【OMO対談】「銀のさら」渋谷氏に聞く、フードデリバリーの未来

オンラインとオフラインの垣根がなくなる「OMO(Online-Merge Offline)」の時代が到来し、企業やブランドと顧客のつながり方は、大きな変革期を迎えている。特集の第2回目となる今回は、「銀のさら」や「釜寅」「ファインダイン」を展開するライドオンエクスプレスの渋谷和弘氏に、Showcase Gig代表の新田剛史がフードテクノロジーの今と未来について聞いた模様をお届けする。

※この記事は2019年8月20日、Showcase Gig主催のトークイベント『OMO meetup vol.1』の内容を再録したものです。

フードデリバリー業界で、さまざまなデジタル施策を模索

新田(Showcase Gig)渋谷さんとは、創業初期からのお付き合いですね。当時から企業の垣根を超えて、「飲食業界としてのテクノロジー活用」を訴えかけるなど活動されていらっしゃいますが、まずは自己紹介をお願いしてもよろしいですか。

渋谷(ライドオンエクスプレス):ライドオンエクスプレスの渋谷と申します。弊社では「銀のさら」「釜寅」などのブランドでフードデリバリー事業をやっていまして、私はデジタルマーケティングを担当しています。もともとシステム開発やコンテンツ制作を8年ほどやっていて、その後事業会社側へ移って15年くらい経ちました。

新田:オンラインとオフラインをつなげる領域において、渋谷さんはさまざまな試みをされていて。日本でデジタル施策を実現していくにあたって、どのように課題やハードルを乗り越えるかを、いつもお話しさせていただいています。また、弊社と一緒にゲーミフィケーション×デリバリーのアプリ「デリバリープラネット」などいくつかのサービスを開発させていただきましたよね。まずは渋谷さんが手がけられている事業についてお伺いできたらと思います。

渋谷:はい。弊社の取り組みについてご紹介する前に、そもそも私がどういう経緯でライドオンエクスプレスに入社したのかをお話しします。私はライドオンエクスプレスを転職エージェントに紹介されたときに、初めは断りました。飲食事業は浮き沈みが激しいという業界の事情をある程度わかっていたので。でも「デリバリーは普通の飲食とは違うから、一回話を聞きに来てくれ」と言われて話を聞いてみたら、確かにデリバリーは事情が全然違いました。

まず、一部の会社を除いて、デリバリー事業者はほとんど潰れたところがありません。販促の方法にも特徴があって、地域に根ざして、決まったエリアにチラシを撒いて反応率を見たりだとか、お客様を育てていくような意識でやっています。それで、デリバリーはビジネスとしておもしろいと思ったのですが、デリバリー領域では誰もデジタルに本格的に取り組んでいませんでした。ここでデジタル施策に好き勝手取り組めるなら、こんなにおいしい話はないなと思いました(笑)。

新田:本当に自由にいろいろやられていますよね(笑)。最近一緒にAmazon Echo(アマゾン・エコー)からお寿司を注文できるシステムを開発しましたが、これもかなり先進的な試みですよね。

渋谷:私がライドオンエクスプレスに入社した10年前は、デリバリーの注文は95%が電話で、5%がWebでした。その後苦労しながらさまざまな施策に取り組んで、現在は電話とWebが半々くらいになっています。それで、次に来るのが音声かなと思っています。日本人はGoogleの音声検索をあまり使わないのですが、世界的に見るとGoogle検索のうちの音声検索が占める割合が20%くらいにまで達しています。Amazon Echoが上陸したので、音声での検索や注文が日本にも根付くのではないかと思って、Amazon Echoから寿司を注文できるようにしました。

新田:Amazon Echoで注文すると、前回と同じメニューが自宅に届くという仕組みです。あっという間に注文が完了して便利です。

フードデリバリーが、物販系ECやリテールと融合する世界が実現する

新田: 2016年にUber Eatsが日本に上陸して大きな話題となりましたが、日本で最初にネット配車代行を始めたのはライドオンエクスプレスさんの「fineDine(ファインダイン)」ですよね。Uber Eatsが上陸するよりもずっと前に、日本では配車代行が浸透していたということです。みなさんも「銀のさら」「釜寅」などはご存知だとは思いますが、みなさんが想像している以上に、ライドオンエクスプレスさんはテクノロジーを駆使した企業ですよね。

渋谷:会社の理念でもあるのですが、私たちが実現したいのは「あらゆるモノを」「好きな場所に」「いつでも」「即時に」「届けてくれる」という世界です。そのためのインフラをつくるためには、あらゆるテクノロジーを使わないといけません。フードデリバリーをなぜやっているのかと言えば、外食に出掛けて移動に時間を使うよりも、自宅に居て家族との時間や趣味に使う時間を多くしてほしいという想いが根底にあります。

