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新型コロナ対策
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新型コロナ対策
インタビュー
小売店向け
高級チョコレート店の先駆けとして、日本国内に約300店舗を展開するゴディバ ジャパン株式会社(以下、GODIVA)。言わずと知れたスイーツ業界有数のチェーン企業だ。
同社は2020年8月、社内にデジタルトランスフォーメーション部門を発足し、DXへの本格的な取り組みをスタートさせた。同部門の今井里菜氏によると、当時は複数のシステムが並存しており、データを分析・活用できるような状況が整っていなかったという。
GODIVA公式アプリの開発、会員システムの一本化とあわせ、同氏がDXの柱と考えたのが、事前注文・事前決済の仕組みを持つモバイルオーダーの導入だ。GODIVAは2021年11月、全国の10店舗にShowcase Gigの提供するテイクアウト・モバイルオーダーサービス『O:der ToGo』を導入した。
今井氏はなぜ、モバイルオーダーに活路を見出したのか。GODIVAのDXを主導してきた同氏に、その経緯と今後の展望を伺った。
プロフィール
今井里菜(ゴディバ ジャパン株式会社)
Eコマース/デジタルトランスフォーメーション部
——まずこれまでの貴社のデジタル施策についてお聞かせください。いつごろからDXへの取り組みをスタートさせたのでしょうか?
GODIVAのデジタルへの取り組みは歴史が浅く、2020年8月のデジタルトランスフォーメーション部門の発足からスタートしました。実は私が同部門に配属された最初のメンバーなんです。
以前から実店舗とオンラインショップそれぞれに会員システムがあったのですが、それらのデータを統合、さらには分析・活用してアクションを起こすといった段階には手をつけられていませんでした。DX的な観点で言えば、ほぼ0からのスタートでしたね。
——それでも、この1年半ほどで大きく前進したようにお見受けしています。
そうですね、公式アプリのリリース、モバイルオーダーの導入、Eギフト(※)サイトの公開など、さまざまな角度から取り組んできました。当初、私ひとりだったデジタルトランスフォーメーション部門も、メンバーが6人まで増え、やれることが少しずつ深く、広くなっているのを実感しています。最近では、「お客様が購入した商品をデジタルでも楽しんでもらう」というコンセプトのもと、ARを活用した仮想空間の提供も開始しています。
※LINEなどの電子メッセンジャーを活用し、GODIVAの商品を贈れるサービス。
2020年に開始した「GODIVA AR Camera」。対象商品にゴディバARカメラをかざすとスペシャルコンテンツが出現する。
DXには「効率的なマーケティングを行う」「顧客に利便性をもたらす」「新たな価値を創出し、ブランドと顧客の結びつきを強める」の3軸があると、私は考えています。ようやくそれぞれの軸のスタートラインに立てたところですね。
——モバイルオーダーについてはDX部門の立ち上げからまもなくと、早い時期から取り組まれていましたよね。どのような経緯で導入を考えたのですか?
きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大でした。多くの方がリアルでの接触を避け、オンラインのチャネルを選ぶ時代に、金銭の授受がないこと、余計な待ち時間が発生しないことは、実店舗に必要な準備だと考えたんです。その目的を果たすためのツールが、事前注文・事前決済の仕組みを持つモバイルオーダーでした。
お客様がGODIVAの商品・サービスに魅力を感じているのに、私たちがそれらを非対面・非接触というお客様の望む形で提供できていないのは、時代に取り残されていることと同義です。消費行動の起点がスマートフォンへと移り変わりつつあるこのタイミングで、私たちもそちらへシフトしていこうと考えたのが、導入を検討し始めた背景です。
——以前から消費者の利用ニーズに応えられていないことに課題感を持っていたのでしょうか。
そうですね。オフラインとオンラインの境界が曖昧になりつつある中で、デジタル起点で実店舗を利用できることが、消費者がブランドや商品を選ぶ理由になってきているのを肌で感じていました。お客様がチョコレートを購入する際に日常的にモバイルオーダーを利用するかはさておき、必要なときにはそうしたサービスを選ぶこともできる。その準備ができていなければ、GODIVAが選択肢から外れるケースも出てくるかもしれません。アナログとデジタルが融合していく時代だからこそ、モバイルオーダーのようなチャネルを設けておく必要性を感じていました。
また、それとは別に実店舗には人手不足の問題もありました。人件費の削減や、感染対策などから、以前より少ないスタッフ数で店舗を運営しなくてはならなかったんです。そのためには、オペレーションの負担を軽減しなくてはなりませんでした。私たちは物販を主業務としているので、注文と会計をデジタルで済ませられれば、スタッフの負荷は大きく減ることになります。この点もモバイルオーダーに期待した効果のひとつです。
——GODIVAではO:der ToGoの前に、他社のモバイルオーダーを導入していますよね。初めて導入したモバイルオーダーの使用感はいかがでしたか?
想定したようには運用できませんでした。最初に導入した他社のモバイルオーダーは管理画面を先方がコントロールする仕組みになっていて、私たちが更新を行えなかったんです。例えば、売り切れた商品をデジタルメニューから削除するのにも、都度サポートに連絡しなければならず、もちろん即時対応ではなかったので、もどかしさを感じていました。
私たちの場合、メニューを取り下げたり、再販をスタートさせたりといった突発かつ流動的な対応が必要になるケースもあります。導入によって当初の課題が解決するところまではたどり着きませんでした。
——O:der ToGoへの切り替えを決断したのも、そうしたギャップが理由に?
