ・プレミス”」をテーマとしたオンラインイベント「OMO meetup vol.2」の模様をお届けする。

第1部では、CARETTA WORKS代表の亀田純香氏、株式会社電通の上原拓真氏を、それぞれスピーカー、モデレーターとしてお招きし、中国飲食業界で進むDX最前線へと迫った。

※この記事は、2020年10月27日におこなわれたShowcase Gig主催のオンラインセミナー『OMO meetup vol.2』の「第1部「13億人の胃袋をどうつかむのか?中国の飲食業界DX最前線」の内容を文章化したものです。

登壇者プロフィール

亀田 純香(上海暁閨商務諮詢有限公司 総経理・CARETTA WORKS 代表)
中国在住21年。中国国営企業、日系企業での管理職経験を経て中国ビジネスコンサルタントとして独立。企業の中国 IoT、AIテック視察同行で体験談や現地ビジネスモデルを紹介。著書『90分でまるわかり中国』

中島 治也(株式会社Showcase Gig プラットフォーム戦略部)
みずほ証券を経て2014年テンセントジャパンの創業メンバーとして入社。2018年同社WeChat Pay事業の日本リージョナルディレクターに就任。2020年春から株式会社Showcase Gigに参画。

上原 拓真(株式会社電通 データ・テクノロジーセンターシニアプランナー)
広告会社でプランナー、日経広告研究所 客員研究員を経て2011年に電通入社。その後イオンリテールへの出向後、電通へ再入社。外食/小売業のデジタルマーケティング支援や事業コンサルティングに従事。

中国で浸透する「オフ・プレミス」の実情

上原:最近日本でも増えている中国のDXを紹介するイベントですが、「中国だからできる」という着地では、あえてトピックにする意味がないのかなと考えています。こうしたデジタル化は近い将来、日本の飲食業にも必ず訪れる変化なのかなと。だからこそ今回のセッションに未来の飲食店経営のヒントがあるはずです。

IT用語として知られる「オフ・プレミス」という言葉ですが、飲食業界では特に、テイクアウトやデリバリーといったイートイン以外の飲食店利用を指して使われます。今年はコロナの流行で、日本でも店外での飲食がより一般的なものとなりましたが、中国のオフ・プレミスでは、また違う世界が広がっているようです。上海にはイートイン限定の飲食店がほとんどないと伺ったのですが、本当ですか?

亀田:はい、ほとんど思い浮かびません。デリバリーに対応していないケースはあるかもしれませんが、テイクアウトにはほぼすべての飲食店が対応しています。店内のみでしかサービスを受けられないお店の数はゼロに近いのではないかと。

亀田:これは、フードコートにあるドリンクスタンドです。QRコードを活用して、レジスタッフなしで運営されています。店頭にあるWeChatのミニプログラムでスキャンすると、モバイル注文と決済ができる仕組みですね。ドリンクができあがるとスマートフォンにプッシュメッセージが届くので、お客様自身がカウンターまで商品を取りに行きます。

注文と決済、ピックアップをセルフにしても、スタッフの数が減っていないのが中国の非接触・キャッシュレス事情の面白いところで、レジスタッフの代わりにQRコードのポップを持って立っている案内役の店員が配置されています。

亀田:中国では、フードコートを利用するほとんどのお客様が、店頭でスマートフォンを操作しています。自動販売機にも必ずQRコードがついていて、すべてモバイル端末から決済ができますね。

マクドナルドも同様で、レジよりも店外にお客様が集まります。注文を済ませてからカウンターに向かうので、店内ではなく店外に列ができるんですよね。レジスタッフは基本的におらず、QRコードの案内係と調理スタッフの方が主に働いています。

上原:日本のマクドナルドでは、今年になってようやく正式にモバイルオーダーが導入されました。けれども現状では、レジで注文する方がまだ多数派のようです。それに比べると、非接触・キャッシュレスが浸透した中国では、店頭にいてもスマートフォン経由で注文するのが当たり前となっているんですね。

