
GODIVAが取り組むDXの現在地。モバイルオーダー導入で見据えるwithコロナ時代の生存戦略は
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宅配寿司、宅配釜飯で圧倒的なトップシェアを誇り、バイクや自転車を使ったオンデマンドデリバリーの仕組みを確立し、全国に展開する株式会社ライドオンエクスプレス。その勢いはコロナ禍において一層高まりを見せ、圧倒的な存在感と実績を見せている。
今回は、そんなライドオンエクスプレスで早期からデジタルマーケティングに取り組む渋谷和弘氏に、“フードデリバリーにおける本質的なDX”の今とこれからについて伺った。
※このインタビューは2021年9月に実施したものです。
プロフィール
渋谷 和弘 (株式会社ライドオンエクスプレス)
デジタルマーケティング部 エグゼクティブマネージャー
アパレル商社を経て、印刷会社やITベンチャーなどでデジタルサービスの企画立案・構築に従事。2010年ライドオンエクスプレスに入社後、デジタルサービス全般の企画設計やプロモーション、広告業務等幅広い分野を担当。
——長年にわたりデリバリー領域で先頭を走り続けてきた貴社ですが、改めてその優位性についてお聞かせいただけますか。
ライドオンエクスプレスでは、2001年の設立以来、寿司や釜飯の注文を受けてから調理し、バイクで即時に宅配するビジネスモデルを基本として歩んできました。宅配寿司「銀のさら」、「すし上等!」、宅配御膳「釜寅」など、1拠点で複数ブランドを展開する複合化戦略を採っていて、1拠点につき20~30名の登録スタッフで注文受付から調理、宅配に対応しています。拠点数は現在367拠点です。
また、提携レストランの料理の注文受付、ピックアップ、宅配の代行事業を行う「ファインダイン」も運営しています。「銀のさら」、「釜寅」、「すし上等」等の総店舗数は、全国734店です 。(2021年6月期末)
私たちの強みは大きく4つで、「デリバリーに最適化したフード」「自社配送」「自社販促」「自社チャネル」です。
ライドオンエクスプレスの強みと優位性
中でも重要なのが「デリバリーに最適化したフード」。これはお客様にもっともダイレクトに伝わる部分です。コロナでデリバリーに注目が集まってからまだ1、2年という中で、お客様の手元に届いた後までしっかり想定できているかがその後にリピート注文されるかの分かれ道になります。
例えばピザの場合、調理完了からお届けするまでの時間が経過した時でも美味しいか、また配達後30分〜1時間が経ち、仮に冷めたとしても美味しいかどうかが重要ではないでしょうか。「美味しさ」を保つ工夫が素材選定や調理や配達の過程で随所に必要になります。
その点、「銀のさら」の場合はお寿司なので温かい食事よりも扱いやすいですが、とはいえ鮮度は勿論、調理や一貫一貫の寿司の並べ方など配達後に期待を裏切らないよう、長きに渡り研究し続けてきたという自負があります。
そして次に「自社配送」ですね。サードパーティーのデリバリーサービスで配達を賄っている飲食店が抱える課題の一つが「お届けしたい時に配達員のリソースのコントロールができない(配達員がいない)」こと。その点、私たちのように自社で配送網を持っているというのは大きな強みです。「銀のさら」ではお客様が食べたい時にお届け出来るように自社配送に拘り、注文後、大体30分〜1時間程度でお届けできるようにしています。
加えて「自社販促」「自社チャネル」の機能を持つことでマーケティング活動がしっかり行なえます。
サードパーティーデリバリーを活用すると受注〜配達までの全部を任せられるため短期間でのミニマムスタートがしやすい一方で、表現を変えると、それ以上の接点をお客様と持てないため、単純に“作って終わり”というモデルにとどまってしまうとも言えます。
