インタビュー

2019.09.27

【対談】“OMO”でなにが変わるか?世界から見えてくる店舗の未来

特集の第3回目となる今回のゲストは、オイシックス・ラ・大地株式会社のチーフオムニチャネルオフィサーであり、株式会社顧客時間共同CEOの奥谷孝司氏。最新のOMO事例を紹介しながら、これからのリアル店舗が提供すべき顧客体験などについて、Showcase Gig代表の新田剛史が聞いた。

※この記事は2019年8月20日、Showcase Gig主催のトークイベント『OMO meetup vol.1』の内容を再録したものです。

OMOの象徴とも言える業態が、中国に出現して話題に

新田:今、イベントのテーマは「OMO(Online Merges with Offline)」ということで、リアル店舗とインターネットなどのデジタルを掛け合わせることで何ができるのか。最新の事例を見ながらShowcase Gigのスーパーバイザーでもある奥谷さんとディスカッションさせていただきます。

奥谷:よろしくお願いします。まずは自己紹介代わりに、私がOMOやモバイルオーダー、BOPISとどう関係にあるのかということからお話ししますね。私は前職で無印良品にいまして、2011年に、無印良品の店舗で店頭受け取りサービスを始めました。当時から無印良品はお客様を店頭に送客するという意識を強く持っていて、MUJI passportなどを開発しました。その頃から新田さんとはお付き合いがあります。今はオイシックスの仕事のほか、オムニチャネルやデジタルマーケティングについて学術的に研究したりしています。

※Buy Online Pick-up In Store。オンラインで購入した商品をリアル店舗で受け取ること。

新田:このOMOの領域は、世界の注目が今やアメリカから中国に移ってきています。アリババグループのスーパーチェーンの買収や、この5月に上場も果たした「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」は日本のブログなどでも話題ですが、2018年に創業して、ちょっと異様な出店ペースを続けていて、現在はおそらく3,000店舗は超えているのではないかと。「Luckin Coffee」はモバイルアプリからの注文に特化した店舗で、ピックアップはもちろん、デリバリーもすぐ持ってきてくれたり、2杯目が無料になるクーポンを配布していたりとまだ大きく赤字を出しているものの消費者からはすごく人気があります。面白いのが、マンスリーアクティブユーザー(MAU)をKPIとして見ていることです。MAUは通常、ソーシャルゲームやSNSなどのインターネットサービスが追っていたもので、飲食店舗で、IR資料においてこの数値をメインの指標とするケースは前例がないと思います。そこが非常にユニークだなと。

奥谷:飲食店のKPIを変えていますよね。「Luckin Coffee」は他業種から来て、店舗を一気に拡大して上場までしているというのが、非常におもしろいですよね。

ピックアップとデリバリーに特化したコーヒーチェーンの「Luckin Coffee」。スマホから注文・決済を行う。(編集部撮影)

新田:「Luckin Coffee」はかなり尖ったビジネスモデルなので、これがOMOの代表的な事例かというと異論も出てくると思いますが、ひとつのわかりやすい事例ではあると思います。そしてもうひとつ、中国のおもしろい事例だと思うのが、アリババグループの「盒馬鲜生(ファーマーシェンション)」というスーパーですね。専用アプリから商品を購入するとエリア内であれば30分でデリバリーしてくれます。お店に水槽があって、そこで泳いでいる魚介をその場で調理して、おかずとして届けてくれたりもしますね。オンラインを基軸として購買を考えているOMOの象徴的な事例かなと思います。

奥谷:オーダーをタッチポイントに、どうお客様とつながれるかという時代ですよね。「盒馬鲜生」の場合、店舗では天井にベルトコンベアがあって、ロジスティックを”見える化”するのがコンセプトで、「さっきまで生きていた新鮮な魚介をデリバリーしてくれる」と体感できるのも、おもしろいですよね。さらにそれを「料理して届けてくれる」などの良い体験をお客様に提供しています。

