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2022.06.24
小売店向け
2019.09.25
小売店向け
映画館離れは、日本も米国も同様の悩みを抱えている。米国では、映画館にリピーターとして何度も足を運んでもらえるよう「モバイルオーダー×サブスクリプション」を導入することで、キャッシュレスでスムーズな体験を提供する映画館が増加している。モバイルオーダーで映画館利用者の利便性を高め、特典を付与することでファンを獲得。サブスクを提供することで利用者はリピーターとなり、飲食による売上も伸ばすことができるのだ。今回は日本の先を行く、米国の映画館事例を紹介したい。
映画館での体験を阻害する要因となるひとつともいえるのが、飲食カウンターに並ぶ行列だ。特に休日の大型映画館などでは上映時間が重なるとかなり混雑する。
米国にある映画チェーン大手のAMCシアターズでは、モバイルオーダーによってこの行列に並ばずにこのノンストレスで飲食の受け取りができる。顧客の利便性やロイヤリティを高める目的で、2019年3月からモバイルオーダーを導入開始。AMCのプロダクトマーケティング担当兼副社長のターニャ氏は、AMCチケットの購入の約45%はオンラインで処理されていると公表。AMCシアターズのアプリでは、チケットの購入だけでなく、ポップコーンやドリンクといった飲食の注文と決済もモバイル上で完結でき、よりシームレスな映画体験を提供している。
AMCシアターズのクレジットカードなどの情報を事前登録しておけば、モバイルで好きな商品を選び、注文・決済をするだけで完了する。オーダーした商品は、映画館内にあるエクスプレス・ピックアップ(Express Pick-Up)と書かれたロッカーから受け取ることができ、行列に並ぶことなく、映画館での時間をゆったりと楽しめる。また、一部の映画館では、個々の座席まで配達してくれるサービスも行なっている。
モバイルオーダーが利用できる地域は、サービス開始の直後ではデンバー、ボストン、ヒューストンのみであったが、2019年夏までには150ヶ所の映画館で利用可能にし、その後も順次米国内でのサービス拡大を目指していくという。
AMCシアターズではサブスク開始
AMCシアターズが提供する「AMC Stubs A-List」と呼ばれるサブスクリプション・サービスも米国ではかなり人気だ。AMC Stubs A-Listは、月額19.95ドル(約2,200円)で、週に最大3本の映画を観ることができるという破格で提供しており、AMCの600店舗以上の映画館で利用が可能。IMAX、Dolby Cinema、RealD 3Dなどプレミアム形式の映画も追加料金なしで観ることができる。
また、AMC Stubs A-Listのロイヤリティプログラムでは「発行手数料無料のオンライン予約」「飲食料の10%割引き」「ポップコーンやドリンクの無料サイズアップ」「優先レーンの利用」など、顧客にとってお得な特典を揃えており、映画館に何度も足を運んでもらうための工夫がされている。
AMC TheatreのCEO兼代表のアダムAdam氏によると、昨年6月にサービスを開始してから今年1月までの時点で、同サービスの会員は約75万人を数えており、その会員数はいまも続々と増え続けているという。
映画館のサブスクリプション・モデルの先駆けでもあるのが「MoviePass」だ。2017年のサービス開始後から試行錯誤を経て、現在では月額9.95ドル(約1,000円)で月に3本分の映画が観れるというサービスを提供していたが、2019年9月にサービスを停止した。
その他にも「Sinemia」というサブスクをベースにしたサービスとして、月1本あたり月額3.99ドル(約400円)〜月30本あたり月額19.99ドル(約2,000円)といった映画の鑑賞回数によって毎月決済するシステムのものや、「Cinemark theater」による、月額8.99ドル(約900円)で月1本観ることができる定額サービスなどサブスクリプションサービスが乱立している。
また北米各地で利用可能な、各映画館が独自のチケット購買サービスを提供することができる「Atom Movie Access」という発券プラットフォームも登場している。専用アプリを通じて、映画チケットやフードを事前注文・決済することができ、映画館では紙のチケットを発券する必要はなく、モバイルのみで劇場に入れる仕組みとなっている。
映画館では飲食での利益率が高いとされている。お得なサブスプリクションサービスなどを活用して、とにかく顧客を映画館に足を運ばせ、同じアプリからフードの注文もシームレスできるようになれば、売上増を見込めるだろう。AMSシアターズやAtom Movie Accessは特に注目したい事例である。
モバイルオーダーやキャッシュレスで楽しめる映画館は、海外に比べると少ないものの、国内にもいくつか事例はある。スマートシアター構想と呼ばれる取り組みにより、富士通とムービーウォーカーが、第31回東京国際映画祭で実施したチケットレス入場は記憶に新しい。生体情報による本人認証技術を活用し、チケットレスやキャッシュレスの環境を作り、映画館利用時の混雑解消や利用者の新たな顧客体験を創出した。
国際映画祭では、指紋、虹彩、顔などの生体情報によるオンライン認証(FIDO)を活用。FIDOは、多要素認証というパスワードに代わる新しい認証技術であり、この技術の活用で、生体認証によるプライバシー、セキュリティの強固、利用者の利便性を実現した。
事前に配布した専用アプリで、参加者自身が生体認証方式をスマホに事前登録。当日は、スマホに登録した生体認証で本人認証を行い、認証後に配信される電磁チケットを入場ゲートで提示し入場するという流れだ。この実験は大成功を収め、将来的にはFIDOを活用することで、チケットの転売や偽造防止、さらには劇場内での飲食物の購入や決済なども連携して行なうことが可能になるという。
これらの認証技術が映画館で実現するのは少し先になりそうだが、例えば「TOHOシネマズ」においてはチケット販売のほとんどを自動発券機に切り替えており、日本橋店ではキャッシュレス専用のレジを導入している。現金支払いのレジよりも多くすることで、キャッシュレス活用の強化を図っているという事例もある。国内でも少しずつ 、映画館のデジタル活用が増えてきているといえる。
昨今、映画チケットはオンラインで購入し、発券機での受け取りが当たり前になってきている。しかし、フードカウンターの長蛇の列は依然としてなくならないのだ。紹介したようなより手軽でお得にフード類を購入できるシステムがあれば、座席数を変えずとも売上を伸ばすことも可能になるのではないだろうか。またこういったデジタル化により、紹介した事例以外にも、顧客の属性データ活用や、空き状況によって価格を変えるダイナミックプライシングの導入、またオンライン上でチケットを贈るソーシャルギフトサービスなどの実現も可能だ。デジタルとリアルの融合が身近となった現代、その技術を駆使し、いかに顧客目線でその心を掴むかが映画館においては鍵となってくるだろう。
文=佐々木久枝
編集=Showcase Gig
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