飲食店向け

2019.07.30

スタバ新型店舗「Starbucks Now」。中国発の3つの理由

2019年7月、中国・北京に新しい業態のスターバックスが登場した。「Starbucks Now」と呼ばれるこの店舗モデルは、店内にレジを持たないモバイルオーダー専用店舗だという。いったいどのようなコンセプトの店舗なのか。概要を踏まえ、中国発となった3つの理由と、ニューリテールの行く末を探る。

Starbucks Nowとは

Starbucks Nowとは、スターバックス中国が展開する新型店舗モデルの名称だ。2019年7月、北京に1号店がオープンした。同モデルは、スムーズな顧客体験を強みとする。スターバックス中国が掲げるニューリテール戦略のフラッグシップとなるであろう店舗モデルだ。

店頭ではコーヒーをピックアップするだけ。(引用:Starbucks Corporation)

Starbucks Nowは、モバイルオーダー専用の店舗としてデザインされているため、店内にレジを持たない。すべての顧客が専用のアプリを通じて商品を注文し、アプリ上で決済も終える。対面での注文・決済を想定しない設計だからこそ、店頭でのスムーズな顧客体験が可能となっているのだ。

北京にオープンした店舗には、飲食のできる座席が数席と、コンシェルジュカウンターが2つ。見慣れたスターバックスの店舗に比べ、シンプルな設計が目を引く。店内に設置されたモバイル端末からのオーダーも可能で、スタッフがアプリの使い方をレクチャーしていると見られるシーンもあった。

店内の居心地重視してきたスターバックスだが、Starbucks NOWではカウンター数席のみ。引用:Starbucks Corporation

Starbucks Nowには“モバイルオーダー専用店舗”以外に別の役割もある。デリバリー拠点としての役割だ。配達員は、店外に面した窓から商品をピックアップし、スピーディーに配達へと向かえる。従来より簡単かつ迅速な運用が可能となっている。

デリバリーはアリババ傘下の「ウーラマ(餓了麼)」を活用。 引用:Starbucks Corporation

デリバリー拠点の存在は、周辺のスターバックス店舗に好影響をもたらすという。近隣のデリバリーオーダーを拠点に一本化できるためだ。他店舗は店内の顧客に集中できる。サービスの向上に寄与するだろうと、同社は語っている。

Starbucks Nowは、イートイン以上に、テイクアウト・デリバリーに注力した店舗モデルだと言えるだろう。

「Starbucks Now」が中国から生まれた3つの理由

しかし、いったいなぜ、世界的にも新しいニューリテール型の新店舗が、本社のある米国ではなく、中国・北京でスタートしたのか。背景を探ると、3つの理由が見えてきた。

キャッシュレス先進国としての土壌

中国は、言わずと知れたキャッシュレス先進国である。経済産業省が2018年に発表した「キャッシュレス・ビジョン」によると、中国の全決済に占めるキャッシュレス比率は60.0%(2015年)で、これは韓国に次ぐ世界2位の数字となっている。

特にモバイル決済領域が爆発的に伸びており、2強であるアリババのAlipay、テンセントのWeChatPayはアクティブユーザー数が10億人に達するとも言われる。都市部のほとんどの店舗で日常的に使われている現状だ。

このようにStarbucks Nowのシステムを受け入れやすい土壌が、中国において整っていた点は外せない。環境に由来するハードルの低さが、ひとつの要因となっているはずだ。

中国で巻き起こるコーヒーブーム

しかし、理由はそれだけではない。市場の影響もあると考えられる。実は、いま中国でコーヒーブームが巻き起こっている。

中国産業研究院の報告によると、2007年に約1万6,000軒ほどだった中国国内のコーヒー店数は、2018年になり、14万軒を超えた。市場規模は2018年までの5年間で4倍以上に成長。いまだ30%近い増長率を誇るモンスター市場となっている。

2018年の市場規模は約2,100億元(2019年7月の為替レートで、約3.3兆円)。これは、日本の同市場規模に匹敵する数字だ。

一方、国民1人あたりの1日の消費量で比較すると、両者には大きな開きがある。つまり、日本とおなじ水準で消費されるようになれば、さらなる市場拡大が見込めることになる。

こうした市場背景を踏まえ、スターバックスも中国での展開に力を入れてきた。2017年12月、上海にオープンした「Starbucks Reserve Roastery(スターバックス・リザーブ・ロースタリー)」は、その最たる例と言えるだろう。