亀田:そうですね。中国では既に財布を持つ習慣がなくなりつつあるので、ほぼすべての方がモバイル経由で注文・決済をおこないます。

店内で食事できない中国の飲食店

中国のデリバリー&テイクアウト専門店

中国のデリバリー&テイクアウト専門店

亀田:こちらは「中国のデリバリー&テイクアウト専門店」です。いま上海で人気の2店ですが、どちらも店内で飲食できません。売上の9割以上をデリバリー、残りをテイクアウトでまかなっている飲食店です。

左の店舗では、もともと4.3元(約67円)に配送費が設定されていますが、オーダーの時点で1.5元(約23円)となっています。店舗や配達代行会社のサービスで値引きがされていますね。

上原:日本の配達料金と比べると値引き前の価格でも十分に安いのですが、中国ではこれくらいの料金が一般的なんでしょうか?

亀田:そうですね。中国に住んでいる人の感覚では、30円前後から安いという印象になると思います。私の場合、値引き前の価格だと高くて注文をためらいますね。

亀田:そのほかでは、スマートロッカーを店頭に設置したピックアップ専門の飲食店もあります。通勤途中の電車内などでスマートフォンから注文を済ませておけば、待ち時間なしで商品を受け取れます。こうした店舗も店内での飲食を前提に作られておらず、スタッフによる接客がありません。似たような用途でオフィスビルや駅の構内などにも、デリバリー商品をピックアップするためのスマートロッカーが設置されています。

デリバリー専門店:火鍋店

上原:先ほど亀田さんの話にもありましたが、中島さんが携わっていたWeChatでは、こうしたアプリを提供していますよね。

中島:はい。これはWeChatのアプリ内に用意されている「ミニプログラム」と呼ばれる機能で、店舗にあるQRコードを読み取るとすぐに起動できます。日本では、企業ごとに自社でアプリを開発するパターンが多いですが、中国では、利用する店舗に合わせて都度ユーザーがダウンロードする負担を考え、WeChatなどのプラットフォームが一括で提供しています。

コロナ禍における中国・外食企業の安心・安全対策

上原:次はマクドナルドの写真のようですが、このハートマークのシールはどういったものなんですか?

マクドナルドの非接触対応

亀田:調理した方や配達員、お客様に商品を手渡したレジスタッフの名前と体温が記されているシールです。

上原:なぜそのような取り組みを?

亀田:お客様に安心してマクドナルドを利用していただくためですね。商品に関わったスタッフの健康状態を把握できていることをメッセージとして発信することで、安全管理が行き届いたお店だとアピールでき、店舗利用のハードルを低くできます。マクドナルド以外にも多くの飲食店がこうした対策に取り組んでいます。

亀田:中国では、「健康コード」と呼ばれるデジタル証明も生まれています。赤・黄・緑の3色の表示があるのですが、最も安全な緑でなければ、公共施設の利用や飛行機・鉄道の乗車などが制限されてしまいます。コードの提示を義務付けることで、感染の可能性が高い人をある程度まで判別できる仕組みですね。

上原:コードの発行にあたり、ユーザーが手動で行動履歴などを登録するんですか?

亀田:いえ、WeChatやAlipayといったプラットフォームにより、自動的に判別されます。中国ではアプリなどを通じて個人データが収集されているので、ユーザーがわざわざ登録しなくても自動で履歴が記録されるのですよね。マクドナルドなど飲食店によっては店頭に、その日働いているスタッフの名前と健康コードが一緒に掲示されています。これも先ほどのシールと同様、消費者に安心感を与える取り組みですね。

(右)健康コードと呼ばれる健康状態のデジタル証明 (左)健康コードが提示されるマクドナルド

上原:なるほど。一方で日本では、こうした個人データの収集に抵抗感がある方も多いようです。中島さんはアプリの提供していた立場から、こうした取り組みをどう感じますか?

