2020.12.01

インタビュー

飲食店向け

【DX対談】飲食店の「オフ・プレミス」化で、私たちの食体験はどう変わる?

消費者の食行動は、外食市場から中食・内食の市場へと需要がシフトしている。ポストコロナの時代、日本の食市場はどう姿を変えるのだろうか。

第3部では、Scrum Venturesの宮田拓弥氏、オイシックス・ラ・大地株式会社の奥谷孝司氏をスピーカーにお招きし、コロナ禍で業績を上げるビジネスなど、日本の食市場の未来についてお話を伺った。

コロナ禍で消費者の食行動に変化が起こっている。外食市場から、中食・内食の市場へと需要がシフトしているのだ。こうした状況に適応するため、飲食店はイートイン以外の業態――「オフ・プレミス」へと参入し、窮地からの脱出をねらう。食市場の再編が起きつつある状況だ。ポストコロナの時代に、日本の食市場はどう姿を変えるのだろうか。この特集では全3回にわたり、「飲食業界の未来”オフ・プレミス”」をテーマとしたオンラインイベント「OMO meetup vol.2」の模様をお届けする。

第3部では、Scrum Venturesの宮田拓弥氏、オイシックス・ラ・大地株式会社の奥谷孝司氏をスピーカーにお招きし、日本の食市場の未来についてお話を伺った。

※この記事は、2020年10月27日におこなわれたShowcase Gig主催のオンラインセミナー『OMO meetup vol.2』の第3部「オフ・プレミス時代。ここから日本の『食』はどう変わるのか?」の内容を文章化したものです。

登壇者プロフィール

宮田 拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラル・パートナー)
日米でのスタートアップ起業&イグジットを経て、ミクシィのアライアンス担当役員、mixi America CEOを務める。2013年に日米のスタートアップ投資を行うScrum Venturesを創業。
※当日はサンフランシスコより中継参加

奥谷 孝司(オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 COCO/株式会社顧客時間 共同CEO 取締役)
良品計画を経て2015年より現オイシックス・ラ・大地に入社。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。顧客時間を2018年に共同設立。日本マーケティング学会理事。著書『世界最先端のマーケティング』

新田 剛史(株式会社Showcase Gig 代表取締役)
東京ガールズコレクションのプロデューサーを経てミクシィ入社。新規事業の責任者として数々のヒットを生み出す。2012年Showcase Gigを設立。国内初のモバイルオーダーサービス「O:der(オーダー)」を提供する。

コロナ禍で業績を上げるビジネスが持つ視点とは

新田:エンゲル係数をご存知でしょうか。世帯の消費支出に対する飲食費の割合を示した指標です。このエンゲル係数が、コロナ流行下で26%から31%まで上がったとのデータがあります。外食から中食・内食へと消費者の食行動が変化する中で、家庭の飲食費自体は増えているんですね。つまり、消費者はテイクアウトやデリバリー、ECといった業態を通じて、コロナ流行以前より食にお金をかけていることになります。外食産業が不況と言われる一方で、中食・内食は好調に推移しているというわけです。

第3部では、エンゲル係数に裏付けられた消費者の食行動の変化へと迫ります。宮田さん、奥谷さん、まずはそれぞれの事業についてご紹介いただけますか。

宮田:スクラムベンチャーズでは、世の中に新しい価値を創出するべく、日本と世界の企業をつなぐビジネスを展開しています。創業当初はベンチャーキャピタルから事業をスタートさせましたが、その後はアクセラレーターとして事業拡大の支援や、オンラインで双方をつなぐプラットフォームの提供などもおこなっていますね。

今回のテーマと関わりの深いところでは、「Food Tech Studio – Bite!」というフードテックに関連するプラットフォームも運営しています。代替肉などを開発するアメリカのスタートアップと、日本を代表する食メーカーの間を取り持ち、新たな技術やサービスの共創を目指すプロジェクトです。

奥谷:私たち、オイシックス・ラ・大地は、有機野菜や無添加食品などを一般家庭向けに提供するサブスクリプションサービスを展開しています。お客様の選択されたコースに合わせて、お客様に商品提案を行い、それを選んでもらう行為を経てご自宅まで配送する仕組みですね。扱う商品やターゲット、利用者の目的別に「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3ブランドを展開しています。

今年4月には、飲食店のEC化を支援するプロジェクト「おうちレストラン」もスタートさせました。本来、弊社の取り組みからすると外食産業は競合になりますが、コロナ禍に合わせたオフ・プレミスの取り組みのひとつとして、ECプラットフォームの提供を始めた形です。現在のところ、塚田農場さん、串カツ田中さんなどにご利用いただいています。今後、強化していきたい分野のひとつですね。

飲食店のEC化を支援するプロジェクト「おうちレストラン」(出典:オイシックス・ラ・大地株式会社)

新田:ありがとうございます。スクラムベンチャーズさんの業務領域にコロナの影響はありましたか?

