インタビュー

2019.03.13

未来のデリバリーはどう変わる?【対談】ライドオン渋谷×Showcase Gig新田

外食・中食・内食のボーダレス化が進むとともに、テクノロジーの発展によって大きく変わろうとしている日本の飲食業界。なかでもデリバリー業界は、Uber Eats の上陸などによって変革期を迎えていると言える。そこで今回は、「宅配寿司 銀のさら」や宅配代行の「fineDine(ファインダイン)」を運営する株式会社ライドオンエクスプレスのデジタルマーケティング部エグゼクティブマネージャー・渋谷和弘氏をお招きし、Showcase Gig 代表の新田剛史とデリバリー業界の現在と未来について語ってもらった。

フードデリバリーの大きな付加価値がもっと認識されるべき

新田:ライドオンエクスプレスさんはもともと、自社の「宅配寿司 銀のさら」や「宅配御膳 釜寅」のデリバリーをしていて、デリバリーのリソースを活用するために「fineDine」を始められたのですよね?

渋谷:そうですね。寿司や釜飯って、多くの人は年に 2 ~ 3 回しか食べないんです。でも、ほとんどの人は一日に 3 回も食事をします。だったら、デリバリーできる商品のバリエーションをたくさん揃えたほうがいいだろうと考え、宅配代行の「fineDine」を始めました。

新田:渋谷さんとはこれまで、かれこれ 5 年くらいのお付き合いの中でお仕事もさせていただいていますが、私たちがその間、ずっと懸念してきた問題として、「消費者がデリバリーを無料で当たり前のサービスだと思っている」ということがありますよね。自宅までデリバリーしてもらえることってすごい付加価値なのに、なかなか消費者に伝わっていない状況だと感じています。

渋谷:今は都心だと、デリバリーのスタッフの時給は 1200 ~ 1300 円くらいです。1 時間に運べるのがだいたい 2 件で、単純計算すると 1 回のデリバリーあたり約 600 円のコストがかかっています。他に保険料や車両代もさらにかかっています。

デリバリー渋滞が発生する中国。アリババとテンセントが激しいシェア争いをしている。(写真:ロイター/アフロ)

新田:中国でも今、巨大スタートアップ企業を中心にデリバリーが盛り上がっていますが、それもデリバリー事業者が大きな赤字を出しながらシェアを獲得しようとしているからですよね。スマホ注文決済に特化したレジなし店舗として話題の「Luckin Coffee( ラッキンコーヒー )」も、デリバリーが売りですが、凄まじい赤字が出ている。マーケットインするときは無料にしてユーザーを獲得するのが正しいのかもしれませんが、いつかは限界がきます。それでも中国は人件費が安いからまだデリバリーもやりやすいとして、人件費が高い日本ではそんなことはできません。もう少し合理的なアメリカでは、ウォルマートの例だと、デリバリーの注文は従業員が帰宅途中に配達して、その稼働分を当然給与に上乗せしてということをやっていますよね。

デリバリーを取り巻く世界観がUber Eats で変わってきた

渋谷:日本ではオーケーストアさんが「お友達宅配」といって、他の会員にお買い物を代行してもらえるサービスを実施しています。

新田:それは進んでいますね。そういったシェアリ ング的な発想であれば労働力不足の日本のデリバリーも今後は発展していくのかもしれません。日本には出前の文化が昔からあってデリバリー先進国なのですが、高度成長期と人口増で、余裕があった時代の産物だったという気もします。Uber Eats が日本に上陸したときも、最初はデリバリー無料にした上に、さらに商品代金まで大幅に値引きしていました。でも、今はしっかりと配送料も取るし、商品の価格からの手数料もありますよね。

渋谷:Uber Eats は一時期デリバリー料を一律 380円にしたのですが、今はダイナミックプライシング(時価)も採用しています。需要(注文)と供給(デ リバリースタッフ)に合わせてデリバリー料が調整される仕組みですね。