私たちの場合、自社のアナログチャネル(電話受注)とデジタルチャネル(ネット受注)でお客様と継続的につながりをもち、適切な形で適切なタイミングでアプローチできる環境を整えています。以前は紙のポスティングや折込チラシやダイレクトメールでの販促からの受注がメインでしたが、DX化を推進し蓄積したデータを活用した結果、メルマガやLINE公式アカウントやアプリなどでより効果的なデジタルリテンション施策が実施できて、多くの受注をネット経由にする事ができました。
アプリプッシュ通知に加え、メールとLINEを活用する「銀のさら」。近年Cookie問題により見直されているメールは同社でも大きな効果を発揮。1回のメール配信で数千万円単位の売上に繋がっている。LINE経由のダイレクト注文は月間数億円規模まで売上が伸びており「ターゲットの整理と接触のタイミングの精度を上げれば、さらにダイレクト注文は伸ばせる見込み」と渋谷氏は語る。
——そうですよね。貴社はかなり早い時期からデジタルに取り組まれている印象です。その背景にはどんな課題があったんでしょうか。
そうですね。私が入社した2010年はまだ「DX」という言葉自体が使われていませんでしたが、ベンチマークしていたアメリカのフード業界を見ても顧客の利便性と企業の成長を考えた場合、デジタル化は必須であると経営陣の強い思いもあり、今で言う所の「DX化」に着手した時期でした。
また、当時の注文は9割近くが電話経由でした。現場の店長やクルーが日々メニューのポスティングと注文受付業務に追われていました。この先10年は本質的な顧客サービスに時間を割いたサービスが生き残り、結果末永くご利用いただけると思い、DX化を推進してきました。
海外だと注文・決済・配達・CRMなどデジタルをフル活用してサービスを常にアップデートしていますが、私が思うに今までの日本はそこが本当に遅いし、現状で満足していたため後回しにしていたと感じています。
日本の飲食業界は商品の質や接客のレベルは相当高いと思う反面、価格面では日本だけがデフレのため非常に割安になっています。例えば、アメリカの都市部のレストランで朝食をとろうとするとチップを入れると2,000円くらいかかりますしね。
「フード価格が安くて、サービスレベルも高い」となると、そのサービス提供の工程すべてを人力で補うのは限界があります。だからこそ、デジタルに頼れる部分をうまく活用すれば、働く方の負担を減らしつつ、もっとよいサービスが提供できて、お客様も喜んでいただける状況になるはずです。
急務となっていた業務効率の改善はもちろんですが、そのような体験価値の向上こそが私たちがデジタルを推進する一番の理由でした。
——早期から課題感をもっていたからこそ、コロナ禍も動じない強さがあるんですね。昨年の凄まじい増収もとても印象的です。
ありがとうございます。フードデリバリー業界全体が盛り上がっていて、本来なら3〜5年後にくるはずだったデリバリーやテイクアウトの普及フェーズやDX化もかなり早まったと感じています。弊社のブランドの新規のご利用の方は2020年に続き2021年も増え続けています。
ただ私たちの場合、運営面においてコロナの影響で変えたことは特にないです。多くのニーズに冷静に対応できているのも、実直に今まで行ってきた基本的な事をこれまで通りにブレずに推進しただけです。
直近の売上面に関しては、まず今年4~6月の四半期決算では、コロナによる需要増で大きく伸長した2020年と比較すると若干下がりましたが、とはいえ2019年の通常期と比較すると売上・利益ともに順調に推移しています。私たちからすると、2020年が異常なほどに需要が増したので、今年はもっと落ちると予測していたのですが、意外にもそれほど下がらなかったといった印象です。要因の一つとして早期から積極的にDX化を推進してきたことが幸いしていると分析しています。
株式会社ライドオンエクスプレスのコロナ前後の変化
株式会社ライドオンエクスプレス 2022年3月期 第1四半期決算補足説明資料より
—— 動きの激しいフードデリバリー市場ですが、今後はどのように変化していくと思いますか?
