飲食店向け

2019.10.09

EC型飲食店「ゴーストレストラン」が、新時代の食体験を変えていく

店舗のない飲食店。

一見矛盾を抱えているように見えるレストランが、日本国内で続々誕生している。顧客と顔を合わせる機会はゼロ。客席もなければ、レジもなく、場合によってはキッチンもない。飲食新トレンドと目されるゴーストレストランとは?概要と可能性を考察する。

ゴーストレストランとは

ゴーストレストランとは、デリバリーに特化した無店舗型の飲食店だ。オンライン経由で注文を受け、調理が完了すると、宅配をアウトソースする。オーダープラットフォームや配達代行サービスの普及により、近年、世界的に増加を見せる飲食業態である。

同モデルはデリバリー専用であるため、客席を持たず、場合によっては1つのキッチンで複数店舗が運営されているケースもある。ピックアップに対応可能な調理スペースがあれば、場所を選ばず運営できる点が強みとなる。実店舗を構えない特徴からバーチャルレストランとも呼ばれる。

飲食業にかかるコストとゴーストレストランの可能性

もともと飲食業界は出入りの多い産業だ。多くの新規参入がある一方で、新規開業店舗の約3割が1年未満で廃業するデータもある。理由は低い利益率に対するコストの大きさにあるという。

飲食店の開業と経営にかかるコストは、大きく4つに分類される。

①テナント保証金(敷金)や設備にかかる費用

②賃料、光熱費などのランニングコスト

③人件費

④食材原価

これらのうち、①テナント保証金(敷金)や設備にかかる費用については、一度きりの出費であり、出店の時点で全容が把握できるコストだ。一方、②~④については、継続してかかるコストであるため、全容が把握できず、売上が下がれば自ずと比率の高まるコストでもある。

飲食店の理想的な利益率は、10~15%ほどだと言われている。月250万円(25日/月の営業で10万円/日)売り上げてようやく30万円前後の利益が得られる比率だ。1,000円のメニューであれば、1日100個を売らなくてはならない。この数字からは店舗経営の難しさを容易に見て取れる。

そうした背景の中、飲食業界は、変動するコストである③人件費と④食材原価に指標を置き、コストカットに注力してきた。従来の概念では、①や②に代表される固定的なコストは削減できないと見込まれていたが、ゴーストレストランの登場で風向きが変わりつつある現状だ。

ゴーストレストランで削減できるコスト

レストランの利益率の例。ゴーストレストランではランニングコストや人件費を大幅にカットできる。

ゴーストレストランのシステムでは、飲食店の運営にともなうさまざまなコストを削減できる。人員コストはその最たる例と言えるだろう。

同モデルは対面でサービスを提供するシチュエーションがない。そのため、ウエイターを雇用する必要がなく、該当する人件費の削減が可能となっている。また、オンラインでのオーダーが基本となるため、混雑がコントロールできるケースも多い。そのようなケースでは、バッファとなる調理スタッフが不要となるため、人員コストの効率化が可能だ。

ゴーストレストランのアプローチは、ハード面のコストにも好影響を及ぼす。従来の飲食店は、立地が集客における重要な要素であったが、同モデルは、ピックアップに対応できれば場所を選ばない。駅近やオフィス街、人気の住宅地といった「一等地」に拠点を構える必要がなく、出店にともなう賃料を節約できる。賃料はテナント保証金(敷金)の額にも関係する。大幅なコスト削減が可能となる格好だ。

もちろんゴーストレストランでは、客席を用意する必要もない。オンライン経由のオーダーは、キャッシュレス決済専用となるケースがほとんどであるため、レジも不要だ。最近では、同モデルを対象にしたシェアキッチンも登場している。削減が難しいと考えられてきた固定的なコストが最小化へと向かっている。

一方、ゴーストレストランには増加するコストもある。受注や配達をアウトソースする仕組みであるため、外部サービスの利用料がかかってしまう。

オンラインオーダー大手「出前館」は、ポータルサイト上への出店料を月額3,000円(1店あたり)に設定。この金額の他に、1デリバリーごとのオーダー手数料が課される。また、配達代行サービス大手「Uber Eats」では、同プラットフォーム経由で受けたオーダー総額の35%を飲食店から徴収していると言われる。この中には、ユーザーが支払う配達手数料も含まれるが、1,000円の売上に350円のコストがかかると考えると、個々の店舗の負担は小さくない。

さらに実店舗でないが故のコストも発生する。ゴーストレストランにとって、顧客との接点は基本オンラインのみだ。通常、店舗は人通りの多い場所に店の看板を出しているだけで、一定の宣伝効果がある。しかしゴーストレストランの場合、認知拡大のためには複数のデリバリーサービスを契約したり、ホームページやSNSを充実させたりと、オンライン上での出面を増やさなければならない。やむを得ないコストであるとは言え、実店舗でないことに由来するデメリットもゴーストレストランにはある。

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ゴーストレストランは飲食店のメインストリームとなれるか

UBSは、世界のオンラインフードデリバリーサービス市場が、2030年までに3650億ドルまで拡大すると予測する。日本におけるゴーストレストランの登場も、この潮流の端緒と言えるのではないだろうか。

レストランテック先進国のアメリカでは、ゴーストレストランのプラットフォーム化が加速している。

カリフォルニア州パサデナに本拠を置く「Kitchen United」は、飲食店経営者に向け、シェアキッチンの貸し出し事業などをおこなうスタートアップだ。同社を率いるトラヴィス・カラニック氏は、UberのCEOを退いた後、同事業へと参入。ショッピングモールなどのゴーストレストラン化を展開する「City Storage Systems」を買収し、プラットフォーム化へと乗り出した。

今後、世界におけるゴーストレストランは、飲食店へと提案される1つのビジネスパッケージのようになっていくだろう。アメリカから5年遅れで登場した日本のゴーストレストランビジネスも、やがて同じ道を歩んでいくに違いない。

古くから仕出しや出前の文化が浸透していた日本。環境さえ整えば、ゴーストレストランは抵抗なく受け入れられていくのではないかと推測する。人員不足や高コストといった問題を抱える店舗経営者と、増税によって外食離れを余儀なくされる消費者。同モデルは、両者の橋渡しとなっていくのではないだろうか。

デリバリー市場が拡大を見せる今。客席のない新たな飲食店が注目を集めている。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

 

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