中島:日本でも参考にできる部分があると感じています。例えば、日本の飲食店などでおこなわれている店頭での検温って、店舗・消費者の両者にとって負担となっている側面がありますよね。政府や自治体がこういった証明を発行してくれれば助かると考える方も、一定数いるのではないでしょうか。国を挙げてコロナ対策をするという意味では、見習うべき点もある事例かなと。

上原:日本も厚生労働省が「COCOA」というアプリを提供していますが、あくまで自発的な登録によって運用されています。やはりこういった部分に仕組みの違いが現れてきますね。

中島:中国の場合は既に普及しているプラットフォームがあるので、スピード感を持って取り組めた背景があると思います。アプリのダウンロードからスタートしなくていい点も、日本との違いに挙げられるでしょうね。

飲食店のDXを牽引するスーパーアプリ・WeChat

上原:非接触・キャッシュレスが浸透した中国では、「どんなものでもスマホ決済で買える」と言われていますが、これは本当なのでしょうか?

中島:そうですね。スマホさえあれば、大体のものは買えてしまいます。先ほど亀田さんもおっしゃっていましたが、中国の方は基本的に財布を持ち歩かないんですよ。スマホが電子ウォレットとして機能しているから、財布を持ち歩く必要がないんです。日本でもPayPayやLINE Payなど、QRコードを活用したスマホ決済が昨年から数多く登場していますが、中国ではAlipayとWeChat Payがシェアを二分していますね。

上原:WeChat Payは、中島さんが以前所属していたテンセントの提供するスマホ決済ですね。

中島:はい、WeChatは中国で最もユーザー数の多いアプリで、月に1度以上使うユーザーが12億人います。中国の人口が約13億人なので、老若男女ほぼすべての方に利用いただけている状況がありますね。

上原:WeChatはどんなことができるアプリなんですか?

中島:LINEのようなアプリと考えていただければ大丈夫です。友達とメッセージのやりとりができるコミュニケーションツールをベースに、そのほかさまざまな機能が追加されています。例えば、公共料金や携帯電話料金の支払いもアプリ内からできますし、住民票の移動や等の行政手続きもおこなえます。さらに身分証や健康保険証のような役割も担えるので、このアプリさえあればキャッシュレスとカードレスが同時に実現できるんですよね。WeChatがスーパーアプリと言われる所以は、こうした幅広い機能性にあります。

中国では、バイドゥ、アリババ、テンセントの3大IT企業がプラットフォーマーとして活躍していますが、アプリの利用時間ベースでは、テンセントの提供するWeChatが5割以上を占めています。コロナをきっかけに飲食店がDXを目指す場合、浸透するプラットフォームを活用しない手はありません。多くの飲食店がWeChatのミニプログラムを使うのは、こうした理由からです。

上原:なるほど。日本で言うならば、LINE上で飲食店のビジネスを拡張させられるようなイメージでしょうか。

中島:そうですね。アプリやウェブサイトを自社で開発するよりは、誰もが使うWeChat上に展開したほうが早いということです。WeChat Payと合わせて活用すれば、DXが簡単に実現できるとご想像いただけるはずです。

日常生活のあらゆる場所にQR決済が浸透する中国

上原:ここで亀田さんには、中国におけるスマホ決済普及の現状を、写真でお伝えいただきます。亀田さん、よろしくお願いいたします。

亀田:スーパーやコンビニエンスストア、カフェなどでは、店頭にQRコードの記載されたポップがあり、そこでモバイル注文と決済を終えてから店内へと進みます。レジで待つ必要がないので、ストレスなくお店を利用できる印象ですね。珍しいところでは、公共トイレのトイレットペーパーもQRコードをスキャンすると、規定の長さの紙が出てくる仕組みです。もちろん高速道路や公共交通機関の料金もモバイル決済で支払えます。どんなものでもスマホがあれば買えてしまいますね。

飲食店のテーブル上には注文用のQRコードが設置されている

亀田:飲食店のテーブルには、注文や決済を座席ごとに管理できるQRコードが設置されています。一般にテーブルオーダーと呼ばれているものですね。最近では、対応していない飲食店をほとんど見なくなりました。やがて日本もこういった状況になるのではないでしょうか。

飲食店がテーブルオーダーを導入する意味

1.非接触
2.飲食業で人材不足
3.スタッフの教育コスト削減
4.業務の効率化
5.顧客満足度があがる
6.回転率向上
7.メニューの切替が簡単にできる
8.人的ミスが少なくなる
9.顧客データの分析が簡単にできる
10.インバウンド対策(外国語対応)