新田:単身世帯や共働き世帯の増加もありますし、時短で美味しいものを食べたいというニーズも増えていますよね。ただ、理念にあるようなデリバリーの世界へ向かうためには課題も多いはずです。

渋谷:フードデリバリーの世界をもっと広げていくには、物販系ECやリテールと融合した世界をつくらないといけないと思っています。以前だと物販系ECは商品が届くまで一週間かかるのも普通だったのですが、今はヨドバシさんなどがすぐ届けてくれますし、スーパーなどのリテールも2〜3時間で配達してくれるまでになっています。

今はフード、物販、リテールは別々にデリバリーされていますが、デジタルの共通アカウントですべてをデリバリーしてもらえるようになると、素敵な世界になると思います。そうしていかないと物流網が発達しませんし、お客様も増えていきません。人件費の問題などで日本ではまだ実現できていないのですが、中国では2年前くらいからそうした世界が実現されつつあります。

日本/中国のデリバリー市場比較

新田:中国ではもうなんでも、どこにでも持ってきてくれますよね。新幹線の席にQRが貼ってあって、そこからスマホで注文すると、駅に停車している間に食べ物を走って持ってきてくれたりもしますし。一方でAmazonも2017年くらいから、通常のAmazonのサイトからハンバーガーなどを注文できる実験は始めているようです。

渋谷:私はここ数年中国を研究しているのですが、実はフードデリバリーが世界で一番発展しています。しかも、中国は基本的にスマホを起点としたデリバリーです。中国と日本を比較すると、中国はスマホの普及率が日本よりもかなり高いですし、レストラン数も10倍近くあります。デリバリーやテイクアウトの市場規模も中国は11兆〜14兆円もあります。

圧倒的な成長を遂げている中国のデリバリーサービス

中国の2強サービス比較

渋谷:中国のデジタル系の企業は、基本的にはテンセントかアリババの傘下にあります。デリバリーサービスで言えばテンセント系の美団外売(メイチュアンワイマイ)とアリババ系の餓了麼(ウーラマ)が激しいシェア争いをしているのですが、両者のデータを見てみると、デリバリーしているレストランの数も膨大ですが、ドライバー数もすごいですよね。美団外売のドライバーはアクティブな人だけで60万人もいます。

日本はデリバリー業界全体でも60万人もドライバーはいないと思いますが、一社でそれだけのドライバーを抱えているんですね。フードも日用品も両方デリバリーしていますし、人気店の前でたくさんのバイクが待機しているのをよく見かけます。

店舗の前で待機するデリバリーの配達員。(編集部撮影)

新田:この2社は赤字もまったく厭わない姿勢で拡大していますよね。もう誰がコストを負担しているのか、よくわからないくらい(笑)。中国は人件費が安いのは確かですが、それにしてもお金の使い方がすごいというか…。

渋谷::中国を参考にすべきなのは、「プラットフォーム」ではなくて「エコシステム」と考えている点ですね。日本ではまだ、場をつくった企業が顧客データや決済を総取りする「プラットフォーム」という考え方をしています。一方で中国は、アリババの創業者であるジャック・マーの思想の影響が大きいと思うのですが、新しい場をつくったらみんなが平等に経済的な恩恵を受ける「エコシステム」の考え方をします。一社で独占するのではなく、決済システムや顧客管理の仕組み、販売網などを安く貸し出して、「みんなで社会を良くして、さらに新しいビジネスをつくっていこう」という思想なので、日本とは大きく異なります。

新田:「エコシステム」の考え方は、共産主義のひとつの側面と言えますよね。共産主義というと、「怖い」とか「支配される」みたいな印象を持つ人も多いかと思いますが、こうした良い面もあるんですよね。

渋谷:中国では芝麻信用などの信用スコアもうまく機能していると思っています。騙したり不正をする人が少なくなったので、良質なアカウントが増えてECでの取引もしやすくなっています。おかしな返品も少なくなり、ECの状態は日本よりも荒らされていないと思います。

新田:アリペイとウィーチャットペイが普及したここ3〜4年のわずかな期間で中国は激変していますよね。日本でも信用スコア提供しているベンチャーはありますが、レベル感は桁違いに違います。信号無視した人が、路上のサイネージに顔や名前をさらされたりするんですよ(笑)。中国を見てると社会がデジタル化した際のさまざまな側面が分かって、「まねできない側面」と「まねしたくない側面」が見えてきます。便利な社会ではあるのだけれども、複雑な思いを抱く社会に進化しています。

