
Amazonの取り組みから考える、ニューノーマル時代の歩き方。4つの事例が照らし出すもの
2022.06.24
小売店向け
2020.02.13
小売店向け
2017年に誕生した「OMO」という言葉が日ごとに注目を浴びている。OMOとはいったいどのような意味の言葉なのか。概要や事例を踏まえ、その先にある未来を考察する。
OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインに垣根を設けず、融合したひとつのマーケットとして捉えていこうとする考え方のこと。中国やアメリカを中心に、世界中でトレンドとなりつつあるリテールマーケティングの概念だ。
O2O(Online to Offline)やオムニチャネルといった既存の概念では、オンラインとオフラインを根本的に別のチャネルとして扱い、サービスを提供する側の視点でマーケットを捉えてきた。「メールマガジンやDMで販促を打ち、実店舗での販売につなげる」こうした取り組みはその最たる例である。
一方、OMOでは提供側ではなく、受け取る側の視点でユーザーとのタッチポイントを考える。「目的となるサービスを受け取れれば、オンラインとオフラインの区別はユーザーにとって問題でない」とするのがOMOの前提だ。この前提において、ECや実店舗といった販売チャネルの違いはUIの違いでしかない。購入に至る動線以上に体験を重視した考え方がOMOなのだ。
OMOは、GoogleチャイナでCEOを務めた李開復(リ・カイフ)氏によって2017年に提唱された。同氏は、ソファに座ったまま口頭でフードデリバリーを注文したり、牛乳が切れたことを冷蔵庫が自動的に察知しショッピングカートへの追加を促したりする事象を例にあげ、オンラインとオフラインのどちらにも属さない体験の存在を示唆。O2Oの概念を更に進化させた環境としてOMOを定義した。同氏によると、成立には4つの条件が必要になるという。
①モバイルネットワークの普及
②モバイル決済浸透率の上昇
③さまざまなセンサーの高品質化と低価格化
④AIの普及
これらの条件が満たされた社会では、オフラインのチャネルであってもオンラインに常時接続し、行動をリアルタイムでデータ化できる。既存の概念では分割して考えざるを得なかった2つのマーケットが、デジタル化によって融合を果たしていく格好だ。
たとえば飲食店では、「入退店」「座席の選択」「メニュー情報の照会」「注文」「決済」などの顧客行動をタッチポイントとし、スマートフォンを主とするデジタル技術によって情報をデータ化する。顧客目線に立ったスタッフの配置やスムーズなオペレーション、パーソナライズされた商品レコメンドなどは、データの活用によって実現できる施策の一例だ。OMOではこれらを通じて顧客体験を最適化し、事業のスケールを目指していく。これまでブラックボックスとなっていた実店舗における顧客行動を、店舗デジタル化によってつまびらかにする。これがOMOの概要となっている。
luckin coffee(iStock)
こうした潮流をいち早く読み、実現へと動き出しているのが中国のマーケットだ。同国においては、OMO視点でリテールを考えることがもはや当たり前となっている。モバイル決済が普及する土壌もあり、浸透へのハードルは著しく低い。
2018年1月、中国・北京に1号店をオープンしたLuckin Coffeeは、デジタル化による効率的なオペレーションで爆発的に店舗数を増やす注目のコーヒーチェーンだ。2019年11月公開の第3四半期決算によると、店舗数は3,680まで拡大。約2年でマーケットリーダーであるスターバックスの数字に肉薄する状況となっている。
同チェーンは大半の店舗を少ない客席数で運営する。実店舗の役割をテイクアウトとデリバリーの拠点として位置づけているためだ。店舗にはオリジナルのスマホアプリを活用した事前注文・事前決済のシステムが導入されており、スタッフは注文業務やレジ対応に時間を割く必要がない。店内でおこなわれる接客サービスは商品の受け渡しのみ。最小限の設備で運営できるうえ、混雑も起こりにくく、クレームや売り逃しが発生する心配も少ない。
