
GODIVAが取り組むDXの現在地。モバイルオーダー導入で見据えるwithコロナ時代の生存戦略は
2022.02.01
新型コロナ対策
インタビュー
小売店向け
2019.09.04
インタビュー
消費行動においてオンラインとオフラインの垣根がなくなっていく「OMO(Online-Merge Offline)」の時代において、店舗やブランドは顧客とどうつながっていくべきだろうか。この特集では全4回にわたって、各業界の最前線プレイヤーとOMO店舗の"今と未来"について聞いた。第1回目となる今回は、JR東日本グループの森大祐氏に、Showcase Gig代表の新田剛史がJRの駅ナカ店舗でのデジタル施策について伺った。
※この記事は2019年8月20日、Showcase Gig主催のトークイベント『OMO meetup vol.1』の内容を再録したものです。
新田 剛史(ShowcaseGig):今日はフードテクノロジーの最前線をテーマに、OMOの取り組みや課題についてお聞きしていきます。まずは、現場で日々戦いながら国内最先端の仕掛けを実行されている森さんのお話を伺えたらと思っています。まずは自己紹介からお願いしてもよろしいですか。
森 大祐(ジェイアール東日本フードビジネス):まず、私が所属している会社とJR東日本グループについて説明しますね。JR東日本は事業の裾野がとても広くて、鉄道はもちろんのこと、飲食店も経営していますし、サッカーチームやスキー場も持っています。グループ会社がたくさんあって、そのなかで飲食専門の会社は2つあるのですが、私が所属しているのはジェイアール東日本フードビジネスという会社です。私は入社して20年以上たつのですが、販売促進や広報をやっています。最近はさまざまな新しい試みをするNEXT10推進部という部署にも所属し、Showcase Gigさんとの共同プロジェクトもそこで行っています。
新田:昨年、Showcase GigはJR東日本グループと業務資本提携させていただいて、それから森さんとは、JR東日本フードビジネス社との取り組みの中で、モバイルオーダーを起点とした新たなプロダクトの開発などでご一緒しています。「飲食店の未来がどうあるべきか」を一緒に考えている関係ですよね。森さんは以前から、様々な角度で新たな取り組みを実践されていますが、そのなかで感じている課題を含めて、今日はお聞きしたいと思います。
森:店舗での取り組みを理解していただくために、弊社についてもう少し紹介させてもらいますね。先ほどもお話しした通り、JR東日本フードビジネスはJR東日本グループの飲食系の会社なのですが、1989年に創業して今年30周年を迎えました。飲食系の会社で30年続いていると聞くと、結構がんばっているなと感じていただけると思うのですが、現在は首都圏近郊に約260店舗を展開していて、年商は220億円くらいです。1店舗あたり年商1億円くらいのイメージですね。JR東日本の駅ナカにある「ベックスコーヒーショップ」やファーストフードの「ベッカーズ」、フレッシュジューススタンドの「ハニーズバー」、おむすびの「ほんのり屋」などを主に展開しています。
新田:駅ナカにあるので、それらの店舗は会場のみなさんも恐らくどれかは知っていらっしゃると思いますし、利用されたことがある方も多いと思います。
森:その中でなぜ私たちのお店が、OMOなどのデジタル施策に取り組む必要があるのかということをお話しします。弊社はJR東日本のグループ会社なので、基本的にはグループの大きな方針に沿って施策や戦略を考えることになります。昨今発表されたグループの経営ビジョンに「変革2027」というものがあります。「2027年にこうなっていたい」というビジョンを掲げているもので、詳しくはJR東日本のWebサイトでご覧いただけますが、ものすごくシンプルに内容を言うと、さらに増収増益を目指そうということです(笑)。具体的に言うと、売上1.5倍、利益1.5倍。飲食業界が厳しいと言われるなかで、この目標を「どうやって実現していくのか」を私たちは考えなくてはなりません。
新田:JR東日本グループはすでに規模が大きい中で、大変難しい課題ですね。
森:売上を上げていくための要素として飲食業界でよく言われるのが、「クオリティ」「サービス」「クレンリネス」「ホスピタリティ」の4つです。この4要素を高めていくことで常連さんを増やし、売上を上げ、ブランドの魅力を向上させるというのが王道になっています。美味しいハンバーガーがあって、素敵なサービスを受けられて、お店がきれいで、にっこり笑ったスタッフがいるみたいな世界観です。
森:4つの要素を高めなくてはいけないのですが、私たちが今直面している課題が、深刻な人手不足です。労働人口が減ってきていることを私たちも痛感しています。私たちはJR東日本の駅ナカに店舗を構えているので、人手不足の波は遅れて来ました。夜働いても女性も安心して帰れますし、雨の日でも傘をささずに職場まで来られるので、以前はスタッフの採用に苦労しませんでした。
でも、もう状況が変わってしまって、人がなかなか集まらなくなってしまいました。それでどのようにその問題を解決しているのかと言うと、単純に募集時の時給を高くしています。東京駅などでは時給1,500円スタートのお店もなかにはあると耳にしました。ひとつのお店が時給を上げると、周りのお店の時給もつられて上がっていきます。ただ、スタッフさんの時給を上げても売上が増えるわけではないので、人件費のコストだけが増えている状態です。駅は家賃も高いので、利益を出すのが大変です。
