インタビュー

2018.12.12

【対談】今、お店に求められるチャネルシフトとはー奥谷孝司(Oisix)✕新田剛史(Showcase Gig)

国内においても「オムニチャネル※1」という言葉が浸透して数年が経過したが、米国で Amazon の実店舗が登場、ウォルマートもEC 企業を次々買収するなどして対抗しており、ネットとリアル、新しい顧客チャネルの在り方が議論されている。実店舗における顧客体験はどのようにデザインするのか――オイシックスドット大地株式会社・チーフオムニチャネルオフィサーの奥谷孝司氏と、同氏がオムニチャネルスーパーバイザーを務める株式会社 Showcase Gig の代表・新田剛史氏が、変革を続ける小売業界の「今」について語った。

顧客行動は「購入」だけでなく「検討」段階にも注視すべき

新田 リテールの領域においてAmazonやZOZOTOWNといったEC発のプレイヤーが存在感を増していく中で、リアル店舗はどうあるべきかと考えたとき、「顧客チャネルがどのように変化していくのか」という点は大きな課題です。国内でも、昨年「アマゾン・エフェクト」という言葉が話題になりました。

奥谷 米国ではすべての小売業にとって、「Amazonとどう向き合うか」がテーマになっています。Amazonは仕入れだけではなく製造も始めており、例えばAmazonのプライベートブランドの乾電池はアメリカのネット市場販売でのシェアNo.1になっています。ECに製造と小売を両方やられたら、正攻法では多くのメーカーは太刀打ちできません。ではどう対抗するかと言ったら、顧客との接点を工夫するほかない。例えば、アメリカのアパレルブランド「Bonobos(ボノボス)※2」では、リアル店舗を完全にショールームとして使っています。店頭に置くのは基本的に試着用のサンプルのみで、購入はオンライン決済に限定している。お店から持ち帰れるのはネクタイくらい。ただ、すぐに配達してくれて、欠品もない。逆に日本のZOZOTOWNが提供する「ZOZO SUIT(ゾゾスーツ)※3」は、これまでお店でしかできなかった洋服の採寸を自宅でしてもらおうという試みです。

新田 これまでは、着る場所・購入する場所が一緒でしたが、そのチャネルを切り分けることで、合理化を図っていますね。結果として在庫切れがない、サイズがよりフィットするなど顧客の要望も満たしています。

奥谷 そういう意味では、チャネルを単なる「販売経路」として考えている場合じゃなくなってきているなと感じます。もはやチャネルという言葉は、販路という意味を超えて、顧客とより深くコミュニケーションするための新しいマーケティング戦略に変わってきている。これを私は、「チャネルシフト」と呼んでいます。そして、チャネルシフトを進める上で、私たちが忘れてはならないのが「顧客時間」です。

新田 奥谷さんが以前から提唱している「検討、購入、消費」の一連の行動のことですね。「どこで何が何個売れた」という、購入のデータだけでなく、その前後における行動データも重要だと。

奥谷 はい。その行動データをオンラインとオフラインの両方で把握することが重要だと思っています。例えば、「喉が渇いた」という言葉をどこで顧客が言っているのか。オンラインなのか、渋谷の街中なのか、カフェの店内なのか。購入時だけでなく、検討や消費の段階を見ていく必要があります。チャネルシフトを成功させている企業は、購入の前段階でこうしたコミュニケーション経路を戦略的に用意しているんですよね。

デジタルとリアルを融合してどんな体験を提供できるか

新田 テクノロジーの進化により、スマートフォンを活用した決済サービスなども多様化しています。しくみを提供する側は、どう買わせるか、どう決済するかという部分につい重きを置いてしまいがちになっていますよね。

奥谷 何かを解決しようとしたときに多くのデジタルマーケターは、まずデジタル側から考えてしまう。そこだけで解決しようとしても、現場に落とし込めず、なかなかうまくいかない。一方で、販売の現場にいる人は、顧客がどういう行動を経て購入にいたるかというカスタマージャーニーをよく理解しています。でも、そのノウハウがそこで留まっているケースが多い。より顧客の購買体験をスムーズにするために、どうデジタルを活用するかを、マーケターも一緒に考えていかないといけません。

新田 どう顧客と向き合って、消費行動を加速させるか。リアルとデジタルの融合によりどんな体験を提供できるかを考える必要がありますよね。Amazonといえば、無人コンビニのAmazon Goが話題ですが、オンライン書店から始まったAmazonの原点回帰ともいえるAmazon Booksもリアル店舗ですね。

奥谷 Amazon Booksは興味深い事例です。Amazonでは需要によって本の価格を変動させていますが、それを実店舗であるAmazon Booksでも展開しています。商品には価格表示がなくて、アプリでスキャンして確認する。そして、プライム会員は安く買えて、そうでない人は通常価格。本の数はさほど多くなく、「Amazon Echo」の体験スペースやカフェが併設されています。おそらくは、ここで本の売上を上げようとはしていないんですよね。本自体よりも、「快適に読書する」という体験を売って「自分ごと化」させる。会員には快適な空間を提供することで優遇し、そうでない人には「あなたもこうなれる権利があるけどどうする?」と提案する場所になっているという。これはおもしろいしくみだと思いますね。

 必要なのは本質的な〝行動のオムニチャネル化〞

新田 最後に、これからの実店舗におけるオムニチャネルの展望について、見解をお聞かせください。

奥谷 今、懸念しているのは、文字通りの「チャネル」だけ多様化しても意味がないということです。各チャネルがスムーズに連動するには、顧客の行動自体もオムニチャネル化する必要があります。購買にいたる過程に対して、どんな体験をつくるかが課題だと思っています。デジタルを活用して顧客と強くつながるためには、やはりカスタマージャーニーの考察が一番重要であると考えています。

 プロフィール

奥谷孝司(おくたに・たかし) ※写真左
オイシックスドット大地株式会社 執行役員チーフオムニチャネルオフィサー、株式会社エンゲージメントコマースラボ代表。株式会社良品計画にて「MUJI パスポート」などオムニチャネル化を推進。

田剛史(にった・たけふみ) ※写真右
東京ガールズコレクション・プロデューサーを経て入社した株式会社ミクシィで数々のヒットサービスを創出。2012年、株式会社Showcase Gig設立。モバイルオーダーシステム「O:der」を開発・提供。

注 ※1 オンライン・オフラインを問わず、あらゆるチャネルから購買や体験ができるよう、流通・販売経路をつなげること。 ※2 シリコンバレーで創業された EC 専業のアパレルブランド。2011 年に試着のみできるショールーム専用店「ガイドショップ」をオープンした。※3 全身の寸法を測定可能な伸縮センサー付きボディスーツ。2017 年、無料での配布がスタートした。

 

※この記事は冊子版「DIG-IN vol.2」に掲載されたものです。
写真=高山諒(ヒャクマンボルト)
編集=Showcase Gig

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