専用アプリを使い、決済はすべてアリペイで行う「盒馬鲜生」。天井にはベルトコンベアがあり、デリバリーの商品が運ばれていくしくみ。(編集部撮影)

新田:ご紹介した事例を見て分かるように、顧客の行動起点が来店行為ではなく、すべてスマートフォンアプリなど、オンラインというのが、今までになかった発想です。「Amazon GO」でもそうですが、店舗に来ている顧客にアプリを落としてもらうのではなくて、アプリを利用しないと成り立たない設計なのがOMOのひとつの象徴だと思いますね。

ただ、「Amazon Go」はかなり振り切った事例なので、「ホールフーズ・マーケット」の取り組みなどのほうが、実は自然なOMOと言えるのではないかと思います。実際に店舗を訪れるとわかりますが、「ホールフーズ・マーケット」の店内では、かなりAmazonプライムを推していて「プライム会員になると安いよ!」といたるところに書かれています。フードコートにはキオスク端末も導入されていますし、デジタル化とオフラインのブレンドみたいなのが、この店舗では良い感じにできていて。

奥谷:このホールフーズはオフィス街にあるので、ランチ時間帯はかなり混雑してるんですよね。そこで、キオスクを使って注文・決済できて、店員とのやりとりが全くなくスムーズなのは、良くできてますよね。

ホールフーズの店内。Amazon Primeの広告が並ぶ。フードホールにはキオスク端末やサイネージも。(編集部撮影)

新田:一方で、Amazon Fresh Pickup(アマゾン・フレッシュ・ピックアップ)は、カーサイド・ピックアップと言われる、路肩で生鮮品を受け取れる拠点も次々とつくっています。いろんなアプローチで、デリバリーして運ぶだけじゃなくて、さまざまなアプローチでオフラインに進出していて。Amazonプライムのサブスプリクションに誘導しています。

奥谷:「自宅にデリバリーしてもらえばいいのに」と思う方もいますが、帰宅する途中に寄りたいという人もいるし、消費者は必ずしも最短距離の合理性を求めているわけではないんですね。Amazon Fresh Pickupはそれを証明していると思います。

新田:次は国内の事例として当社が開発をご一緒した「TOUCH-AND-GO COFFEE(タッチアンドゴーコーヒー)」について話しましょうか。サントリーのBOSSのボトルコーヒーがスマホから買えるのですが、事前に自分の名前や味の好みを入力し、受け取り時間になったら店頭のロッカーから受け取るだけ。デジタルサイネージに名前が表示されたり、ボトルをパーソナライズできるのが、おもしろがられているようです。モバイルオーダーやキャッシュレスで時間短縮はもちろんできるのですが、プラスアルファの体験を提供したところ、ブログなどでも話題になって、朝5時に注文受付を開始して、7時には売り切れる状態になっています。

奥谷:マーケティングとしても価値のある事例ですよね。最近はデジタルマーケティングのおもしろい事例が少ないと思っていたのですが、こういう効率化だけでない、オンとオフラインでつながってバズらせるというのはどんどんやってほしいですね。

「TOUCH-AND-GO COFFEE」のデジタルサイネージ。(編集部撮影)

「TOUCH-AND-GO COFFEE」ではネームラベル付きのボトルを受け取れる(編集部撮影)

OMOのカギを握るID統合とデータの可視化

新田:「Luckin Coffee」や「TOUCH-AND-GO COFFEE」のように、オンライン起点で新規創業するのはある意味やりやすいですよね。一方で、既存の業態のデジタル化でいうと「オンラインIDの統合」というのが大きな課題のひとつです。日本企業はそれぞれの事業で開発するサービスごとにIDを作ってしまいがちで、例えば、ECサイトのアカウント、店舗のポイントカード、共通ポイントカード、モバイル決済のアプリとそれぞれで登録させていて…。IDが何もつながっていない状態で乱立していることが多いんですよね。Amazonでもアリババでも、OMOができている企業はオンラインIDがひとつに統合されてているのでこの図*ようにデリバリーからピックアップまで、あらゆるサービスをシームレスに作れます。