Luckin Coffeeは、省スペース・省人・省力化によるコスト削減で増加させた売上を、安い価格設定やクーポンの発行、サービスの拡充といった形で顧客へと還元し、顧客体験を向上させている。現地ではスターバックスより同チェーンを選んで愛用する顧客が少なくない。中国国内でも際立つ成果を上げるOMO事例と言えるだろう。
アリババグループが運営するスーパーマーケットチェーン・盒馬鮮生(フーマーションシェン)も、OMO視点の取り組みで注目される小売店のひとつだ。同チェーンは、専用のアプリに登録している人だけが利用できる会員制の店舗というスタイルを取る。各店舗の半径3km以内を商圏に設定し、品揃えと商品の鮮度に力を入れている。
盒馬鮮生では、商品につけられたバーコードを上述のアプリで読み取ることで、産地や含有する栄養素などの情報を照会できる。このページには買い物かごの機能が設置されているため、そのままオンラインでショッピングを完結することも可能だ。注文した商品は最短30分で自宅まで配送される。「実物を見て商品を購入したいが、荷物を持ち帰るのは難しい」そんなユーザーにぴったりのサービスとなっている。
アプリには顧客の購買データがすべて蓄積され、店舗はこのデータをクーポンの発行などに役立てているという。顧客にとっては履歴を参照し簡単に再注文をおこなえるメリットもある。店舗デジタル化を通じてCXの向上を考える姿勢は、まさしくOMOの考え方そのものだ。盒馬鮮生もまた、Luckin Coffeeと並ぶOMOの成功事例となっている。
(編集部撮影)
(編集部撮影)
「オンラインとオフラインの違いは、UIの違いでしかない」
このOMOの前提で未来のリテールを考えたとき、コストの面でデメリットを抱える実店舗は、はたしてどのような価値を持っていくのだろうか。ひとつの答えとなる店舗が世界に誕生している。
「STARBUCKS RESERVE ROASTERY」は、コーヒーショップ大手のスターバックスが手がける体験型のフラッグシップストアだ。2014年12月、米・シアトルに1号店がオープンして以降、2019年12月までに世界に6店舗がオープンした。
同店舗には、実店舗でなければ得られない体験的要素が豊富に詰め込まれている。大型焙煎機の展示や見学できるコーヒー豆貯蔵庫、ゆったりくつろげるラグジュアリーな空間などはその一例だ。2019年2月にオープンした東京の店舗には、約1年が経った現在も多くの来店客が訪れる。OMOにフォーマットすることが当たり前となっていく社会で、実店舗は“リテールテイメント”としての価値を示していくのではないだろうか。
また、オフラインでなければ得られないデータの存在も、実店舗が残っていく理由となるだろう。
「顧客がどのような経路で店内を進み、どの商品との間で購入を検討しているのか。」
「商品のどのような点に不満を感じ、なぜ購入へと至らなかったのか。」
こうしたデータは実店舗でなければ得ることが難しい。CXの最適化に向け、実店舗が担うべき役割は大きいというのが現状だ。
近年では、オンラインを主戦場としてきた企業のオフライン進出も目立つ。EC大手のAmazonが2016年にオープンした「Amazon Go」のニュースは、誰もが記憶に新しいはずだ。同社は2018年9月の段階で、2021年までに3,000店舗を出店する予定としている。実店舗におけるデータの重要性は、OMOの時代にこそ高まっていくに違いない。
発展期を迎える中国と比較すると、日本のOMOはまだ黎明期と言わざるを得ない。モバイル決済の浸透や、データ活用に対する理解が大きく遅れをとっているためだ。
しかし、この間にも世界ではOMOが浸透し、実店舗における行動データの取得が進んでいる。既にAmazonに席巻されている日本の小売業界。これ以上の意識の遅れは致命傷となる危険性をはらむ。OMO時代に日本の小売が正念場を迎えている。
文=結木千尋
編集=Showcase Gig
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