上原:「飲食店がテーブルオーダーを導入する意味」についてまとめていただきましたが、こうして見ると、もう導入しない理由がないほど実益の多いシステムなんですね。

亀田:そうですね。やはり効率化されるというのが1番だと思います。テーブルオーダーが注文の工程を済ませてくれると、店員は料理を運んだり、お皿を下げたりといったサービスに集中できますよね。注文を受けるのに店員が必要となりますし、注文を待つ時間もロスになります。消費者からすると、店員が忙しいタイミングで声を掛けるのも大変じゃないですか?一度使うと便利さのわかるツールですね。

上原:アプリでスキャンするだけですぐに使えるんですか?

亀田:中国で一般的なものは、アプリ上で店舗をフォローしなくてはなりません。フォローしておくと、イベント情報やクーポンが自動で配信される仕組みになっています。

中島:従来の外食では、店舗でサービスを受けている瞬間だけが消費者と飲食店の接点だったんですが、テーブルオーダーを導入すると、お店の外でもつながりを持てるんです。過去に訪れたお客様が、アプリ経由で配信されたクーポンを見たことがきっかけで、また店舗を利用してくれるかもしれません。この点が飲食店のDXのメリットですね。

日本と中国のDXはどこが違うのか

上原:中国の飲食業界は現在も急成長を続けています。その一因が本日のテーマである「オフ・プレミス」なのではないかという視点について、お二人はどう考えますか?

亀田:今年コロナが流行したことで、これまでイートイン以外の利用をビジネスの選択肢から外していた飲食店も、次々テイクアウトやデリバリーに参入してきています。実際に新しい販路を開拓し、売上が増えている店舗も多いようです。上海では、デリバリーのバイクを見かけない日がありません。「オフ・プレミス」は、飲食業界活性化のキーワードとなっているでしょうね。

中島:「オフ・プレミス」における日本と中国の違いは、対応の柔軟さにあると感じています。日本のデリバリーやテイクアウトは、ハンバーガーショップなど、一部の飲食店に限られるサービスとなっていますよね。中国では既成概念にとらわれず、どんな業態もデリバリーやテイクアウトに対応しています。この柔軟さも活性化の要因なのではないでしょうか。

中国には、飲食店にSaaSを提供する気鋭のベンチャー企業も多く存在しています。例えば、スマホでお店の発注管理ができるアプリや、スマホ決済とテーブルオーダーをつなぐソフトウェアなどですね。最近では、市場の状況に合わせて柔軟かつスピーディーにソフトウェアを提供できるプレイヤーによって、中国のDXが支えられています。

「日本ならではのオフ・プレミス」とは。

上原:最後に、日本ならではのオフ・プレミスについて、お二人はどう考えますか?

亀田:私は、日本も中国も変わらないのかなと感じています。飲食店が提供したいサービスとは別に、利便性を取りたいユーザーのニーズがあり、そこに「オフ・プレミス」のマーケットがあると考えます。これからの時代、インバウンドも含め、多様化するターゲットにフォーカスしていくことが集客のチャンスにつながるのではないでしょうか。中国・日本といった区別なく、飲食店は今後、食に関連する総合商社のようになっていくと考えます。イートインのみにこだわらない柔軟な姿勢に、ヒントが隠れている気がしていますね。

中島:日本のオフ・プレミスが中国に比べて遅れている理由のひとつに、文化的な背景の存在を感じます。中国には元々、たくさん頼んで残したものを持ち帰る文化があり、そのために飲食店にドギーバッグが用意されていたんですよね。その後、デジタルの波が訪れてテイクアウトやデリバリーの文化が生まれたとき、容器や袋を新たに準備する必要がない分だけ対応するハードルが低かった背景があります。廃棄食品を減らす動きは、最近になって日本でも盛んになってきているので、今後DXが進むにつれて同じような動きが見られるようになるのかと。その流れに期待したいですね。

上原:日本ならではのオフ・プレミスが近い将来、実現するといいですね。

 

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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