新田:Uber Eats はデリバリーを有料にした今でも、採算的にはかなり苦戦しているようです。ただ、日本の消費者のデリバリーへの意識が、Uber Eats のダイナミックプライシングで変わってくるかもと渋谷さんとは話していましたよね。この例えが適切かわかりませんが、無料だと思っていた水もお金を出して飲むようになったように、デリバリーも有料であることが当然の時代になってきたと思います。

渋谷:Uber Eats が日本に入ってくる前と後では、私たちのドライバーの働き方に対する見解も変わりました。Uber Eats のドライバーは単発雇用でデリバリーをしているのですが、日本人の気質からすると安定的な雇用ではない単発雇用という働き方は根付きにくいと思っていました。従来の日本のフードデリバリー事業者はドライバーをすべて直接雇用していて、保険もかけて車両も用意していたのですが、Uber Eats のドライバーは車両すら自前です。でも、Uber Eats のドライバーは都心にいれば実感出来るのですが、相当数の登録者がいます。もちろん、ほとんど稼働していない人もいると思いますが、単発雇用が浸透するのは働き方にバリエーションが生まれて良いなと私は思います。

登録ドライバーが宅配代行を単発契約で請け負うUber Eats。副業で宅配代行をする働き方も浸透してきている。(写真:iSTOCK)

新田:Uber Eats はあくまでもドライバーとユーザーが個人契約しているだけなので、ユーザーはクレームを言いづらいですよね。法人相手なら一方的にク レームを言う人もいますが、個人相手だと「言って もしょうがないか」となります。 渋谷:フードデリバリーにおいてユーザの一番のス トレスはお届け時間です。Uber Eats はアプリに表 示される到着予定時刻が常にアップデートされているので、到着が早くても多少遅れても、可視化され ていると安心感があります。

既存のデリバリー企業もGAFA 以上の成長が可能

新田:渋谷さんが現在注目されている事例などはありますか?中国はデリバリーバブルとも言われていますが、先ほども言ったようにどの事業者も大きな赤字を出している状態でして…。

渋谷:中国のフードデリバリーサービスは圧倒的に勢いはありますが、やはり総合的なサービスレベルという観点で見るとアメリカのすごさを実感しています。食のバリエーションも豊富だし、競争が激しいので総合的なサービスのクオリティも高いです。その中でも注目しているのが、ドミノ・ピザさんです。GAFA の株価がここ 8 年で 200 倍~ 800 倍くらいに伸びて急成長と言われているのですが、ドミノ・ピザさんは同じ期間に 1000 倍以上株価が伸びています。デジタル領域などにしっかり投資をすれば、既存のピザデリバリー業態でもここまで伸びるのかと。

新田:1000 倍はすごいですね。

渋谷ドミノ・ピザの「Dominoʼs ANYWARE(どのウェ アでも)」というサービスは面白いですよ。サイトのトップページには、Google Home や Slack、カーナビ、スマートウォッチなどのアイコンが並んでいて、あらゆるチャネルから簡単に注文できるのが分かります。

新田:Slack にまで対応しているのはおもしろいですね。米国のネット企業でのピザ人気を感じます(笑)。

渋谷:もうひとつご紹介したいのが「Dominoʼs ANYWHERE(どこへでも)」です。通常、デリバリーは非対応エリアができてしまうもので、それがデリバリー業界の課題にもなっています。しかし、「Dominoʼs ANYWHERE」はどこにでも持ってきてく れます。公園や野球の球場にもデリバリーしてくれ るんです。こうやってちょっと考え方を変えてサー ビスを提供することで、アメリカのような先進国で もさらに売上を積んでいけるということが分かりま す。中国のデリバリーは莫大な資金を投資してシェアをどれだけ獲得できるかという状態です。

「Dominoʼs ANYWARE」の紹介サイトのトップページにはGoogle Homeやカーナビ、SNS、チャットツールのアイコンが並ぶ。

新田:中国はまだ人も多いし、人件費は安いですしね。昨年、デリバリー用のドローンを開発している スタートアップに視察に行ったのですが、ドローンの出発地点と着陸地点に人が付きっきりでいて。バ イクで運べば 10 分で済むのに、ドローンでは 2 人がかりの運用になってしまっていました。開発者に 今後もドローンデリバリーを強化するのか聞いたら、「ドローンも使うかもしないが、むしろ自動運転のバイクなどで運ぶようになると思う」と言っていましたね。答えは見えていないようで、試行錯誤ですね。