*OMO顧客を中心に、オンライン・オフラインの垣根がないシームレスな購買体験が実現される。そのためにはすべての中心となるオンラインIDの統合が必要。

奥谷:最近、「データ活用したビジネスを」といろんな場所で言われてますけど、やはり結局、ID統合してデータを集めないとマネタイズも難しいですよね。私も無印良品時代、「MUJI Passport」を作る際にはかなり反対もありましたが、今ではIR資料にも必ずといっていいほど、このアプリがどれだけ使われているかを説明するページがあり、投資の重要な指標になってきているのだと思います。でもそのためにはやはり統合されたIDがないと正確なデータが可視化できませんよね。

オンとオフがマージされなければ、データ蓄積は不可能。

新田:アプリとかスマホが起点になるのが当たり前の世代からすると、スマホから注文や決済ができないのは「おかしいよね」という時代になっていますよね。中国ではすでにそうなっていますし、発想が急激に変わってきています。日本はなぜすぐに作れないのかと考える際に、このIDの乱立はかなり根深いです。

奥谷:この図でいえば、モバイルオーダーを起点としたBOPIS(Buy Online Pickup In-Store)は学術的にも注目されており、私の研究分野でもあります。実はアメリカではもう、66%の人がBOPISを利用したことがあるというデータがあります。ウォルマートのデータで言うと、オフラインとオンラインの両方で買い物をする顧客は、そうでない顧客よりも2倍も商品を購入するそうです。

アメリカでは、スーパーマーケットやホームセンターにピックアップ用のタワーやロッカーが登場するほどBOPISが浸透している(編集部撮影)

新田:BOPISは、日本では不思議なくらい浸透していないですよね。4〜5年前にオムニチャネルって言葉がすごく流行ったのですが、取り組みがちょっと早すぎたのかなと思っています。ここでもやはりID統合がそもそも出来ていませんでしたし。アメリカはずっと進化し続けているのですが、日本は一回流行ってもその後が続かないことが多いですから。

奥谷:本当にもったいないです。オンラインIDを統合すると顧客行動の可視化が進みます。BOPISでは何分前に注文しているのかとか、会社帰りにピックアップしているとか、顧客の行動がわかります。単に決済をネットでするとか、商品を受け取りに来てもらえる、ことだけではないということを理解してほしいですね。店頭受け取りサービスの一気通貫の仕組みをつくると、この顧客行動の可視化によって顧客理解を深めることができます。

新田:飲食チェーンなどの切り口でいうと、海外のファーストフードチェーンで「キオスク」と呼ばれるインターネットに繋がった決済端末の導入が進んでいます。スタッフがレジで注文の入力や決済をするのではなく、この端末のタッチパネルでお客様自身が注文・決済を行います。従来のレジは、レジカウンターの中にあるバックヤード側の機器だったわけですが、キオスク端末ではレジ機能がユーザーフロントに出てきているわけです。バックエンドシステムなどと呼ばれていたものが、お客様とのタッチポイントの主役として前に出てきている。「Luckin Coffee」も自分のスマホで注文から決済までします。OMOの実現の仕方って業態によって変わると思うのですが、今後のひとつの潮流としては、バックエンドにあったシステムがユーザーフロントになるというのは言えるはずです。場合によってはバックエンドそのものがクラウド化されて見えなくなりますよね。

奥谷:そうですね。レジで会計のやりとりをするプロセスって、本来は必要ないんですよね。例えば、喉が渇いていたら水が欲しいわけですよ。だから水に対してはエンゲージメントがあるかもしれないけど、そのレジでのお金やりとりにはないかもしれない。それよりも、お客様にどんな体験を提供できるかということが重要なわけです。こういうセルフ決済の導入も増えてますよね。消費者がデジタルに囲まれているなかで、どのようなユーザー体験をつくり、エンゲージメントを深めるかを考えなくてはいけませんよね。

