小売店向け

2019.08.30

音声AIと店舗効率化。スマートスピーカー時代に変わるUXの現在地

「OK Google」

デジタルネイティブ世代だけでなく、誰もが一度はこのフレーズを耳にしたことがあるだろう。全世界で加速するスマートスピーカーの普及は、2021年までにタブレット端末を追い越すとも言われている。

AIによる音声アシスタントが当たり前となっていく時代。同技術は実店舗における顧客体験をどう変えていくのか。日本の実情を踏まえ、音声アシスタントと実店舗の“今”を考える。

スマートスピーカーを取り巻く日本の実情

まさに今、暮らしに定着しつつあるテクノロジーのひとつに、スマートスピーカーがある。対話型の音声アシスタント機能を搭載し、声による操作が可能となっているITデバイスだ。音楽の再生やネット検索、連携家電のコントロールなど、用途は幅広い。人工知能を持つ特性からAIスピーカーとも呼ばれる。

(iSTOCK)

同デバイス市場では、AmazonGoogleAppleFacebookMicrosoftといった名だたる企業が開発・改良に勤しみ、覇権の獲得を狙う。自社開発の音声アシスタントを抱える企業が、競争を一歩リードする格好となっている。

2019年2月、電通デジタルが発表した「スマートスピーカー利用実態調査」によると、国内においては、約76%の人が同デバイスを認知しているという。その一方で、内容や特徴まで詳細に理解する人は約18%にとどまり、所有率となると約6%まで限定される実情も明らかとなった。認知と普及の間に大きな隔たりがある。

世界規模で見ても、日本のスマートスピーカー普及率は低い。日本に本社を置く経営コンサルティング会社、デロイトトーマツコンサルティングの調査では、中国で20%以上、イギリス・オーストラリア・カナダで約10%の普及率となっている。同調査における日本の水準は約3%。調査対象となった先進各国の中でも著しく低い数字だ。アメリカの成人においては、26.2%が所有するデータもある。世界中で広がるスマートスピーカーブームに、日本はやや取り残されている実態がある。

音声アシスタント、アリババに見る先進事例

スマートスピーカーのような人の声で操作できるインターフェースを総合して、Voice User Interface(以下、VUI)と呼ぶ。近年、リテールテック先進国を中心に、最先端のVUIを実店舗へ導入する動きが強まっている。

中国でIT事業などをおこなうアリババ・グループ・ホールディング(以下、アリババ)は、音声のみでオーダーを完結できるKiosk(キオスク)を開発した。AIによる音声認識や顔認証などを駆使し、オーダー時間の短縮を狙う、店舗効率化ソリューションだ。

2018年5月、中国で開催されたフォーラム「雲棲大会・武漢峰会」で、同社はこのソリューションを披露。実施されたデモンストレーションでは、順序が入り乱れた複雑なオーダーも正確に受けられた。おこなわれた注文内容はこうだ。

「ラテを2杯、アイスでお願いします。氷少なめで、ミルク入りで、うん……あとカプチーノを1杯、砂糖少しでお願いします。そうだ、ラテは店内で、他はお持ち帰りでお願いします。おっと、全部ラージサイズで」

このように複雑なオーダーは実際の状況でもままある。内容の確認に時間を取られたり、通したオーダーが間違っていたり、と効率的な店舗運営のボトルネックとなっていることが少なくない。アリババのKioskのケースでは、人間が2分37秒かかったオーダーを、AIは50秒で完了した。飲食店に不可欠とも言えるオーダーのシーンで、3分の1にまで効率化を実現した。

従来型のVUIは、一問一答のシステムが基本だ。しかし、実際の飲食店においては、上記のような対話によってオーダーが進行するケースも珍しくなく、都度立ち止まってしまうシステムは効率的ではない。スムーズなオペレーションのために、対面注文やタッチパネル操作といった方法が選ばれていた。

近年になって開発が進む最先端のVUIは、一問一答ではない複雑な音声にも対応できる。おなじくアリババが開発するカスタマーサービス系VUIでは、オペレーターの4割減(2016年比での2017年の数字)に成功。解決率は95%以上というデータもある。音声アシスタントの開発により、店舗は確実に効率化へと向かっている。

店舗の視点で見るVUIの導入

一方、店舗経営側も音声アシスタント導入へ前向きに取り組む。

2017年、米大手ファーストフードチェーン、Dunkin’Donuts(以下、ダンキンドーナツ)は、モバイル向けのカーナビゲーションアプリWaze(以下、ウェイズ)と協働し、音声アシスタント経由でのオーダーを可能にした。移動中に店舗が近づくと、カーナビの音声アシスタントが自動で注文を聞く仕組みで、あらかじめアプリ同士を連携させておけば、運転中にダンキンドーナツのアプリを起動する必要はない。店舗側は調理時間を確保でき、顧客は最小限の待ち時間で商品が受け取れる。音声アシスタントを活用した店舗効率化の好例だ。

同社は、2018年以降、Google アシスタントAmazon Alexaといった音声アシスタントのメインストリームと次々に連携を発表している。今後は、カーナビだけにとどまらず、家庭にあるスマートスピーカーや、スマートフォンの音声アシスタント経由など、あらゆるチャネルからオーダーできる未来がやってくるだろう。

公式アプリを開いているときだけでなく、家の中でも車の中でもあらゆる場所でVUIによってつながり、顧客とのタッチポイントを保ち続けることができる同社は店舗デジタル化の急先鋒として語られる機会は多い。

引用:Dunkin’ Donuts

また、国内でも音声アシスタントを店舗へ導入する企業が登場している。

2019年2月、株式会社モスフードサービスは、自社が経営するハンバーガーチェーン『モスバーガー』の関内店において、音声操作でオーダーする無人レジ導入の実証実験をおこなった。

同システムは、注文から精算までをスタッフなしで進めるセルフレジで、音声による操作のほか、従来のタッチ操作も可能とする。レジ上部にはカメラが設置され、撮影された顔情報をもとに、顧客の年齢や性別、注文履歴に応じた商品をレコメンドする機能も備えた。

2月15日から27日の日程でおこなわれた実験では、曖昧なオーダーに対応したものの、発話までの時間や、セットメニューへの柔軟な対応など、課題も散見された。“スマートスピーカー後進国”とも言える日本においては、顧客側の習熟度まで含め、解決すべき点が多いかもしれない。

VUIが顧客体験を変えていく

現在、過渡期と言える店舗デジタル化においては、セルフレジやタッチパネルといった非対話型のオーダーシーンが主流となっている。応対スタッフを省人化することで、人手不足の時流に合わせている状況だ。しかしながら、日本のように認知から先が遅れている国にとっては、こうした環境に抵抗感を示す声も聞かれやすい。店舗利用が個人のデジタルリテラシーに影響されてしまうデメリットもあるだろう。

複雑なオーダーに対応できる音声アシスタントの登場は、こうした状況を打破する可能性を持つ。店舗では、誰もがレジスタッフと話すように注文し、時には適切なレコメンドがKioskから提示される。もちろんそこにデジタルリテラシーが関与する隙はない。完成されたVUIには、タッチパネルさえ必要ないためだ。

店舗デジタル化が現在進行形で進む昨今。実店舗にVUIが溶け込む未来は訪れるのか。その可能性を世界中が模索している。

文=結木千尋
編集=Showcase Gig

 

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