そうですね。2016年に個人的に予測をまとめたことがあるのですが、当時は物販系ECが当日中の配達時間を縮めてくるだろうと見ていました。それが今だいぶ変わってきていて、オンデマンドサービスに3つの分野があると分析しています。以下の図が、2016年時点に出した資料にその変化をふまえてアップデートしたものです。
今後のデリバリー/配達時間の多様化
この図の「ノーマル(フード)」がいわゆる通常のフードデリバリーですが、そこに「ミドル(リテール)」と「クイック(コンビニ)」が入ってきます。「ミドル(リテール)」の分野では軽トラックを利用した食品スーパーです。ヨーロッパなどで増え始めている「クイック(コンビニ)」の分野は、15分程度で配達してくれるものも日本でも出始めてデリバリーのバリエーションが増えてきています。
この3つの分野がこれからの広義の意味での「デリバリーマーケット」、「デリバリーサービス」という事になってくるのではないでしょうか。利用する方々には「購買」という点においては選択肢がたくさんあり、利便性が良い世界観が出来つつあります。
海外も近年変化し続けており、特にアメリカのウォルマートや中国の盒馬鮮生(フーマー)のように、リテールがDX化を推進してデリバリーを中心にピックアップ等を組み合わせながら数年前と比べて格段とサービスが進化しています。日本の場合、経済的にも毎日外食する人はいないですし、フードメニューもバリエーションがたくさんあるので、あとはそれぞれの飲食店やリテールがどこまで配達時間を調整して利便性とサービス品質を上げられるかが焦点になってくると思います。私たちの場合、「寿司」という商材ゆえに「デリバリーに適したフード」という意味では本当に恵まれていると改めて感じています。
—— なるほど。となると、今後はサードパーティーデリバリーの活用方法も変えていく必要がありそうですね。
前提として、私たちはサードパーティーデリバリーが群雄割拠したことは大変良いことだと思っています。働きたい人もデリバリーで頼みたい人も増えたので、日本でもフードデリバリーが都心部を中心にですが確実に広がってきていると感じています。これからは我々も自社配達にプラスしてサードパーティーデリバリーの活用を含め、この先の未来の変化にどう対応していくかについて向き合っている最中です。
今年の4月から「DEKITATE(デキタテ)」という焼肉弁当、牛タン弁当、とんかつ弁当の複数ブランドを束ねた新サービスのお店をオープンしました。そこではサードパーティーデリバリーを複数活用しています。フードデリバリー専業の私たちは「ゴーストレストラン」なので色々なサービスを利用する事に抵抗感はありません。新サービスでは調理に集中し、配達は自社配送とサードパーティーデリバリーを併用して運営しています。全ての工程を自社完結としてきた我々にとっては検証店舗という位置づけです。
——検証を重ねながら、自社としての最適解を見出し続けているのですね。スキル面でも飲食業界に求められる人材には変化がありそうです。
そうですね。デジタル領域に明るいメンバーが社内にいた方が、飲食業界にとっては確実にチャンス繋がる機会が増えると思います。システム開発や広告施策、日々の運用等を外部に依頼する際も自分たちのビジネスに精通し、かつデジタルを理解している事業会社の人財がいないとズレが生じてしまい、満足できる結果を導けないと思います。その点、私たちはDXが取り沙汰され始める前から、デジタルへの投資と人財育成に力を入れてきました。今も店長出身のメンバーと一緒に働いているのですが、現場も知っていて、かつITの知識をどんどん吸収してデジタルリテラシーが高いメンバーがいるので、議論もスムーズにできる環境が10年をかけてやっとできるようになってきました。
—— 適応力が問われますね。マーケティング視点でもデジタル活用は不可欠になってきますよね。
そうですね。やはりデリバリーにおいては、注文された商品を運ぶのは当たり前なのですが、そのブランドのアイデンティティや想いも一緒に運ぶことがとても重要です。
働く当事者たちが、自分たちのブランドや一緒に働く仲間のことが好きかどうかで、運び方も変わってくるかなと思っていて。運ぶところだけ仕事で割り切っているのか、あるいはブランドを背負うチームとして一体感を持ってやっているのかで差が出てきます。
正直、髪型や服装は適正化できても、結局、何かあった時の対応力や発言も「ブランド接点」なので、その接点で何ができるかが大事です。
なので単純に「ネット受注を強化する」とか「テイクアウトを導入する」とか「デリバリーを導入する」とかではなくて、本当にそれが会社とそのブランドにとって必要なのかどうかを考える必要があります。その場を乗り切るためだけの対応だととその後、上手くいかない事が多々あるでのはないでしょうか。
変化の激しい状況だからこそ、本当に自分たちに必要なことは何か、ビジネスモデルをどうしていくべきか、としっかり向き合うことが飲食業界全体に求められている気がしますね。
——だいぶ核心をついたお話ですね。すでにこれまでも様々なデジタル施策を進めてこられたと思いますが、この先もっとやりたいことはありますか?
