飲食店向け

2019.11.27

紙のメニューが消える中国のレストラン。OMO視点で”注文”を再考する

レストランの見慣れた注文のシーン。店舗のデジタル化によって、いまその常識が変わろうとしている。接客・応対の質は、料理ジャンルや味、価格など、商品そのものが持つ価値と並び、飲食店選びの基準となりやすい。そのキーピースである"注文"に訪れる変革とは。中国の先進事例から日本の飲食店の未来を考えていく。

店舗デジタル化最前線。なぜ中国がテクノロジー先進国となり得たのか

世界で進む店舗デジタル化の最前線が中国にある。アリババ、テンセントなどのITの巨人を筆頭に、数々のスタートアップ企業がリテールテック開発に全力を上げ、無人化店舗や顔認証システム、音声AIといった先端テクノロジーの活用事例を生み出してきた。レストラン分野も例外ではなく、上場を果たしたLuckin Coffeeをはじめ、モバイルオーダーなどを活用したゴーストレストラン・完全キャッシュレス店舗などの多くレストランを様相を変えるテクノロジーが中国で生まれている。背景にはモバイル決済の普及がある。

2018年末に実施されたPayPayのキャンペーンを契機に、日本でもようやく一般認知が広がりつつあるQRコード式モバイル決済だが、中国では2011年ごろから市場の拡大がはじまり、既に飽和状態となりつつある。特に2014年以降の発展は目覚ましく、2015年に取引規模100兆元(約1,500兆円)まで拡大、2019年には取引規模200兆元、利用者数7億人を突破する見通しだ。

イギリスに本拠を構えるビジネスコンサルティングファーム、Price waterhouse Coopersが2019年に発表したレポートによると、中国国内でのモバイル決済使用率は86%。普及率も7割に迫り、どちらも世界一の水準となっている。

上述したリテールテックはすべて、デジタルによるプリペイド・ポストペイドを前提に開発されている。モバイル決済の普及した土壌があったからこそ、中国はテクノロジー先進国となり得たに違いない。

“紙のメニュー”が消える中国のレストラン

リアルでの金銭授受を一気に葬り、モバイル決済への転換に成功した中国では、レストランでの「注文を選ぶ」段階のデジタル化も加速している。“紙のメニュー”が店舗から消えているのだ。

国内の人気串焼きチェーンである「丰茂烤串(フォンマウ・カウ・チュアン)」は、スマートフォン経由でオーダーするシステムを取る。入店・着席後、専用のアプリでテーブルにあるQRコードを読み取り、表示されたデジタルメニューからオンラインで注文をおこなう仕組みだ。

QRコードはテーブルごとに個別に設置されているため、オーダーとテーブルの紐付けも同時に完了する。同じQRコードを読み取ったスマートフォンは自動で同期されるので、注文内容がグループで重複する心配もない。

丰茂烤串は店内に“紙のメニュー”も併置しているが、中国国内にはデジタルメニューのみで対応する飲食店も少なくない。大手チェーンから個人経営のレストランにいたるまで、いま中国のレストランから“紙のメニュー”から、注文用QRコードに変わってきているのだ。

「丰茂烤串」の注文用QRのコード。各テーブルにユニークのQRコードが貼られ、注文とテーブル番号が紐付けられるしくみ。(編集部撮影)

顧客は自分のスマホからメニューを開き、それぞれ注文する。テーブル内の注文内容はオンラインでリアルタイム共有される支払いもそのままオンラインで完結する。(編集部撮影)

上海「南小館」のQRのコード。WeChat PayやAlipayのアプリ内で起動する例もQRコードも(編集部撮影)

リテールマーケティングはオンライン起点の考え方へ

OMO(Online Merges with Offline)という言葉がある。オンラインとオフラインに垣根を設けることなく、一つの大きなマーケットとして施策を打とうとするマーケティング概念だ。従来はO2O(Online to Offline)やオムニチャネルのように、オンラインとオフラインを本質的に別のマーケットと捉える考え方が主流だったが、最近になり、このOMOがマーケティングのトレンドとなってきている。

特に中国における浸透が著しい。さまざまな店舗がOMOの考え方に準じた施策をおこなっている。例えばデジタルメニューを置く飲食店では、QRコードの読み取りを通じて、ユーザーの来店行動や日時、注文した料理などの情報がアプリのIDと紐付けられる。店舗側はこれらのデータを分析し、来店頻度やお気に入りのメニュー、日常の行動範囲、他にどのような飲食店を利用しているのかといった、より個人に密着した情報へと昇華。訴求しやすいクーポンを個別に配信したり、競合店に合わせてキャンペーンをおこなったりと、効果的な施策へとつながっていく。

こうしたデータの蓄積は、店舗にとって重要な資産となっていくだろう。これまでレジでの購入という“点”でしか得られなかった情報が、興味・関心、行動範囲、時間といった“線”で得られるようになる。アフターデジタルと呼ばれる時代、OMOはリテールマーケティングに必須の視点となっていくのではないだろうか。

一方で、日本では、意識しないタイミングで収集されるデータに抵抗感が強い。しかしオンラインに限れば、閲覧履歴の収集のように日常的におこなわれている手法だ。行動データの活用は、店舗だけでなく、ユーザーにも利益をもたらす。未来の購買体験のために、安心・安全に利用する方法を模索するべきなのかもしれない。

テーブルオーダー、日本での活用は

中国で活用される無人のテーブルオーダーシステムだが、日本国内においてはまだ目立つ導入事例が出ていない。人手不足にあえぐ日本の飲食業界はQRコードではなく、卓上タブレットで省人化を図っている現状だ。

しかし、OMO視点で考えるのであれば、テーブル備え付けの端末では効果が上がらない。顧客が持つ個人IDと来店にともなう情報を紐付けられないためだ。今後は中国のようなシステムへの移行が理想的だと言える。オンラインの即時性を活かしつつ、注文・決済までをシームレス完了でき、小規模の事業社でもシステムを取り入れることが可能である。

また、2020年にはインバウンドの需要拡大も予測される。中国以外にも多くあるアジアの“モバイル決済先進国”。インフラ不足による消費低迷で商機を失わないために、テーブルオーダーひいてはモバイル決済システムの導入が待たれる。

最近では国内でもQRコードのテーブルオーダープラットフォームが登場している。近い将来、日本の飲食店からも“紙のメニュー”が消えるに違いない。

キャッシュレスが店舗デジタル化を推進する

中国ほどモバイル決済が浸透していない日本。QRコードによるテーブルオーダーシステムの一般化は、まだ少し先となりそうだ。OMO視点のマーケティングともつながる同システム。活用の先には店舗側のメリットだけでなく、UXの向上もある。日本におけるアフターデジタル時代のニューリテール確立は、モバイル決済の普及にかかっているのかもしれない。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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