新田:飲食業界の人手不足は本当に深刻ですし、それに伴って経営もますます難しくなっていますよね。
森:最低限の人数でお店を回さなくてはいけない状況なのに、インバウンド対策も考えなくてはいけません。英語、中国語、フランス語など、さまざまな言語を話すお客様が、2020年に向けてさらに増えてきますから。そして、グループの経営ビジョンを実現するためには売上と利益を増やさなくてはいけません。そうなると、お店に対してなにか大きなサポートが必要です。
新田:それでデジタル施策に積極的に取り組まれているわけですね。
森:昔はスタンプカードなどのアナログの施策をやっていたのですが、今の時代には適さないと思っています。店舗スタッフに負担にならないように、テクノロジー側で販促を考えなければいけません。
例えば「ベックスコーヒーショップ」と「ハニーズバー」でこの7月〜8月に実施している「夏の早起きキャンペーン」は、対象となる朝の時間帯に「Suica」で購入していただくとポイントが付与されるキャンペーンですが、お店のスタッフは一切関わりません。告知を見たお客様が対象の時間帯に買い物をすると、裏側で勝手にポイントが付いているという仕組みです。このようにお店のスタッフの手間を煩わさない仕組みでキャンペーンを設計する時代になっています。
新田:駅ナカのお店ですから、スタッフさんは常に忙しいですからね。これ以上業務を増やすのは難しいですよね。
森:最近導入したデジタル施策の例をあげると、駅ナカ店舗の混雑緩和やキャッシュレス化による効率化を図るために、「ベッカーズ」でWebから商品の事前注文・決済が可能なモバイルオーダーを実験導入しました。
Showcase Gigさんと一緒にこのモバイルオーダーを導入したことによって、テイクアウト利用者の増加やオペレーション効率化の効果が生まれています。また、交通系電子マネーを含むキャッシュレス決済に対応した、「O:der Kiosk」というセルフ注文端末を店頭に設置することも計画中です。多言語対応で、モバイルオーダーとも連携します。こうして私たちは、デジタル施策による効率化や多言語対応を進めながら、集客も同時に考えています。
森:スタッフ教育も大きく変わってきています。昔はマニュアルが全部紙で、辞書よりも大きく分厚いバインダーが何冊もありました。そのマニュアルが事務所の鍵がかかった場所に保管されていて、ほとんどのスタッフは読んでいませんでした。それが現在では、クラウド型のマニュアルサービスを導入したため、スタッフは店舗のタブレット端末や自分のスマホでも、業務マニュアルや新しいメニューの作り方などを見ることができます。画像付きの具体的な作業指示をいつでも確認可能です。
新田:それは大きな進歩ですね。スタッフの方の負荷がかなり軽くなるはずです。
森:他にも、例えば弊社が展開しているベーカリーの「リトルマーメイド」では、パンの形を画像認識して自動で会計が表示されるシステムを導入しました。ベーカリーでは日々メニュー変更があるので、スタッフは新しいパンを覚えて、正確にレジのキーを押して会計をしなくてはならないのですが、これが非常に大変でした。それが画像認識のシステムを導入してからは、レジの前にできていたお客様の列は解消されるし、スタッフは業務に余裕ができたので暑い日にお店の前のバス停でお水を配るまでになりました(笑)。
「リトルマーメイド」の画像認識レジ。(撮影:ジェイアールフードビジネス)
新田:こうした様々なデジタル施策に取り組んでいる森さんが、一番課題に感じていることはなんでしょうか。
森:まずは、弊社でも「デジタル技術を使って、どう売上をつくるか。どう課題を解決するか」を考える人材が不足しています。多くの人はそもそもデジタルについての知識がそこまでないので、デジタルを活用することを考えられないわけです。イチから社内で人材を育てるわけにもいきませんので、Showcase Gigさんのような会社さんとコラボさせていただきながら、進めている状況です。
それと、デジタル施策を導入するには、経営層をはじめとした社内の人々を説得しなくてはいけません。もちろん社内はデジタルに対してリテラシーのある人、理解のある人ばかりではないので、これが大変で。
新田:いつも苦労して進めていただいて、本当にありがとうございます(笑)。御社の場合は特に、グループの規模感が非常に大きいので苦労されるかと思います。ただ、弊社とのプロジェクトもかなりの速度感で去年くらいからいろいろと一緒に進めていただいているので、「変わろうとしている」という姿勢をすごく感じますね。
森:そうですね。ただ、デジタル施策を実施する際に乗り越えなくてはいけない壁は、経営層だけではありません。準備段階に進むと、店舗を指導する立場の店長さんたちに説明しなくてはなりません。もちろん、デジタルに苦手意識を持っている人も多いので、わかりやすく説明し、興味を持ってもらえるように工夫して伝える必要があります。
新田:伝え方を工夫されているとのことですが、どのように伝えていらっしゃるのですか?
