
収束迫るコロナ禍。日本の飲食店が取り組むべきデジタル活用、次なる一手は
2022.05.30
新型コロナ対策
飲食店向け
2021.06.14
新型コロナ対策
飲食、観光、コスメ、レジャー、スポーツ。これらはコロナの流行によってマイナスの影響を受けた主な産業だ。いまこうした産業でデジタル化が加速している。アナログでの体験を前提に規模を維持してきた分野が取り組むDXとは。ホテル・旅館業界で進むデジタル活用と、その可能性に迫る。
2010年代後半の登場以降、日を追うごとに注目度を増している店舗デジタル化ツールがある。モバイルオーダーだ。国内においてはマクドナルドやスターバックスといった大手のファストフード・カフェチェーンを皮切りに、串カツ田中や牛角、くら寿司など、居酒屋・レストラン業態での導入も相次ぐ。テイクアウト・デリバリー市場に参入しているチェーンに限っては、いまや非対応であるケースの方が珍しい。登場から5年ほどが経ち、ようやく普及期を迎えているリテールテックである。
モバイルオーダーとは、スマートフォンから商品を注文できる仕組みのこと。Webサイトやアプリを通じて店内・店外からオーダーを受けることで、待ち時間やスタッフを呼び止める手間などを軽減する。多くの場合、キャッシュレスによる決済機能を兼備しているため、非接触・非対面に限りなく近い形での店舗運営が可能となる。2020年より続くコロナ禍では、こうした特性が感染対策になると受け入れられ、外食産業を中心にさらなる広がりを見せている。
株式会社Showcase Gigが提供する 店内向けモバイルオーダーサービス「O:der Table(オーダーテーブル)」
実は、モバイルオーダーの活用を復調の突破口と考える業界は飲食だけにとどまらない。ホテル・旅館業界もまた同ツールに可能性を見出し、店舗デジタル化を加速させている。
かねてよりホスピタリティ産業であるホテル・旅館業界は、対面を前提にしたアナログでの接客をサービスの基本としてきた。しかし、コロナ禍においては、対面で提供されるサービスこそが感染リスクであるとして客離れが起こっている。そこで、同業界はデジタルを活用し、サービスの質と安心・安全を両立する方向へ舵を切りつつある。実際に、株式会社Showcase Gigが提供するモバイルサービスへの2020年の新規問合せ数は、コロナ前の同期比でおよそ約8倍にものぼっているという。
東京・丸の内にあるパレスホテル東京は2021年1月、毎年恒例となっている年始の期間限定ランチブッフェに、店内向けモバイルオーダーサービス「O:der Table(オーダーテーブル)」を導入した。このブッフェでは、客が自ら料理を取り分けるおなじみのスタイルを、卓上のQRコードをスマートフォンで読み取り、食べたい料理を都度注文する方式へと変更。レストランスタッフがテーブルまで運ぶことで、客同士の接触の抑制を狙った。会場には客席から見える場所でシェフが調理・盛り付けをおこなうコーナーなどが設けられ、例年とは違うブッフェの景色でも特別な体験ができるよう配慮がなされていた。“密”が敬遠される大型の会場でも、それぞれがゆったりと食事を楽しむ様子が見受けられたという。
外食を含めた両分野はコロナ流行以前、慢性的な人手不足に苦しんでいた。帝国データバンクが発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2020年1月)」によると、「旅館・ホテル」は正社員の不足する業種9位・非正社員の不足する業種2位、「飲食店」は非正社員の不足する業種1位となっている。2021年1月の調査でこそ、感染拡大の影響などから順位を下げているが、過去のデータでは、どちらもがほぼ毎年ランキングに顔を出す、言わば常連の人手不足産業である。今後ワクチンの接種が進むことで訪れるであろう急回復期には、それまで以上に労働力が足りなくなるケースも考えうる。コロナ禍での人件費カットを経て、どのように繁忙期を乗り越えていくのか。モバイルオーダーには、業務効率化の役割も求められていくことになる。
①顧客のスマートフォンを通じて注文を受け付けるため、非接触で衛生的
②紙のメニューとは違い、商品の魅力を幅広く柔軟に訴求できる
③多言語対応が容易で、インバウンドの需要にも応えやすい
④受注や支払いにかかる人手を減らせるため、業務を効率化できる
⑤受注や支払いに割いていた人手を、おもてなしのサービスに充てられる
⑥主にレストランなどにおいて、顧客がスタッフを呼び止めることなく自由なタイミングで注文をおこなえるため、客単価の向上が期待できる
ホテル・旅館業界におけるモバイルオーダー活用のメリットは、多くが飲食のシーンならではの課題を解決するものだが、見方を変えれば、その他のシーンへの応用も可能である。例えば、従来電話で受けていたルームサービスの注文を、モバイルオーダーを活用し、顧客のスマートフォンから受ければ、非接触で同サービスを受け付けられるうえ、電話対応にかかる人手も削減でき、余剰人員やコストをおもてなしへ充当することもできる。デジタルへの移行は、衛生的な運営、人に由来するミスの削減、業務の効率化、サービスの質・顧客満足度の向上へとつながる可能性がある。
2017年、米・フロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート(以下、WDW)は、公式アプリ「マイ・ディズニー・エクスペリエンス」(以下、MDX)にモバイルオーダーの機能を実装。同パークでは、アトラクションやレストラン、ショップといった園内のすべてのコンテンツが日常的に混雑しており、その行列問題が来園者・スタッフ双方の負担となっていた実態がある。MDXのモバイルオーダーでは、レストランの事前予約・事前決済が可能で、調理が完了すると、スマートフォンにプッシュ通知が届く。同機能の実装により、WDWでは行列が緩和されたという。現在は同様の機能をファストパスの取得に応用し、UX・運営効率の最大化を図っている。
WDWのみならず、米・ホテル業界では感染拡大を防ぐ目的でのデジタル活用が拡がっている。世界最大のホテルチェーンであるマリオット・インターナショナルでは、自社アプリ「Marriott Bonvoy」により、チェックインからルームサービスのオーダーまでを効率化。グループの一部のホテルレストランでは、テーブル備え付けのQRコードを客自身がスマートフォンで読み取ることで、メニューの閲覧・注文をおこなうデジタル型のオーダー方式が導入されている。その他、ハイアットグループなどもモバイルオーダーの導入を通じ、DXを進めている現状がある。
このように国内外で広がるサービス業界のDX事例。デジタルツールの活用には今後、さらなる注目が集まっていくに違いない。
感染拡大によって高まった消費者の衛生意識は、コロナとの“共生”が達成された後もおそらく緩まないだろう。そのような状況のなかで、ホテル・旅館業界には“beforeコロナ”の運営への回帰ではなく、“withコロナ”、“afterコロナ”の運営へのアップデートが求められていくのかもしれない。海外で先行した店舗デジタル化がやがて日本に到来したように、今後は同業界でもモバイルオーダーをはじめとしたデジタルツールの活用が一般的になると考えられる。アナログ産業として停滞するのか、はたまた、デジタルを取り入れ、新たな体験を提供するのか。ホテル・旅館業界は岐路に立たされている。
文=結木千尋
編集=Showcase Gig
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