飲食店向け

2019.10.15

圧倒的な店舗体験。スタバが「RESERVE ROASTERY」を展開する理由

小売の分野において、何かと話題に上りやすいECと実店舗。この2つを使い分ける明確な基準を設けているだろうか。スターバックスは、私たちにひとつの可能性を示している。これからの時代に、実店舗だけが顧客に提供できる価値とは。

同社が展開するSTARBUCKS RESERVE ROASTERYの事例から、実店舗の未来を紐解いていく。

STARBUCKS RESERVE ROASTERYでできる圧倒的体験とは

東京・中目黒のSTARBUCKS RESERVE ROASTERY(引用:Starbucks)

STARBUCKS RESERVE ROASTERY(スターバックス リザーブ ロースタリー)は、世界に6店舗しかないスターバックスのフラッグシップストアだ。2014年12月、シアトルに1号店がオープンして以降、ミラノ、上海、ニューヨーク、東京と世界規模での出店が続き、2019年11月にはシカゴに6号店がオープンする。

同モデルは、“体験型店舗”としての特徴を持つ。店内では大型焙煎機が営業中も稼働しており、来店客は見学が可能だ。また、各所にあるバーカウンターでは、飲食をしながらスタッフとの会話が楽しめる。他にも、コーヒーにまつわる書籍を集めたコーヒー図書館、ゆったりとくつろげるラウンジスペース、スターバックスの商品やグッズなどを置くショッピングエリアに、コーヒー豆の貯蔵庫など、多くのエリアが併設され、それぞれの楽しみ方で店舗を満喫できる仕様だ。さながら“コーヒーのテーマパーク”といった店舗モデルとなっている。

東京・中目黒にオープンした5号店、「STARBUCKS RESERVE ROASTERY TOKYO」の外観設計は、著名な建築家である隈研吾氏によってデザインされた。日本の自然美である木の風合いが印象的な品格のある建物だ。

このようにSTARBUCKS RESERVE ROASTERYには、ラグジュアリーさを演出する工夫が多く用意されている。バリュアブルなメニューもそのうちのひとつだ。

中目黒の店舗では、既存店舗と完全に区別されたドリンクメニューが常時100種類以上、フードメニューには、併設されるミラノ発の人気ベーカリー「プリンチ」の提供するパンなどが並ぶ。窺えるコンセプトは、“高くても価値を感じられるもの”。平均価格は1,000円強で2,000円台のメニューもあるが、割高感を感じない。価値の伝わる商品だからこそできる、強気の価格設定だ。もちろん、演出された空間で提供される味の体験であることを忘れてはならない。こうしたメニューのプロデュースにも、同モデルの体験重視の姿勢を垣間見れる。STARBUCKS RESERVE ROASTERYは、「他にはない体験が得られる特別な場所」と定義づけられているようだ。

引用:Starbucks

圧倒的体験の先にあるもの

そもそもスターバックスは、家でも職場でもない“サードプレイス”として店舗の居心地を重視してきた。STARBUCKS RESERVE ROASTERYの展開は、その方向性に磨きをかけるアプローチとも取れる。オープンから半年以上が経った現在でも、中目黒の店舗は多くの来店客でにぎわっている。

しかし、世界に6か所しかない店舗に顧客が殺到したところで、同社の業績に対する影響度は小さい。ベースを支える既存店舗の売上につながらなければ、有意義な投資とは言えないだろう。STARBUCKS RESERVE ROASTERYでできる圧倒的体験は、既存店舗にどのような影響をもたらすのか。その裏にはトレンドのマーケティング概念であるOMOの存在がある。

OMO(Online Merges with Offline)とは、オンラインとオフラインのマーケットを融合し、ひとつの大きなマーケットと捉える考え方だ。これまで考えられてきた、O2O(Online to Offline)やオムニチャネルのように、“両者の間にある垣根を認めながらシームレス化を目指す”概念とは一線を画する。近年、リテールテック先進国であるアメリカや中国を中心に、このOMOの考え方が浸透を見せている。

世界で進む店舗デジタル化においては、モバイルオーダーやオンラインデリバリーなどの普及により、オンとオフの境目が曖昧となってきた。スターバックスの店舗を利用するケースでも、オンライン経由で事前に注文し、店頭では商品を受け取るだけといった購買行動が世界的に増えつつある。そのような社会において実店舗は、“企業がブランド価値を発信し、顧客の信頼を獲得できる”貴重な接点となるだろう。