OMOを実現していくためにも仕様の統一が必要不可欠

新田::中国の場合、あらゆる注文・決済がユーザーのスマホ起点ですよね。デリバリーだけでなく、レストランでもテーブルのQRから注文するのが当たり前になっています。店員が注文を聞くという行為がもうなくなってきていて、スマホで注文も決済も終わらせてしまう。ただ、人手不足の日本のほうが本来は、こうしたシステムが普及すべきとも言えます。そこで、日本式のテーブルオーダーシステムとして、弊社で6月末「SelfU(セルフ)」というサービスをリリースしました。導入した居酒屋や焼肉屋では、スマホからの注文率がほぼ100%です。

Showcase Gig 「SelfU(セルフ)」。

渋谷:お店も少人数で運営できますし、お客さんもスマホから注文できるほうが便利ですからね。

新田:今、居酒屋やファミレスでテーブルのブザーを押しても、スタッフがなかなか来てくれませんからね。本来はブザーを撤去してテーブルオーダーシステムなどを導入したほうがいいはずなのですが、ブザーの導入にはかなりのお金を投資しているので、お店側としてはなかなか撤去できないという事情もあります。デジタル化を進めたり、OMOの最新事例を導入しようと思っても、そのあたりの問題は必ず出てきます。既存の店舗にある機器はインターネット接続を前提に開発されていないのですが、結構なコストをかけて導入しているので、簡単には代えるという決断ができません。正直、古いシステムが入りすぎてしまっています。

渋谷:古いシステムにとらわれない分、かえってアジアのほうが進んでいますよね。アジアはPOSという概念がないので、最初からパソコンを前提にしたシステムを組んでいます。中国にいたっては最初からスマホありきのシステムですし。

新田:飲食店の顧客チャネルの多様化を図にしたものがあるのですが、先ほど渋谷さんがお話しされたように音声で注文するとか、コネクテッドカーから注文するとか、これからはいろんなパターンが生まれるはずです。海外ではGoogleマップからレストラン予約ができるようになったりもしています。Showcase Gigは、オーダリングの部分をやっていますが、そろそろオーダリングの基盤統一をやらないといけませんよね。各事業者がそれぞれでシステムに投資して、システムをひとつ変えるたびに研修が必要になるというのは非効率すぎます。渋谷さんは、そうした仕様の統一に向けた活動をここ数年やっていますよね。

図:顧客チャネルの多様化

渋谷:はい。いろんな方々とお会いしながら、かなり力を入れていますね。

新田:インターネット事業者も飲食事業者もまとまって、みんなでコンソーシアムみたいなのをつくって働きかけないといけないのかもしれません。「なぜ日本の飲食店はデジタル化で便利にならないのか」「OMOの事例が少ないのか」とよく聞かれますが、とにかくまとまっていないんですよね。中国やアメリカみたいに予算がないからと言う人もいますが、私は正直お金の問題ではない気がします。既存のシステムの思想体系がバラバラすぎることのほうが、深刻な問題です。

渋谷:日本はいろいろとシステムがありすぎますよね。決済も含めてテンセントとアリババの2社にシステムがまとまっている中国みたいだと、デジタル施策の導入もやりやすいはずです。日本では各事業者が独自のシステムでやっているから、新しいことを始めようとすると、すぐに数千万円もかかってしまいます。飲食事業で数千万円はなかなか回収できません。

新田:それから日本では今、インターネットエンジニアはすごく増えていますが、意外とOMOを実現するための人材は育ってきていません。店舗側の人手不足が話題になることは多いですが、実はIT側の人手不足も深刻です。そのあたりも、今後解決していかなくてはいけない課題のひとつですね。

 

Profile

渋谷 和弘(株式会社ライドオンエクスプレス)

マーケティング本部 デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネージャー

アパレル商社での営業、印刷会社(WEBサービス開発部門)・ITベンチャー・大手デジタルコンテンツ販売会社にてデジタルサービス企画立案、構築を担当。事業会社サイドにて宅配サービスとデジタルの融合を追求したサービスの開発をするため、2010年(株)ライドオンエクスプレスに入社。デジタルサービス全般の企画設計やプロモーション、広告業務等々に従事。日常生活で気軽に利用出来るフードデリバリービジネスの普及を日々目指して活動中。

 

新田 剛史(株式会社Showcase Gig)

代表取締役

ファッションEC運営企業を経て、東京ガールズコレクション最初期のプロデューサーを務める。その後、株式会社ミクシィ入社。ソーシャルビジネスの責任者として、様々なサービスを生み出す。2012年、株式会社Showcase Gig設立。国内初となる本格的なモバイルオーダープラットフォームの提供を開始。現在約1,500店舗の飲食店にサービスを提供する。

Vol.1

【OMO対談】デジタル施策で変わる、JRの駅ナカ飲食店舗の最前線

Vol.3

【対談】“OMO”でなにが変わるか?世界から見えてくる店舗の未来

文=堀越大輔
編集・デザイン=Showcase Gig