はい。他のサービスなら理想どおりに運用できるのではないかと考えているときに、カフェ業態の店舗に導入するモバイルオーダーの選考に関わる機会があって。そこでO:der ToGoの存在を知りました。最初にお話を伺ったのは、2021年の3月頃だったと思います。一通り説明いただいた後、社内で検討し、夏頃にあらためてご連絡しました。
——選考には他社も参加していたかと思います。数あるサービスの中で、O:der ToGoに決めた理由があれば教えてください。
運用のしやすさに魅力を感じましたね。他社製のプラットフォームであっても、導入後はあくまで自社のサービスとしてお客様に提供していくことになるので、担当者が仕組みを把握し、調整できる必要がありました。O:der ToGoなら、私たちが直接管理画面に触れながら、メニューの見せ方や更新のタイミングなどを考えられます。さまざまな候補がある中で、最も理想に近かったサービスがO:der ToGoでした。
——実際に使用した感覚はいかがでしたか?
イメージどおりでしたね。以前より店舗でコントロールできる部分が増え、イレギュラーにも柔軟に対応できるようになりました。商品ラインナップの変更も、スタッフの都合のいい時間に現場の判断で行えるため、非常に助かっています。
私たちの業種はクリスマスやバレンタインなど決まった時期にお客様が集中しますし、商品の数や入れ替わりも多いです。もちろん業種やブランドごとにモバイルオーダーに期待する部分は違ってくると思うんですが、私たちにはO:der ToGoが合っていました。
あと、これはどうしても伝えておきたかったんですが、営業の方の前向きな姿勢に惹かれましたね。「こんなふうに使いたいんです」と伝えたとき、仮にその内容が実現できなかったとしても、単純に「できない」とは言わず、どうすれば私たちの希望を叶えられるかを考えてくれたんですよね。既存のサービスをただ買って使っているのではなく、GODIVAに合わせたモバイルオーダーを一緒に作っている感覚がありました。こういう部分は資料や導入事例からは見えてきません。サービスの質と同等、またはそれ以上に貴社にしてよかったと思えたポイントです。
——一方で、モバイルオーダーの導入と並行して、公式アプリの開発にも力を注いできましたよね。
はい、2021年の1月に公式アプリをリリースしています。こちらもモバイルオーダー同様、お客様とつながることを目的に開発を進めてきました。
当初はGODIVAの情報をユーザーに届けるだけのアプリだったのですが、昨年7月のアップデートで、アナログのポイントカードと同じバーコードを表示できる会員証機能を実装しました。店舗での会計の際、ポイント付与の流れからアプリインストールを勧められるようになり、一気にダウンロード数が増加しました。12月には、これまでバラバラだった実店舗とオンラインショップの会員情報をアプリ上で統合するアップデートも行っています。アプリが少しずつコミュニケーションのハブとして機能しつつある現状です。
——データが一箇所に集まれば、分析・活用もしやすくなりますね。
そうですね。お客様に利便性を提供しながら、私たちは集まった情報をマーケティングや関係性の構築に活かせます。より満足いただけるGODIVAとなるために、モバイルオーダーとあわせて、今後も力を注いでいきたい領域ですね。
GODIVAのお客様の中には、バレンタインのシーズンだけ利用する方もたくさんいます。そのような方たちにアプリをインストールしていただければ、日常のちょっとしたタイミングでGODIVAのサービス・商品を思い出してもらえるかもしれません。これから訪れるハイシーズンに向け、より多くのお客様とつながっていくことが当面の目標です。
——最後に、今後のDXの展望についてお聞かせください。
公式アプリやモバイルオーダーといった、お客様との接点になっている部分に力を入れていきたいです。デジタルトランスフォーメーション部が立ち上がる以前は、それぞれのサービスが独立していて、効率的にデータを集められませんでした。しかし今後は、そうしたチャネルから有意義なデータが集まります。
お客様にとっては、スマートフォンひとつであらゆるGODIVAの情報が受け取れ、それぞれの都合で実店舗・オンラインショップの好きな方を利用できる。別々だったポイントカードがアプリ上で統合されたことで、本当の意味で自由な選択が可能になるでしょう。場合によってはモバイルオーダーの事前注文・事前決済を活用し、オフライン・オンラインの中間のような形で実店舗を利用することもできます。
お客様との接点となるチャネルを限定していくことが、私たちとお客様の双方にとってメリットとなる以上、これからもそうした部分への注力がDXの根幹となっていくでしょうね。長期的には、公式アプリとO:der ToGoをひとつのIDで管理できるよう、連携を進めたいです。
——社内のDXに対する熱量はいかがですか?
高いですよ。デジタルトランスフォーメーション部のメンバーの増加が物語っています。だからこそ、現時点で154店舗にとどまっているモバイルオーダーの導入店舗数も拡大していきたいですね。2022年中に全店舗数の約7割にあたる200店舗を目指したいです。
弊社には、「72%ルール」という社風があります。GODIVAのダークチョコレートのカカオ含有量から取った数字で、「72%の確信があるならやってみよう」とする考え方ですね。
DXもこの考え方に基づいて進めていけば、自ずと結果はついてくると考えています。最初から完璧を目指すと、いつまでも進めないじゃないですか。72%の確信があるなら、一旦スタートさせてみる。その精神で今後もDXも加速させていきたいです。
文=結木千尋
編集=Showcase Gig
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