スターバックスの「モバイルオーダー&ペイ」がApple Payのユーザー数を超える理由

STARBUCKS RESERVE ROASTERYの展開に見るスターバックスの取り組みも、これにあてはまる。同店舗は――既存店舗と差別化された――顧客との特別な接点だ。提供された圧倒的体験により、顧客のロイヤリティは向上。感動はSNSやブログ、グルメサイトなどで共有され、触発されたサイトビジターが最寄りの既存店舗へと来店する。マスメディアで広告を打たず、SNSに力を入れ成長してきたスターバックスだからこそとれるマーケティング戦略だ。STARBUCKS RESERVE ROASTERYは、同社のOMO戦略を象徴する店舗とも言える。

また最近になって、STARBUCKS RESERVE ROASTERYのコンセプトを取り入れた新型店舗の展開も始まっている。2019年9月、既存店舗を全面改装してオープンした「スターバックス リザーブ ストア 銀座マロニエ通り」は、新業態「スターバックス リザーブ ストア」の1号店だ。同店舗では、STARBUCKS RESERVE ROASTERY TOKYOと同様、スターバックスリザーブブランドのコーヒーやイタリアンベーカリー「プリンチ」のパンを楽しめる。2階の一部にはWEBから予約可能な座席を備え、待ち時間のない利用も可能だ。オンラインオーダー時代の到来を感じる新スタイルの店舗となっている。

(引用:スターバックスコーヒージャパン株式会社)

デジタル化を迎える小売のマーケット。今後は、利便性のEC、体験の実店舗という構図が色濃くなると予想される。オフラインの体験が、オンラインでの宣伝につながり、オフラインの集客へと着地する。OMO時代の店舗戦略を考えるとき、STARBUCKS RESERVE ROASTERYの例は、ひとつのモデルケースとなっていくに違いない。

“テーマパーク化”する実店舗

体験重視のテーマパーク化を見せる店舗事例は、STARBUCKS RESERVE ROASTERYだけにとどまらない。

2018年11月、アメリカ発の世界的スポーツウェアブランドであるNIKEは、新たなフラッグシップストア「Nike House of Innovation 000」をニューヨークにオープンした。同店舗は、地下1階・地上5階の6つのフロアからなり、様々なカテゴリの商品を横断的に取り扱う。約6,300平米のフロア面積も特徴だが、特筆すべきは“体験”に注力する点だ。

同店舗には売り場の他に、商品をカスタマイズできるエリアや、NIKEのエキスパートからカウンセリングが受けられるエリア、試着した状態で様々なシチュエーションを試せるエリアなどが併設される。どれも実店舗ならではの“体験”に重きを置いたエリアで、スターバックスの例と同様、オフラインである意義が見出だせる設計となっている。

引用:NIKE

また、商品に付属するQRコードを専用のアプリで読み取れば、スムーズな試着と購入も可能だ。アプリ上には「試着希望」や「すぐに買う」ボタンが用意され、試着の場合は試着室に、購入の場合は店内設置のデジタルロッカーに、スタッフが商品を持って現れる。OMO視点でも先進的な取り組みを見せるテーマパーク店舗が、Nike House of Innovationなのだ。

この他にも、ポップアップで体験型店舗を催すブランドは少なくない。実店舗だけが提供できる体験の価値が今、見直されつつある。

OMO時代に実店舗が担うべき役割を再考する

ECの登場と隆盛、店舗デジタル化といった時流のなかで、私たちは実店舗を利用する価値をもう一度考える必要がある。はたしてECは実店舗の機能すべてをカバーできるのか。おそらく答えはノーだ。

スターバックスの挑戦は、この境界を明確にするものだと言える。モバイルオーダーやオンラインデリバリーを通じて融合するオンラインとオフラインのマーケット。そこで実店舗が掲げるべきコンセプトは何なのか。STARBUCKS RESERVE ROASTERYには、未来の実店舗像が映し出されている。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

米・スターバックス、モバイルオーダーのピックアップ専門店をオープン

スタバ新型店舗「Starbucks Now」。中国発の3つの理由

この記事のキーワード

関連記事

TOPへ戻る