宮田:そうですね、ベンチャーキャピタル事業ではさまざまな企業と関わっているので、影響を受けた投資先もあります。飲食に近い小売の分野で、好影響を受けた事例を3つ紹介しますね。

まず1つ目が、自動車ディーラー向けSaaSを提供するアメリカのスタートアップ・Prodigyです。この企業はコロナの流行を受けて、バーチャルショールームという機能をアプリに取り入れました。顧客の希望に基づいて店舗スタッフが車を見学・体験し、その映像をオンライン経由で見せるサービスですね。

実はアメリカでは、給付金の支給で車の需要が高まっているんです。けれど、コロナの影響でディーラーが閉まっている場合も多くて。買いたいのにチェックできない状況がありました。バーチャルショールームはそうしたニーズを満たせる機能ということで、多くの方に利用いただけていますね。

2つ目は、小売店向けの省人化システムを提供するサンフランシスコのスタートアップ・Zippinです。コンセプトストアとして、Amazon Goのようなタッチレス・キャッシュレスの無人店舗も運営する会社ですね。日本では、ローソンさんのレジなし店舗「ローソンGO」にシステムを提供しています。世界中に導入事例のある企業で、以前から業績が好調だったんですが、コロナ禍で非接触の文化が注目されていることもあり、さらに伸びている状況です。

最後は、日本のスタートアップ・VACANです。「vacant」という英単語に由来する社名のとおり、店舗の空席状況を知らせるアプリを開発・提供する会社ですね。本来は空き情報を共有するサービスだったんですが、コロナの影響で立ち位置が変わり、混雑情報を知れることに価値が見出されてきています。ラーメン店やレストランなど、飲食店の導入事例が増えていますね。

新田:なるほど。奥谷さんはいかがですか?

奥谷:家で過ごす時間が増えたこと、安心・安全や健康への関心が高まったことで、ミールキットやヴィーガンフードなどを中心に売上が伸びていますね。販売インフラの整備がなんとか間に合ったからこそ需要に応えられたかなと実感しているところです。

今年4月にスタートした「サクッと!Oisix」では、時短でのサービス提供に注力しました。こちらも高いユーザー単価を示しています。家にいる時間が増えると商品選びに時間を使ってもらえそうなんですが、実際は家事・育児・仕事などのマルチタスク化で、以前と変わらず忙しいという人も多いんですよね。「サクッと!Oisix」では、そうした層のニーズに応えました。

私たちのビジネスは、市場からモノを買って販売するわけではなく、農家と直接つながってお客様の元へ食材を届けるものなので、物流さえ止まらなければ安定的にサービスを提供できます。サプライチェーンに依存しないビジネスのメリットや役割を、コロナの流行であらためて感じました。

(出典:オイシックス・ラ・大地株式会社)

オンラインでの体験がマーケットを再構築していく

宮田:先ほど、コロナの影響で食行動に変化が起きていると、新田さんがおっしゃっていましたが、エンゲル係数に関する統計以外にも面白いデータがあります。

私たちの投資先に、クレジットカードの利用統計などをリアルタイムで解析し、提供するSecond Measureというスタートアップがあるんですが、彼らが発表した資料によると、2020年に入り、フードデリバリーの市場規模が約2倍に膨れ上がっているんです。トップシェアのベンチャー企業・ドアダッシュの直近の時価総額は約1.8兆円。これは、日本の企業で言えば、日産自動車と同等の数字です。消費者の食行動が変化したことを如実に表すデータが記載されているんですよね。

私は、“場の概念の変化”に適応できるかが、飲食店生き残りの条件になっていると感じています。私たちの生活空間を、家・職場・店舗の3軸で分解すると、「職場」と「店舗」では、過ごす時間や用途がコロナの影響で減っているんです。一方で「家」では、両方が増え続けている。こうした状況は、アフターコロナの時代になってもおそらく変わりません。つまり、この環境に適応できなければ、市場の縮小とともに競争から脱落することになる。いま示されている食行動の変化も、元をたどれば、過ごす時間と用途の変化が前提にあります。こうした“場の概念の変化”への適応が、これからは大切になってくるのではないでしょうか。