渋谷:10 年後なら自動運転でのデリバリーもあるかもしれないですけど、すぐには難しいですね。目的地に着いた後にフードの受け渡しがあるので。クロネコヤマトと DeNA が実証実験を行なっている 「ロボネコヤマト」も法的な問題があり、完全無人 宅配ではなく、人が乗っていますから。最初に自動 運転でのデリバリーが実現するとすれば、一部で実 験が行われていますが、ホテルやオフィスビルなど特定のエリアや空間になるのかなとは思います。

中国のアントワーク社のデリバリードローン。先進的な試みではあるが、人件費がかかり運用コストは高い。

※アメリカを代表する IT 企業である Google、Apple、Facebook、Amazon のこと。

フード業界全体で協力して発展していくことが必要

新田:デリバリーの未来についてですが、フード以外の日用品をデリバリーする可能性はありますか?

渋谷:フード以外で 30 ~ 60 分の即時配達を強く希望するモノってなんだろうと考えると、意外に無いんですよね。唯一あるとしたら薬かなと思っています。薬事法が変われば、調剤薬を含む薬のデリバリーは需要があるはずです。

新田:人手不足や高齢化を考えると、これからデリバリーの需要は高まってきますよね。事業者側はセントラルキッチンをつくってデリバリー&ピックアップで提供したほうが効率的だし、高齢化でお店まで行けない消費者も増えてくる。

渋谷:これからの日本の課題である少子高齢化、人口減で各種産業が先細っていくなど、マイナス面ばかりが強調されていますが、そんな悪いことばかりではないと思っています。ここ数年共働き世帯が増えているので、半調理済みの食材やデリバリー、テイクアウトなどで食事をする人が増えてきている。だから、近々では日本の人口が減っても、デリバリーやテイクアウトの需要が一気に落ちることはないし、むしろ食の生活は豊かになっているのではないかと感じています。

新田:渋谷さんが今、新たな試みとしてなにか考えていることはありますか?

渋谷:どの事業者で働いていたかは関係なくデリバ リー経験者の過去実績や履歴を信用情報のように引き継げるネットワークを築きたいと考えています。日本でも単発の雇用が受け入れられるのであれば、ネットワークの信用情報を元にデリバリー業界で各々の都合に合わせて気軽に働ける仕組みを構築したいです。また、フード業界全体の課題かと思いますが、店舗情報や商品情報のフォーマットを共通化したいとも思っています。他社サービスと連携するときに各社に合わせて店舗情報や商品情報を提供するのに大変労力を費やしていますから。登録に労力を掛けるより、我々は本質的なサービスやフードの質向上に力を注ぎたいです。

新田:それはいいですね。フォーマットの統一化は絶対に必要です。

渋谷:微力ながらもお客様の生活をより豊かにするため、デリバリー業界、そしてフード業界全体をもっと良くしていく必要があると思っています。だから、フード業界がもっと効率的に働けるような仕組みをつくりたいんですよね。業界が良くなっていくためには、自社のことだけを考えるのではなくて、協力して共通のプラットフォームなどを開発して効率化できるところはするべきです。そしてその上で各社はフードやサービスで個性を出して切磋琢磨できる環境を構築したいですね。

Profile 

渋谷 和弘 (株式会社 ライドオンエキプレス)
アパレル商社、大手 WEB 開発ベンダーに移籍、IT ベンチャーを経て、宅配とデジタルの融合を追求したサービス開発をするために(株)ライドオンエクスプレスに入社。 WEB サービスの企画設計やプロモーション業務に従事。

田剛史(株式会社Showcase Gig)
東京ガールズコレクション・プロデューサーを経て入社した株式会社ミクシィで数々のヒットサービスを創出。2012年、株式会社Showcase Gig設立。モバイルオーダーシステム「O:der」を開発・提供。

 

文=堀越大輔

編集=Showcase Gig

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