同店舗は、2014年シアトルにオープンした「Reserve Roastery」の2号店。総床面積はシアトル店の2倍となる2,800平米に及ぶ。店内にはカフェスペースのほか、巨大な焙煎機を展示する焙煎工場、コーヒー図書館、ショッピングエリアなども併設される。飲食店でありながら、観光スポットとしての魅力も兼ね備える世界最大のコーヒー店だ。

上海のStarbucks Reserve Roastery(編集部撮影)

スターバックスによると、今後2022年までに中国国内の店舗数を6,000まで増やす計画だという。毎年600店舗を新たに出店し、ようやく到達する大台だ。同社の成長戦略からも中国コーヒー市場の盛り上がりを窺える。Starbucks Nowの出店も、その一端だと考えられるだろう。

中国におけるデリバリー市場の拡大

また、フードデリバリー市場の動向も見逃せない。

2010年、586億元(同、約9,200億円)だった同市場規模は、2015年に2,391億元(同、約3兆7,000億円)まで成長した。外食産業全体に占めるデリバリーの割合も、3.3%(2010年)から7.4%(2015年)まで高まっている。2018年には、市場規模6,619億元(同、約10兆円)、シェア率14.8%まで拡大する見通しだ。

こうした市場拡大は、O2Oのフードデリバリーによって牽引されているという見方がある。実際にO2Oデリバリーの市場規模は、2011年から2018年までの7年間で、約12倍まで拡大した。キャッシュレス決済の浸透が後押ししている状況とは言え、オンライン経由のデリバリーオーダーがトレンド化している側面も、少なからずあるはずだ。

“中食”需要が増え続ける今日の中国。テイクアウト・デリバリーにも注力できるStarbucks Nowの誕生は、言わば必然だったのかもしれない。

「Luckin Coffee」がStarbucks Nowに与えた影響

中国のコーヒー店と言えば、Luckin Coffeeの話題が記憶に新しい。2018年1月、北京に1号店をオープンし、瞬く間に2,000店舗まで拡大した新興のコーヒーチェーンだ。2019年末には、スターバックスを上回る4,500店舗の展開を目指している。

同チェーンは、全店舗でアプリによる注文・決済の仕組みをとる。これまで人が対応していた業務をデジタル化し、店舗運営の効率化を図るビジネスモデルだ。人件費や賃料のカット、回転率の向上などを実現し、利益を最大化している。

また、テンセントグループ・Meituan(美団点評)との提携でスタートした自社で提供するデリバリーサービスも、同チェーンの特徴だ。配達料は破格の6元(同、約90円)で、35元(同、約550円)以上注文すれば無料となる。Luckin Coffeeのレギュラーサイズラテの価格は24元(同、約380円)。2杯の注文で無料サービスが受けられる設定だ。

中国コーヒー市場において、スターバックスは対Luckin Coffeeの構図で語られやすい。同社が約20年(中国における最初の出店は2000年)かけて増やしてきた店舗を、2年足らずで上回るというのだから、意識せざるを得ないのが本音だろう。

これまで居心地重視の“サードプレイス”戦略で成長を続けてきたスターバックス。Starbucks Nowの展開は、Luckin Coffeeを意識した方針転換とも受け取れる。市場の覇権を握るのはどちらなのか。その動向を注視したい。

中国に見る国内ニューリテールの行く末

日本ではいま、空前のキャッシュレスブームが起きている。2019年に入り、QRコード系モバイル決済が多数登場、いよいよ“現金なし”の暮らしが現実味を帯びてきた。

ともなって外食産業では、モバイルアプリを使った事前注文・事前決済が注目を集める。これらはすべて、リテールテック先進国である中国が歩んできた足跡だ。

2019年6月、都内56店のスターバックス店舗でモバイルオーダーの活用がスタートした。アメリカや中国、韓国などに遅れること数年、満を持しての導入である。同社によると、2019年末までに300店舗まで拡大、2020年内には全国での運用を目指すという。

アメリカでは、既に売上の16%がアプリ経由で注文されているというデータもある。今後日本でも、そうした店舗利用が増えていくはずだ。その先にあるのは、“日本版Starbucks Now”の誕生ではないだろうか。

中国とおなじく、テイクアウト・デリバリー市場が盛り上がりを見せる日本。現状の普及状況を鑑みると数年は遅れるかもしれないが、いつかStarbucks Nowのような店舗モデルも現れるに違いない。

 

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

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