新田:そういう意味では、先ほど宮田さんに挙げていただいた3つの事例は、変化にフィットして結果が出ているケースということになりますね。

宮田:そうですね。その他だと、Amazonも新しい取り組みを始めています。今年9月に発表したAmazon Exploreでは、世界各国のガイドを通じて、観光やショッピングなどをオンラインで体験できるんです。しかも、欲しい商品については、Amazonアカウント経由で購入もできる。現地に行かなくても、旅行に付随したさまざまな体験が受け取れるんですね。今後コロナが収束し、自由に旅行ができるようになっても、こうしたサービスへの需要は残っていくと予想しています。同様に食の分野でも、ただのカロリー摂取という目的を超えて、オンラインで代替できるような体験が増えてくるのかもしれません。

奥谷:映像で見た海外の商品を買えるとのことですが、その場合、買った商品は現地から送られてくるんですか?それとも、Amazonが抱えている日本の在庫を買うことになる?

宮田:おそらく映像でチェックした現地の在庫が送られてきます。発表されたばかりのサービスで情報があまりないので、確定しているわけではありませんが。グローバルな展開をしていないローカルな小売店が、映像を通じて世界中で商品を販売できるようなプラットフォームになるんだと思います。

奥谷:なるほど、画期的なサービスですね。私も「誰かが誰かの代わりに動く」時代がこれから来るのではないかと考えていたので、とても勉強になりました。

新田:食の分野だと、オンライン飲み会などのシーンに応用するのも面白そうです。参加者それぞれが現地でしか買えないグルメ商材を取り寄せて、オンライン飲み会で体験を共有するといったような。可能になれば、内食・中食における体験が外食に限りなく近づくでしょね。

これからの飲食ビジネスに求められる“体験的価値”とは

新田:変化する消費者の食行動にともなって、飲食ビジネスも変容しています。コロナの流行で、内食と中食、外食の間にあった垣根がなくなりつつあると、私は感じていて。オイシックスさんでは、ちょうどこの境界をビジネス領域にしているかと思いますが、奥谷さんは食市場の今後をどのように捉えていますか?

奥谷:まだポストコロナとは言えない時期ということもあり、消費者の買物意識と行動は自宅などの住空間に向かっていると、私は考えています。当然、そういうベクトルの中では、食における志向も住空間へと向かうため、外食の機会は自ずと減ってしまいます。オイシックスとしては、消費者が食事したい場所に、消費者の満足できる商品を届けていくことが、より大切になっていくかなと。「おうちレストラン」を通じて、飲食店の商品を家で食べられるような状況にしていけば、外食の気分を味わいたい消費者のニーズにも応えられますよね。

新田:食行動が外食から内食・中食へと向かうと、必然的に料理人の数は減っていくことになるでしょうか?

奥谷:いえ、私はプロだけでなく、アマチュアまで含めた稼働率で考えるべきだと思っています。家で料理する方は、コロナ流行以前より増えているはずですよね。

弊社代表の高島がよく話しているんですが、ミールキットは料理のカーナビみたいなものなんです。あれば便利だけど、だんだん見なくても目的地にたどり着けるようになる。私たちは、より多くの人に料理の機会を提供することが大切だと思っています。ミールキットによって、料理が苦しいものから楽しいものへと変わっていけば、料理人口は増えていきますよね。ありがたいことに現状では、自宅で自分で作って食べる人の数が増えているので、オイシックス・ラ・大地では、そうした層のニーズに応えられるように商品を提供していきます。

新田:なるほど。食市場全体でマーケットを捉えていくということですね。アメリカでは、いかがでしょうか?外出制限によって日本以上に家で過ごす時間が長くなっているかと思いますが、家庭で料理する機会は増えていますか?

宮田:はい、自炊する人が増えていますね。日本で緊急事態宣言が発令された4,5月のような状況が、アメリカではずっと続いています。

奥谷:1つ宮田さんに伺いたいことがあります。先ほど事業紹介でおっしゃっていた代替肉のプロジェクトについてですが、私たちもフードテックファンドのような事業を持っていて、その分野に注目しています。やはり今後アメリカでは、フードテックの分野が盛り上がりを見せそうですか?