未来のフードデリバリーはどう変わる?【対談】ライドオン渋谷×Showcase Gig新田

新たな顧客体験の提供で、日本ならではのおもてなしの実現を

新田:世界のOMOの事例を紹介してきましたが、今後の日本について考えたいと思います。みなさんご存知の通り、日本は今後ますます労働人口が減っていきます。一方で、最低賃金は毎年上がり続けていて、東京、神奈川では時給1,000円を越しています。そうした状況において、デジタルによる店舗の省人化や、OMOによるデータを活用した業務の最適化は絶対に避けては通れません。デジタルで可能な業務はすべてデジタルに任せる。その上で、奥谷さんからお話があったように、リアルの現場でどのような付加価値の体験を提供していくのかを考える必要があるのかなと。

リアル店舗を完全無人化するのは今のところ現実的ではないので、デジタルを活用してレジを減らしながら、「人はなにをやるべきか」を考え、人は人にしかできない業務に集中することで、もっと行き届いたおもてなしをお客様に提供できるのかなと思っています。そうした付加価値を追求していくことが、これからの店舗に求められるのではないでしょうか。

奥谷:私が思うのは、良い意味でお客様の手を煩わせるなら構わないということです。良い顧客体験や付加価値を提供できるのであれば、お客様は喜んで手間をかけてくれます。店員と丁寧にお金をやりとりするよりもむしろ、モバイルペイメントとかでサクサクと済ませてしまったほうが、お客様としては負荷も少ないないわけです。だから、決済をお客様自身にやってもらったほうがお互いにWin-Winだし、店舗スタッフはその分の時間をお客様にもっと良い体験を提供するために使えます。リアル店舗もどんどんデジタル化していったほうが良いことは間違いありません。

新田:「TOUCH-AND-GO COFFEE」は好みの味や名前の入力でお客様に手間をかけさせていますが、カスタムラベルをつくれるようにしたことで、みんなが楽しんでやっていますよね。好きなアイドルの名前でつくったりしている人も多いようですが、そういう楽しい手間であればむしろ歓迎されていて。リアル店舗の省人化によるコスト削減の流れはますます強くなり、OMOは必ず必要になってくるはずなのですが、条件の異なる中国やアメリカの事例をそのまま持ち込むのではなくて、日本ならではの形に最適化した「さらなるおもてなし」をどう実現していくのかを考えていくべきだと思っています。労働人口が減少する時代に、限られたリソースを最大限に活用して、いかにお客様をおもてなしするか。そして、お客様一人ひとりにパーソナライズ化した付加価値を、どのように提供できるかが重要になってくるはずです。

プロフィール

奥谷 孝司
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員/チーフオムニチャネルオフィサー

1997年良品計画入社。2015年10月にオイシックス(現オイシックス・ラ・大地)に入社し、現職に。 早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)。2017年4月から一橋大学大学院商学研究科博士後期課程在籍中。 2017年10月Engagement Commerce Lab.設立。 2018年9月、株式会社顧客時間 共同CEO/取締役に就任。日本マーケティング学会理事 。『世界最先端のマーケティング』著者。

 

新田 剛史
株式会社Showcase Gig 代表取締役

ファッションEC運営企業を経て、東京ガールズコレクション最初期のプロデューサーを務める。その後、株式会社ミクシィ入社。ソーシャルビジネスの責任者として、様々なサービスを生み出す。2012年、株式会社Showcase Gig設立。国内初となる本格的なモバイルオーダープラットフォームの提供を開始。現在約1,500店舗の飲食店にサービスを提供する。

Vol.1

【OMO対談】デジタル施策で変わる、JRの駅ナカ飲食店舗の最前線

Vol.2

【OMO対談】「銀のさら」渋谷氏に聞く、フードデリバリーの未来

文=堀越大輔
編集・デザイン=Showcase Gig

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