森:遠い未来のことを語ってもしょうがないので、いま困っていることに寄り添ってデジタル施策のメリットを伝えるようにしています。「電話に出なくていいんだよ」だったり「余裕を持って準備ができるよ」だったりと。また、「簡単だから」「試しだから」「ダメならやめるから」や「お店のコスト負担はないから」と説明して、店長の心のハードルを下げてあげることも重要ですね。
新田:OMOとひと口に言っても、実現するまでは本当に大変ですよね。中国の「ラッキンコーヒー※1」とか、モバイルオーダーありきで新たなお店を始めるのと、既存店にモバイルオーダーを導入するのとでは難しさが大きく異なります。すでにある業態にデジタル施策を導入しようとすると、森さんがお話しされたような問題は出てくるはずです。
森:そうですね。必ず出てくると思います。
新田:なぜリアル店舗でオンライン施策やモバイルオーダーが広まらないのかを考えたときに、リアルなお店の世界は森さんがお話しされたようなリテラシーや教育の問題があり、それを乗り越えるには強い熱意が必要になってくるんですよね。ただ、JR東日本さんはそれを数ヶ月のプロセスで進めてくださったので、私は「まだ日本も捨てたものではないな」と思えました(笑)。
森:ありがとうございます。
新田:「ベッカーズ」でもやっとモバイルオーダーが実現して、モバイルオーダーの導入店舗も増えてきていますが、まだまだこれからだと私は思っています。また、「ベッカーズ」で導入されるセルフ注文用のキオスク端末も、レジの代わりになるタッチパネル型の注文決済・端末ですが、アメリカのファーストフードではもう当たり前にあるものです。それがやっと、日本でも実現するというのは感慨深いです。
米国「マクドナルド」のキオスク端末(編集部撮影)
森:日本の飲食店にはさまざまなシステムがすでに入っていて、各システムに細かな運用ルールがあって、セキュリティの考え方もそれぞれであって。そこに新しいシステムを検討して導入するのは、かなりのコストと時間がかかるので、どこかで諦めたり、破綻したりすることも多いと思います。
新田:やりきれば、みんなが期待しているような世界になるんですけどね。もちろん、中国やアメリカとは商慣習が違うので、向こうの事例をそのまま活かせるわけではないですが、人手不足の問題などを考えれば、日本ももっとみんなで効率化を図っていくべきだと思います。
森:本当にその通りですね。
森 大祐(ジェイアール東日本フードビジネス株式会社)
営業戦略本部 販促・宣伝部兼NEXT10推進部 担当部長
PRSJ認定PRプランナー
ジェイアール東日本フードビジネスへ新卒入社後、店長業務を経てJR東日本へ出向しエキナカ開発業務等に従事。出向から自社に復職後はながらく販売促進・PR広報・社内報制作に従事。2018年より新設のNEXT10推進部にも所属し、社内のモバイルオーダー、セルフオーダー端末開発やSDGsなどの案件を取り扱う。外食業界をもっと素敵な業界にと願うJR東日本系飲食企業の宣伝・広報パーソン。
新田 剛史(株式会社Showcase Gig)
代表取締役
ファッションEC運営企業を経て、東京ガールズコレクション最初期のプロデューサーを務める。その後、株式会社ミクシィ入社。ソーシャルビジネスの責任者として、様々なサービスを生み出す。2012年、株式会社Showcase Gig設立。国内初となる本格的なモバイルオーダープラットフォームの提供を開始。現在約1,500店舗の飲食店にサービスを提供する。
※1専用アプリからのテイクアウトやデリバリー注文に特化した中国のコーヒーチェーン。2018年に1号店が開店し、わずか1年で2,000店舗以上までに急成長した。
Vol.2
Vol.3
Vol.4
文=堀越大輔
編集=Showcase Gig
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