宮田:そうですね。山火事といった環境問題から、地球が壊れつつあると感じる人が増えていて、その中で原因のひとつに挙げられる家畜の数を減らすために、代替肉やヴィーガンフードに注目が集まっている面はあります。サステナブルであることの価値が年々高まっている状況ですね。

奥谷:なるほど。私はフードテックの領域に食市場の未来があると感じているんです。例えば、日本でもフードロス問題をよく耳にするじゃないですか?生きるための食という意味では、500円あればお腹いっぱい食べられますし、カロリー過多で太ってしまうことだってある。かつてエンゲル係数という指数の見方は、食にお金を使わなくなることが資本主義の発展と生活の充実化のだと言われる時代もありました。この場合の「食」というのは、貧しい食の時代から、豊かな食の時代への変化、進化ですよね。これらからはむしろ食にお金をかけることも豊かな生活の一部となります、

現代の日本では、外食の価値が良い意味でも悪い意味でも下がっているように思います。しかしいまだに特別な体験のために外食をするケースもあると思います。その視点に立つと、外食生き残りの道は、家庭内ではできない貴重な食体験にあるのではないでしょうか。国産食材のみで作られた料理や、代替肉・ヴィーガンフードなどは、自宅でなかなか食べられません。そういった領域まで含め、何をどこで食べるのかが、金額以上に今後大切になっていくような気がしています。

ポストコロナにプラットフォーマーが果たすべき役割

新田:一方で飲食店には、オフ・プレミスへと対応するにあたって、どうブランドを作り上げていくかという課題もあります。私たちもシステム面から飲食店の経営支援をしていますが、このあたりの仕掛け方に不慣れな経営者の方が少なくありません。そういう意味では、オイシックスさんのマーケティングに学ぶべき点も多いのかなと感じています。

奥谷:まず、今後オフ・プレミスで戦っていくことを考えるならば、デジタル化を拒むべきではないですね。内食と中食、外食の垣根がなくなりつつあるということは、オンとオフの境目がなくなっていることと同義です。飲食だけに限らず、あらゆる産業が“withデジタル”でなければ戦えなくなっている。アナログにこだわる飲食店は、その分だけ淘汰の可能性が高まると言えます。

その上で、既存のデジタルプラットフォームを闇雲に取り入れるというのも違う気がしています。例えばデリバリーに参入するなら、配達代行を活用するのがベースになるでしょうが、飲食店と配達担当者がWin-Winとなるようなサービスでなければ、継続的な活用は難しいですよね。どこかに無理が生じるサービスならば、別の手段を検討すべきなのかなと。

宮田:運ぶ以上の価値を、プラットフォーマーがどう提供できるのか。これは1つテーマとしてあるでしょうね。食事には「誰と食べるか」といった体験的な価値が必ずあります。それをデジタルツールでどう実現していくかが、プラットフォーマーの次のステップになるのではないでしょうか。

奥谷:それを実現した新しいサービスが次の時代を担っていくのかなと。これまでのグルメサイトでは、味や価格、お店の外観といった飲食店の機能的な面ばかりがクローズアップされていましたが、今後は店内でのサービスの質や経営者のマインドといった、1つのものさしでは測れない基準にも価値が見出されるようになるはずです。

新田:空腹を満たしたり、おいしいものを食べたりといった機能的な面だけなら、外食にこだわらなくても、中食や内食で叶えられますからね。そういったプラットフォームが一般的になるほど、体験的な価値を提供できない飲食店は、生き残りが難しくなるでしょうね。

デジタルを活用して、顧客のLTVへとフォーカスする

新田:最後に、本日お届けした全3部のセッションを振り返り、あらためて「オフ・プレミス」というテーマについて考えたいと思います。さまざまな形で飲食ビジネスへと携わってきた登壇者の方々の意見を踏まえると、飲食業界の今後は、「消費者のLTVをいかに最大化するか」の1点にかかっていると言えるのではないでしょうか。

シーンの多様性に対応することでLTVを最大化する

実店舗におけるビジネスと、テイクアウト・デリバリー・ECなどの違いは、消費者との接点の違いに過ぎません。どのようなビジネスモデルであっても、顧客体験へとフォーカスし、いかにサービスの価値を高められるかが重要となるはずです。今後訪れるポストコロナの時代には、多様化するシーンへの対応力が試されます。消費者のLTVを最大化するにあたり、正しく消費者像を把握する必要も出てくるでしょう。

その実現のために不可欠なツールが、デジタルテクノロジーだと私は考えます。非接触によって安心・安全を担保した上で、個々の顧客へとパーソナライズされたサービスを提供していく。その積み重ねが消費者の体験を向上させていくのではないでしょうか。

私たちもモバイルオーダーの提供を通じて、新しい食体験を作っていけたらと考えています。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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