2019.11.19

小売店向け

買い物体験を変える−リテールテイメントの時代へ

北米を中心に新たなトレンドとして広がりつつある、小売の商業形態に「リテールテイメント(Retail-tainment)」がある。リテールテイメントとは、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)を融合させた用語であり、消費者がエンターテイメント要素のあるユニークな体験をすることができる店舗のことをいう。もはや顧客は、実店舗を買い物をするためだけの場所ではなく、そのブランド特有のユニークな体験ができる場所として求めはじめているのだ。なぜ今、リテールテイメント店舗をつくるのか、国内外の店舗事例とともに考察したい。

増える「体験型マーケティング」

昨今、ミレニアム世代を中心に店舗に体験を求める傾向が強まっており、楽しくてユニーク、わくわくするような体験を提供する店舗の人気が高まっている。世界40ヵ国以上で事業を展開する、仏ITコンサルタント会社「キャップジェミニ」の調査によると、70%の消費者は、 “購入前に製品に触れたり体験したりしたい”と希望しており、82%は “感情的なエンゲージメントが高いブランドの商品を購入する”と回答。また、今年5月にロンドンで行われた「Retail EXPO」でも、73%の英国人は “体験を重視した店舗に、よりお金と時間を使う”と発表されており、こういった様々なデータからも、世界では体験型のリテールテイメントに注目が集まっているのが分かる。

今の時代、買い物だけであれば、自宅からオンライン購入もできる。そんな中、実店舗でそのブランドならではの “リアルな体験”を提供することは、顧客満足度・顧客ロイヤリティ・ブランドの価値を向上させることに繋がるとされており、さらには話題性を持ってソーシャル拡散も狙える。

ブランドやメーカーが、消費者と店舗体験という媒体を通して繋がりを強化するという新しい体験型マーケティングの時代が到来している。

世界のリテールテイメント事例 

adidas – ブランドを体感するコンセプトショップ

adidas(アディダス)は、ニューヨークの五番街に建物を1棟まるごと使用した、4フロアからなる世界最大規模のフラグシップストアを持つ。スポーツ好きにはもちろん、そうでなくてもテーマパークのような空間でadidasのブランドをダイレクトに体感できる店舗として人気だ。店内には、ショールームのような空間やスムージーなどのドリンク販売、テレビでスポーツ観戦ができるスタジアム風の空間にテニスコート、実際にスパイクの蹴り心地を試すことができるサッカーコートなどが揃っており、アディダスの店舗内ということを忘れてしまいそうな内容の店舗設計と規模になっている。店内ではカスタマイゼーションしたスポーツウェアやスニーカーをつくることもでき、特別な体験を提供している。

出典:ADIDAS AG

出典:ADIDAS AG

IKEA-“お泊り会”イベントで寝具を体験

世界最大の家具量販店であるIKEA(イケア)では、閉店後の店舗という特別な空間での“パジャマパーティ”を各国の店舗で行っている。内容は店舗によって異なるが、選ばれた会員のみが、軽食、ヨガ、瞑想などのアクティビティを楽しめたり、さらにはIKEAのショールームに一泊できたりと、IKEAファンに人気のイベントである。宿泊時にはマッサージや応接間などを提供したり、参加者はIKEAの商品からマットレス、シーツ、枕などといった、就寝時に自身が使用するアイテムを自由に選べたりなど、個々のニーズに合わせた体験を提供することに成功している。およそ半日という時間のなかでゆったりと商品を試してもらい、自社商品の価値を実体験として知ってもらうという目的のほかに、話題性や口コミといった観点でのマーケティング戦略にも一役買っている。

Vans – ブランドのバッググラウンドを発信する複合施設

ロンドンのHouse of Vans(ハウス・オブ・ヴァンズ)では、30,000平方フィートにも及ぶ巨大な複合施設にスケーター・BMXエリア、レストラン、映画館、アートギャラリー、ライブ会場などを集結させ、Vans独特の世界観を表現しながらブランド発信を行なっている。遊んで体験した、楽しい記憶がVansというブランドに結びつき、ブランドのコアファンになってもらうという戦略をもとに設計。この施設では商品を購入してもらうことが目的ではなく、VANSのカルチャーを体感する場所として確立されている。

日本のリテールテイメントの事例

ワコール – 3Dスキャン技術で自分の体型にぴったり合うサイズを提案

東急プラザ表参道原宿にオープンした、下着メーカーのワコール体験型店舗「ワコール3D smart & try」では、体型を3Dスキャンで計測するという最新テクノロジーを上手く活用した、新しい下着購買体験ができると話題だ。3Dボディスキャナーでの採寸にかかる時間はおよそ5秒、しかも自分一人で完結できるため、販売員に採寸されるのが恥ずかしいという消費者の思いも解消した。さらに2回目以降の採寸は、既存データと照らし合わせて見ることができるとあって好評だ。採寸後は、スタッフまたはAIが、自分にぴったりサイズの下着を提案してくれる。ショールームのような凝ったデザインの店内に加え、自宅への配送や、店舗受け取り、EC経由など、購入方法も自由に選択できる。

サントリー – 定番「BOSS」を自分好みにカスタム

2019年6月に日本橋にオープンした「TOUCH AND GO COFFEE」は、サントリーの定番商品である「BOSS」のコーヒーをスマホから注文でき、その日の気分に合わせて自分好みにフレーバーをカスタマイズできるカフェとして、SNSから話題になり人気が出た。LINEから事前注文・決済が完結。ペットボトルに貼られるラベルステッカーは、名前などを自由にカスタマイズでき、自分だけのオリジナルボトルが持てるとして好評だ。あえて定番の味を顧客が自由にカスタムでき、パーソナライズ性を持たせることで特別感を演出し、今までにない新しいカフェ体験ができる。

店舗体験がブランド力を高める

店舗を単なる商品の購入の場としてだけではなく、顧客をファン化させる体験へと変えるには、顧客に寄り添った目線が必要となる。これまで良しとされてきた、業務効率化や短期視点での損益といった合理的な考えだけでは、アイディア溢れるリテールテイメントは作れない。特にミレニアム世代以降の若者をターゲットにする店であれば、インタラクティブ性、独創性、パーソナライズ性、驚き、感動などが体験できる、リテールテイメントの要素を盛り込んだ”場”の提供が大切であるといえるだろう。またそれにはUXなどを起点としたデザイナー視点を持って店舗設計をしていくことも非常に重要なポイントとなってくる。

これからの実店舗は、顧客へダイレクトに「ブランドの世界観を伝える」「思い出深い体験によりファンを増やす」という目的で設計され、顧客を楽しませることで購買意欲へと繋げていくという新しい時代になりつつあるといえる。

文=佐々木久枝
編集=Showcase Gig

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