「ファン化」にはもっと力を入れていきたいですね。
「ファン」は、見返りが無くても純粋に自ら“そのブランドをオススメしたい”という好意的な目で見守ってくれている状態だと思っています。
私が「ファン化」の好例として参考にしているのが、人気のカフェチェーン店や小規模の飲食店です。お客様にも愛されているだけではなく、店員さんがそこで「働くこと」に誇りをもって生き生きとしていますよね。私たちもスタッフの仲間意識や団結力はとても強いのですが、いま以上に飲食業界で働く事に対してもっと誇りと自信を持ってブランドを愛せるようになれると、さらに良いと感じています。
「ファン」を増やすためのアクションの一つとして、デジタルでの接触をもっと高度化していく必要があると思っています。
繰り返しになりますが、これが(自社で配送しないタイプの)サードパーティーデリバリーだとエリア販促も適切なタイミングでご要望に沿えるような提案をターゲット層に定めた販促もできる術がないです。よく「データが大切」と言いますが、シンプルに販促と注文は繋がっているので、いつでもお客様と接触できる状態を地道に構築して、ラストワンマイルにおいて接点の最適化が何かを考え続けることが重要です。
理想は、個人に応じた適切なマーケティングを自動化できる体制。今の時代、お客様対企業のコミュニケーションも「友達」に近い感じのところまで寄っていかないとマーケティングは通用しないかもしれません。タッチポイントで言うと、電話で注文した人にはポスティングやチラシ、LINE経由で注文した人にはそこでのコミュニケーションを手厚くするといった最適化が考えられます。
—— お客様との関係性構築は若年層を中心に日々移り変わっていますね。最後になりますが、デジタルを推進する上で今後どのような視点が求められていくでしょうか。
レストラン等に行くとよく黒板に「今日のおすすめ」と、イチオシ商品が書かれてありますが、私たちのようなデリバリー専業で紙の販促が主体だとそれは難しいですよね。私たちはそこにずっと課題を感じていましたが、ここ1、2年で毎月少しずつ、フレキシブルにオンライン専用の商品を出せるようになってきています。デジタル活用が販促だけではなく商品企画にでも影響を与える状況になってきました。
フードデリバリー領域がDX化に向かい始めてはいますが、まだまだ課題が山積です。個人的にはフード業界の活性化のために「原材料や商品データベースの共通化」など素材や商材データの標準化は実現したいです。サービスを常にアップデートする上で他社システムとの連携が必要な場合、POSや基幹システムとの連携に苦労している企業や担当者がたくさんいます。今よりも簡単に連携できる仕組みを作って、本質的な食の質やサービスレベルの向上に集中できる状況にするべきだと思います。ただ、データ標準化となるとそれぞれの企業の事情があったり、とても地道な開発や体制構築が必要なので、そこを本気で作り込む強い意思が問われます。
コロナ以降、フードデリバリーやテイクアウトの導入は以前より敷居は低くなりましたが、実際には競合もたくさん増えているので、導入される方は本当に自分達の存在価値を今一度見つめ直して何が必要か考える事をお勧めします。
どういうブランドにしたくて、何をすればいいのか、どういう味を作ればいいのかという基本的なところに尽きます。これからはそこまで見据えた展開をしているプラットフォームの土台の上で本質的に戦いたいですね。
—— 貴重なお話をありがとうございました。
「DIG-IN」を運営する株式会社Showcase Gigは、飲食店/小売業態向けにモバイルオーダープラットフォーム「O:der Platform」を軸とした次世代店舗のご提案を行っています。
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など、まずはお気軽にご相談ください。
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