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2022.06.24
小売店向け
2019.08.08
小売店向け
今年2019年は、日本における『MaaS元年』だと言われている。株式会社矢野経済研究所の試算によると、今後市場規模は右肩上がりで増加。2030年に6兆3,000億円まで達する見込みだ。 まだ耳慣れない感もある、この『MaaS』という言葉。概要と事例から小売との可能性を考察する。
MaaS(Mobility as a Service)とは、複数の交通手段をワンパッケージのサービスとして統合しようとする概念だ。
普段、私たちは、電車やバス、タクシーなど、さまざまな交通手段を利用している。これらは運営母体がそれぞれであるため、サービス間で異なったシステムを持つ場合が多い。複合的に利用するケースでは、スケジューリングや決済などにおいて、ユーザーが各々のシステムに寄り添う必要がある。電車やバスの時刻表を照合したり、複数の決済手段を準備したりといったケースは、その一例だ。
MaaSの考え方は、こうした現行の仕組みと対をなす。包括化されたシステムにアクセスすれば、サービスの垣根なくDoor-to-Doorの交通手段が提示され、システム上で一括決済もできる。目的地まで長い徒歩区間を含む場合には、到着に合わせてタクシーが手配されるなど、従来ではカバーできなかったラストワンマイルへのリーチも可能だ。未来の交通、ひいては未来の経済を考えるとき、MaaSには大きな可能性が見出されているという。
MaaSは、統合の程度に応じて、5つの段階に分類される。
それぞれの交通手段が従来どおりの独立したサービスとして提供される「レベル0(統合なし)」
料金や時間、移動距離など、サービスごとの固有情報が一括りでユーザーに提供される「レベル1(情報の統合)」
発券、予約、決済などがワンストップのサービスとして提供される「レベル2(予約、決済の統合)」
あらゆる交通系サービスが、統合したひとつのパッケージとして提供される「レベル3(サービス提供の統合)」
国や自治体、事業者などが政策レベルで協調し、国家をあげてプロジェクトが進む「レベル4(社会目標の統合)」
MaaS先進国であるフィンランドは、レベル3に到達。カーシェアやライドシェア、レンタルサイクルまで含めたあらゆる交通サービスが、既にひとつのプラットフォームに統合されており、目的地を選べば、最適な移動手段・経路が提案される。料金は月額のサブスクリプション型。3プランのうち、もっとも高い月額499ユーロ(約6万円程度、ヘルシンキ市内の場合)のものを契約すれば、基本すべての乗り物が自由に利用可能だ。ここには1回5km以内のタクシー利用まで含まれる。世界ではMaaSによるモビリティ革命が現実となりつつある。
一方、日本のMaaSレベルは、0~1の間であると言われている。ワンストップのサービスはまだ生まれておらず、情報の統合にとどまっている現状だ。それでも、近年になってようやく取り組みが加速している。
2018年7月、東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)は、グループの新たな成長戦略となる「変革2027」を策定した。「鉄道を起点としたサービスの提供」から「ヒトを起点とした価値・サービスの創造」へと方針転換する、新しい取り組みだ。
この中で同社は、移動における情報入手や購入、決済をワンストップで提供する、『モビリティ・リンケージ・プラットフォーム』の開発を目指すとした。実現すれば、MaaS実用段階のレベル2に相当する。
また、2019年4月、小田急電鉄株式会社(以下、小田急電鉄)は、駅すぱあとなどのソフトウェア開発で知られる株式会社ヴァル研究所と共同で、データ基盤『MaaS Japan』を開発すると発表した。同基盤は、鉄道やバス、タクシーなどにおける、交通データと電子チケットの提供を可能にするもの。社内外問わず、MaaSアプリ全般の開発に活用される。
小田急電鉄の取り組みを巡っては、2019年5月、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)や遠州鉄道株式会社、日本航空株式会社(JAL)、JapanTaxi株式会社、株式会社ディー・エヌ・エーとの協力合意も発表された。今後は、各社の持つデータなどを活用し、より完成されたMaaSアプリの開発を目指すという。
このように国内でもモビリティ革命を見据えた動きが活発化する。“交通サービスのサブスクリプション化”も時間の問題と言えるかもしれない。
MaaSの実用段階がレベル3に至ると、付随する分野にも好影響をもたらすとされる。不動産、観光、物流、保険など、多くの分野が挙げられる中で、特筆すべきは小売×MaaSのシナジーだ。
MaaSの実用化によって移動手段の中心は、公共交通に回帰すると見られている。マイカーを持たなくても移動に困らない日常がやってくると考えられるためだ。そうした社会において人々の生活圏は、これまで以上に駅中心となっていくだろう。駅ビル、駅ナカに代表される駅を取り巻く商業圏は、さらに発達を見せるはずだ。
また、近年注目を集めるキャッシュレス決済や、モバイルオーダーシステムとも抜群の相性を誇る。スマートフォン1台で移動からショッピング、飲食までの完結も可能だ。長期的には、すべてをひとつのプラットフォームとしてシームレスに利用できる未来も想定される。誰もがひとつのIDによってあらゆるサービスを享受する。そんな社会もそう遠くはない。
交通インフラにおける変革は、私たちの暮らしを激変させる可能性を秘める。その影響は、さまざまな分野へと波及し、強固な市場ネットワークを構築するようになるだろう。
ECの隆盛にともない、実店舗のあり方が問われる昨今の小売業界。MaaSの実用化は、市場再編の大きなカギとなるに違いない。
文=結木千尋
編集=Showcase Gig
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