小売店向け

2019.11.15

価格はAIが決める?小売におけるダイナミックプライシングの可能性

航空やホテル業界で採用されてきた価格変動制「ダイナミックプライシング」。この価格戦略が、飲食小売業界でも注目され始めており、最新技術を取り入れたその手法が注目されている。その方法とは、ビックデータとAI(人工知能)を活用し、効率よく、高精度な需要予測ができるようになるというものであり、自動で適正価格が算出できる仕組みが広がりつつある。ダイナミックプライシングは、今後飲食小売業界において浸透するのか、その可能性を考察する。

ダイナミックプライシングとは

「ダイナミックプライシング」とは、変動価格制とも呼ばれており、需要と供給のバランスに応じて、商品の価格を変動させる価格戦略のことをいう。例えば、航空券や宿泊施設などが、GWや年末といった繁忙期に価格が上がり、観光客が少ない閑散期や平日になると安価になるといった価格変動が、ダイナミックプライシングであり、私たちにも馴染み深いシステムである。

ダイナミックプライシングでは需要予測と供給数によって価格がマルチに変動する。

ダイナミックプライシングは、過去の販売実績、在庫業況、天候、競合他社の価格などと比較し分析・算出されるが、これらの作業をAIに担ってもらうことで、アルゴリズムによる最適価格の判定が可能となり、瞬時に価格変更ができるとして、いま注目を浴びている。さらにAIであれば、機械学習も可能であるため、適正価格の判定は回数を重ねるごとに精度を上げていくとされているのだ。この手法はアメリカで数年前から導入され始めており、昨今少しずつではあるが、日本でも広がってきている。

これまで飲食小売業界では、「値付け」は総じて手動でおこなってきており、商品の価格調整は、その業界での経験や勘などに頼ることも多かった。しかし、一昔前とは異なる膨大なデータを人の手で分析し、その都度値札の張り替えをおこなう、といった作業は、人材不足の背景もあり店舗側にとって大きな負担となっている。AIを活用したダイナミックプライシングであれば、これらの作業を代わりに担ってくれるため省人化が可能となり、さらには需要予測の安定性も図れるのである。

デジタルを活用したダイナミックプライシング 

ダイナミックプライシングを採用しているAmazonは、他社の最安値に合わせて値下げするといったような形で、リアルタイムの相場に合わせて価格を決定している。同社によると、価格の変更は社内会議をもって決定するとし、必要であれば価格は一日に何度も変動するという。

実際、オンラインの方がリアル店舗より価格が安いということは多々あり、ダイナミックプライシングによる価格変動と知れば納得もいくが、実店舗では、顧客が実物の商品を確認し、その場で購入の決断をせずにネットで価格をリサーチする、といった現象が増えており機会損失の原因となっている。そういった背景から、Amazonなどに対抗するため、小売実店舗においてもダイナミックプライシングの取り組みが加速しているのだという。

ビックカメラ、電子棚札導入でダイナミックプライシングを実現

大手家電量販店のビックカメラでは、2021年8月期までに全店電子棚札の導入に踏み切ると発表。2019年2月、町田店で10万点の電子棚札を試験的に導入し、その結果、費用対効果が見込めると判断した。今後は、全店舗・全商品に価格を表示する電子ペーパーを設置し、ダイナミックプライシングを採用、本部システムから一括で店頭価格を柔軟に変更することが可能になる。競合他社との価格競争に対抗するため、家電量販店は特に価格変更の作業が多い。同社では、この作業だけで全体の仕事量の3割を費やすこともあったといい、現場の負担を軽減にも繋がるとしている。

その他の小売実店舗においても、ダイナミックプライシングの試みは広がっている。例えば、ファミリーマートなどでは、電子値札の導入で効率化を図り従業員の作業を軽減、さらに需給に合わせて商品の価格をタイムリーに変更し、販売促進につなげる取り組みを始めている。また、ローソンでも、食品ロス削減のために電子電子タグ(RFID)を導入し、賞味期限が迫った商品を自動的に値下げするなどの実証実験を実施している。

ダイナミックプライシング導入の課題

AIを活用したダイナミックプライシングは、適正価格の提案を確かなデータに基づいて瞬時に算出してくれるため、収益の最大化が図れる。そのうえ人件費の削減にも繋がるが、現状は導入事例が少ない。

オンライン店舗であるECであれば、その時々の相場状況に合わせての価格変更がしやすいが、オフラインの実店舗では、それを行なうことは難しい。電子値札やサイネージなどを導入し、「値札をデジタル化」が必要である。そのためには、常時ネットに接続できる環境、値札等の入れ替え、システム開発・運用コストを整える必要があり、かかるコストも相当な額になる。また、流動的な価格の変動により、企業が利益を得るだけのためにダイナミックプライシングを導入している、といった不信感を消費者が抱いてしまう恐れもある。

今後、ダイナミックプライシングを検討するのであれば、戦略的な価格決定や売り場での見せ方を工夫することが非常に需要といえる。また、需要が高まった時に価格を上げたり、地域や配達場所によって価格を変動させるといった形での価格決定は行なわないなど、企業側のメリットだけではなく、顧客視点に立ったサービスの提供を考慮することが必須となってくるだろう。

飲食・小売業界におけるダイナミックプライシングの未来

飲食小売業界における実店舗での実現には、まだかなりの障壁があり、価格決定という点においても、消費者側にとっては不透明に感じる部分があるため、信用を得るのが難しいという課題も残っている。しかし、業界における深刻な人手不足問題が続く限り、数年後の未来、この仕組みは普及していると予測される。

文=佐々木久枝
編集=Showcase Gig

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